第6話

 狼達がやってきてしばらく経った、てか一か月くらい経ってる気がする。彼らは野生の狼だし体力が回復したら出ていくかと思っていたが、完全に住み着いた。例の大木の根本を寝床に子育てに励んでいる。

「キャン!」

「イチカちゃんこの皮干してるから引っ張っちゃダメよ! ニコちゃんミミちゃんも土地から出ないでね」

 狼達はここで暮らすことを決めたらしいので名前を与えた。まずパパはセッカ、ママはフブキそして子供の五姉弟は上からイチカ、ニコ、ミミ、シロー、ゴモクとなった上三匹がメスで下二匹がオスだった。子供たちはすっかり元気になりやんちゃに遊んでいる、特に上のお姉ちゃん達がやんちゃでアズハにすごく懐いていて毎日楽しそうだ。

「シローちょっと牙生えてきたね、もうすぐ乳離れかな?」

 シローはセッカと一緒に土地を見回ってくれている、多分パパの真似してるんだと思う。ゴモクはおっとりしているようでフブキの横でよくゴロゴロ日向ぼっこしている。基本的にはフブキも木の下でのんびりしているが子供達をしっかり見ているようでたまにやんちゃなお姉ちゃん達を連れ戻しに行ったりしている。

「ワン!」

 シローと遊んでいるとセッカがウサギを狩って帰ってきた。ウサギってカワイイ生き物だと思っていたんだけど一メートル越えは流石にあれな気がする……フブキは子供達の面倒を見ているため拠点周辺からほぼ動かないがパパのセッカは土地の見回りの他に森に行きお肉を狩って持ってくるのだ。

「今日三匹目だしセッカ達で食べちゃいな」

「ワン!」

 セッカの頭を撫でながらそう言うとウサギを持ってフブキの元へと走って行った。シローもそれについて行く、めっちゃかわいい。

「溜池も作ったほうがいいかなぁ……」

 畑の水やりは俺がアクアブレスをばら撒けばいいから問題ないが生活用水とかいろいろ考えると作ったほうがいいのか考えている。そしてこの世界はやはり地球と違う、何が違うかというと畑の作物の成長速度が全然違う、めっちゃ早いのだ。アズハに聞いたところこの世界では土の中にもマナが作用しており、だいたい長いものでも二カ月くらいで収穫できるサイズに成長するらしい。

「葉野菜がいよいよ収穫できそうかな」

 現在土地の畑ではアズハが持ってきたいろいろな野菜を育てている。キャベツや白菜、こまつななどの葉野菜にナスやトマト、ニンジン、大根、トウモロコシと多岐にわたる。ついでに保存食としてジャガイモも持ってきていたが芽が出てしまっていたので種イモとして量産を試みている、焼き畑が効いてるのか今のところ順調で食糧事情も解決してきている。

「タカト! 作業終わったよっ!」

 アズハが後ろから抱き着いて来たのでそれを受け止める。

「アズハ、お疲れさま!」

 セッカ達が来てから俺とアズハの関係も進展した。早い話があの家族が羨ましくなったのだ、ある日俺はアズハに告白、プロポーズして正式に夫婦となりその晩、俺は地球の魔法使いの資格を喪失した。最近は寝不足でアズハが起きてくるのが遅い時が多々ある、少し気を使うべきなのだろうが大好きすぎて止まらないのだ。ちなみに結婚初夜の翌日、何かを察したのかセッカとフブキがすごく祝福してくれた。

「明日あたり山菜取りに行こうと思うんだけど?」

「一緒に行く?」

「うん!」

 もちろん畑の野菜が成長するまで肉だけで生活していたわけではない。森に入り食べられる山菜や果物を採取して食べている、俺が一緒に行けない時はセッカがアズハについて行って護衛したりしてくれるのでめっちゃ助かっているし二人とも出かける時はお留守番をしてくれるためすごく助かっている。

「今日はちょっと遠くまで行ってみる?」

「うん、なんか新しいのあるかもしれないしね」

 翌日、俺とアズハは探索をかねて山菜取りに向かう。ドラゴンモードでたくさんの荷物を運べるように雑ではあるが木の大籠を作って背負っていく。

「セッカ、お留守番お願いね!」

「ワン!」

 右手にアズハを乗せて背中に雑籠を背負い俺達は探索に出発したのであった。

「タカト、北の山ちょっと行ってみない?」

「そっちってアズハが逃げてきた方向だよね? 大丈夫?」

 切り株のお陰で方角がわかりいろいろ調べた結果、アズハは北の山を越えてこの森に来たことがわかった。つまり北の方に人の街があるということになる。

「うん、それに人里に近い方がいろいろあるかもだし。タカトが守ってくれるんでしょ?」

「もちろん! 任せて!!」

 俺達は北の山へとやってきた、いい場所がないか上空から様子を見ていると何か騒がしいことに気づいた。

「アズハ、なんかやってるみたい、しっかり掴まってて」

「うん」

 魔法には使い方がいろいろある、自分の周囲に光の屈折を利用した迷彩結界を構成して姿を隠す周りが似たような環境の森や空中ですごい効力を発揮する。これは俺が動画を見て閃いたオリジナル魔法でミラーハイドと命名した! ミラーハイドを展開して騒ぎに近づき様子を窺うことにする。

「あれは人だね、鎧を着てるみたいだけど、どこかの軍?」

「あれ、私の領地を襲ったシャジャル帝国の兵士だと思う」

 アズハが震えているのがわかる、いっそ薙ぎ払ってしまおうか……

「誰か襲われてるみたい」

 そう言われてよくよく見てみると兵士達が武器を構えじりじりと何かを追い詰めているようだ。人かな? 金髪の子が多い気がする、そして長い耳。エルフだ!! 異世界の王道種族キター!!

