第2話 全知の書
ある夜、屋敷の周りには十数名のお金に困窮する冒険者が集まっていた。
そして深夜12時を回った頃、その襲撃が始まった。
夜中まで研究を続けている僕は、窓ガラスが割れる音に気づき身構えた。
強盗だろうか、だとすると一番心配なのはじいちゃんのことである。
今できる最善の策は、じいちゃんを連れ大事なものをこの地下室に持ってくること。
俺は侵入者たちに見つからないように地下室から静かに這い出る。
しかしじいちゃんを探しに書斎に行ったその時、
「悪いな、俺たちも生活がかかってる。」
と言う声が聞こえ、そのまま鈍い痛みと共に意識が暗転していった。
◆◆◆
襲撃は成功した。
家主は2人で子供と老人だった。
あとは核を運び出し、家に火を放つだけだ。
しかしここからが大変な作業だ。
どれが価値のある核か俺たちにはさっぱりわからない。
やはりあのジジイを起こして吐かせるしかない。
抵抗されても困るが、あの痩せた体じゃ大した力は出ないだろう。
少し痛めつけてやれば吐くかもしれない。
◆◆◆
意識が戻り、薄く目を開けるとそこには倒れ込む何かを踏みつける人影が見えた。
やがて意識がはっきひし、頭に激痛を感じた。
目がはっきり見えるようになり、さっきの人影を見るとじいちゃんが痛めつけられているようだった。
「少し協力してもらおうか。俺たちが知りたいのは、どの核の価値が高いかってことだ。これ以上痛めつけられたくなきゃさっさと吐け」
「誰なんじゃあんたたち…それはわしらの大切なものだ、簡単にやるわけにはいかんのじゃ…」
「じゃあ痛みが増すだけだぜ?行くぞっ!」
周りにいた男たちにじいちゃんは袋叩きにされるも縛られていて抵抗することができない。
やがてじいちゃんはぐったりとし、何も発さなくなってしまった。
それ見るなり男たちは僕の方へ向かってきた。
次は僕の番だった。
僕の心が折れるのも時間の問題だった。
鍛えてもいない僕は痛みに耐えられずあっさり場所を吐いてしまった。
男たちはその棚のほうへ向かって歩いていった。
その隙に、僕は地下室へと這っていく。
やっとの思いで地下室に潜り込むが、体の痛みが激しくとても太刀打ちできるような状況でもない。
しかしじいちゃんは今ならまだ助かるかもしれない。
僕は何を思ったか全知の書を手に取り、地下室から出た。
そして核に気を取られている男の1人を持てるあまりの力で殴った。
はずだった。
しかしその腕は1人の大男に止められた。
「あっしの助けを借りるとは、そこらの冒険者風情じゃやはり力不足かの。」
その大男は、フロイドの従者の1人であった。
「あっしの仰せつかった任務は、ある書物の回収。それは全知の書というらしいが」
「やめ、やめて…」
「おとなしく場所を吐けば悪いようにはせん」
それだけは渡すわけにはいかない。
「もう…ここには…全知の書は…ない…!」
「無駄足だったか。よし、撤退だ。貴様らもついてこい」
そう大男がいうと冒険者たちは撤退の準備を始める。
その時、アルトはある声を聞いた。
『力が欲しいか?』
「ち…から?」
『ああ、己も大切なものも、全てを守ることのできる力だ』
「ほし…い、ちから…がほしい…!」
『そうか、ならば私が手を貸してやろう』
「力…をか…せ!"メフィスト"…!」
アルトはこの上ないほど力を望んだ。
自分と大切なものを守るために。
そのためなら生活に困窮する彼らを糧にすることも構わないと。これは、『契約』であると。
次の瞬間、全知の書が勢いよく開く。
そこから現れたのは、
その悪魔はアルトの体を借り、彼に驚いた冒険者の落とした核を一つ拾い何かを唱えると、その掌の上に大きな
「持っているのを隠していたか!まずい、早く退くのだ!私が抑える!」
『目障りだ、俺の前から消えろ。【
人のものとも悪魔のものとも取れない彼の声は大きく響いた。
屋敷は火に包まれ、冒険者たちは業火に消し去られ、大男は大きな火傷を負い逃走した。
そしてこの襲撃事件は終結したのであった。
しかし、その夜祖父を失ったアルトの悲痛な叫び声は絶えなかった。
そうしてアルトはあの大男に復讐を誓った。
「じいちゃんの命を奪ったうえに逃げおおせたあいつは、絶対に許さない!」
祖父の亡骸を埋葬し、一息ついて気持ちを落ち着けた。
すると悪魔が話しかけてくる。
『アルト、我が主人よ。私の名はメフィストフェレス。知恵を司る悪魔。そしてお前は今この時をもって、核術師の職を継いだ。』
「核術師…?」
『まあ、細かい話はまた今度するとしよう。何か体に異常はないか?』
「特にない。」
『そうか、それは良かった。』
アルトは火事で家と祖父を失った。
しかし新たな相棒を得ることとなったのだった。
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