「タカト、助けてあげれない?」

「いいの?」

 アズハは震えているようだったが強い意志は感じる。

「うん」

「わかった、しっかり掴まってて!」

 俺は咆哮を上げ魔法を解除した。エルフを追い詰めていた兵士達が慌てだしたのが見える、そのままエルフと兵士の間に盾となるように着陸し尻尾を振り回し兵士を薙ぎ払う。

「黒い、ドラゴン?」

 エルフが唖然としながら呟き兵士達がパニックに陥った。

「なぜこんなところにドラゴンが居る!?」

「こんなのが居るなんて聞いてねぇぞ!?」

 エルフの元にアズハを降ろし雑籠を置き事情を説明してもらう。

「大丈夫?」

 エルフ達は困惑しているようだがとりあえずゴミ掃除をしよう。パニック状態の兵士に向き直り再び咆哮を浴びせるとパニックが更に大きくなっていく。

「アズハを怖がらせた罪、死んで詫びろ!」

 まず正面の兵を叩き潰す、地面にめり込むようでアニメみたいな潰れたトマトはできなかった。更に二人目を踏み潰し、三人目を尻尾で吹き飛ばし四人五人と次々肉塊に変えていき最後に残った集団をファイヤーブレスで焼き払い消し炭にした。

「タカト~」

 アズハに呼ばれエルフ達の元へ向かった。全部で五人かな? 全員女性で怪我をしているようだった。

「アズハ、大丈夫? 怪我はない?」

「私は平気だけどエルフさん達が……」

 アズハと話していると代表各であろうエルフが話しかけてきた。

「偉大なる黒き竜、助けていただきありがとうございます。なんとお礼を申せばいいのか……」

 見た感じ彼女の傷は浅そうだが他の娘達には骨折していたり重症の者も居るようだった。

「礼はいい、それよりお前たちは?」

「私達は集落を失い、放浪の身であります……この山を越えようとしたところ、シャジャルの人狩り部隊と遭遇してしまいまして、危ないところを本当にありがとうございます」

 彼女は深々と頭を下げてきた。人狩り部隊とは、早い話が奴隷収集部隊で文字通り人を狩り持ち帰るのが仕事の部隊である。ちなみにエルフは高値で取引されるため本当に危なかったようだ。

「そうか……」

 俺は人の姿に戻ってみせた、するとエルフ達は本気で驚いたような顔をしている。後で聞いた話だが、最上位の竜でなければ姿を変えることはしない、というかできないらしい。

「怪我もしているし、行く当てがないなら俺達の住処に来るか?」

 アズハの肩を抱きながら聞いてみる。エルフ達は顔を見合わせ、これまた驚いているようだった。

「よろしいのですか?」

「俺とアズハしかいないし構わないよ。アズハが良ければだけど」

「私は大歓迎だよ」

 やっぱり俺の妻の笑顔は最高です! とか思っていたらエルフ達は片膝を付き頭を下げてきた。

「是非お願いいたします!! どうか、我々に竜王の加護を!!」

 俺は再びドラゴンモードへと変身し、籠の中にエルフ達を乗せてあげた。

「少し待ってて、せっかくだからちょっと物資貰っちゃおう。アズハ、手伝って」

「わかった~」

 ちょっと調べてみたんだが携帯食料と剣や槍くらいしか目ぼしいものはなかった。鎧とかは兵士ごと壊してしまったから使い物にならなかった。

「タカト、あれ見て」

 アズハに言われてみると車輪が壊れて動かない荷車に繋がれ絶望してる二匹の馬が居た。

「馬が居ると何かと便利!」

 つまり連れて帰りたいということだろうが、どうやって持って帰ろうか……

「私が魔法で眠らせるから抱えて行こ」

「おっけ~」

 アズハが馬二匹を魔法で眠らせてくれたので繋いでいた荷車から外して抱えて持って帰ることにした。

「アズハ、しっかり掴まっててね」

「大丈夫」

「じゃあ帰ろう」

 俺達は山菜取りに来たはずが、エルフの女性五人と馬二頭を手に入れたのだった。これは予想外の想像以上の収穫だろう。

「すごいですね……」

「タカトの背中は乗り心地いいでしょ?」

「ドラゴンに乗る日が来るなんて思いもしませんでした」

 とりあえず俺達はこのまま拠点へと帰るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る