第3話

「えっと、首は落としちゃっていいの?」

「はい! で、おへその辺りから首に向けて切って内臓も全部出しちゃってください!!」

 ドラゴンになってと言われて何がしたいのかと思ったら、熊の解体だった。確かに美味しそうなお肉がそこに転がってたら食べないともったいないとは思うがドラゴンになってやることがお肉の解体とは……

「わかった、これでいい?」

「はい、大丈夫です! このまま血抜きしながら私が今住んでる洞窟まで行きましょう。こっちです!」

 そう言うとアズハは森の中を歩きだした。俺はその後を後ろ足で立って二足歩行でゆっくりついて行く、片手で熊の後ろ足を掴んでぶら下げながら。ちなみに内臓と頭は土を掘って埋めました。

「アズハさん、乗りますか?」

「え? いいんですか?」

「どうぞ」

 そう言って暇をしている右手を差し出した。アズハはちょこんと右手のひらに乗って道を案内しはじめた。やってみたかった人を乗せるが叶ってちょっと嬉しい。そしてこうやってみるとこの熊、結構デカい。四メートルくらいありそうだった。

「こんな危なそうな獣が居るのに、よく一人で生きてこれましたね」

「実は私もここに来たのはつい最近なんです。なるべく気づかれないようにこっそりしてたんですけど、食料が無くなってしまって……」

「なるほど、助けられてよかった、運が良かったよ」

「はい!」

 ニコッと微笑むとめっちゃかわいい! 助けられてよかった! なんか訳アリみたいだけどそこは自分から話さない限り聞かない方がいいだろう、俺は空気の読めない朴念仁主人公とは違うのだ!

「あ、あそこです」

 アズハが指を指した場所は森にできた大きな穴という感じだった。ドラゴンの姿だとちょっと入れないかなぁ……

「縄を持ってきますのでそれで熊を木にぶら下げちゃいましょう」

 そういうと洞窟の中に入り、しばらくして縄を持って戻ってきた。一度熊を降ろして足を縛ってもらい、木にぶら下げたら落ちないようにまた縛ってもらった。

「これでまだ生きていけます! タカトさんありがとうございます!!」

 俺は人の姿に戻る。状況によって姿を使い分ける、これは生活するうえで鉄則だろう。

「なにも無くて申し訳ないんですけど、ゆっくりしてください!」

 洞窟の外は木が生い茂って見通しがすごく悪いし特に物があるわけでもなかった。

「洞窟の中見てもいいですか?」

「あ、どうぞ!」

 アズハはそう言いながらナイフで器用に熊の皮を剥がし始めている、その間に俺は洞窟の中を見せてもらうことにした。

「あんまり深くないんだ」

 洞窟というより穴のような感じで浅い、中は最低限生活してますという雰囲気だろうか? 焚火の跡にあれは多分持ってきた必要最低限の物資に大量の草を集めてその上に毛布を敷いた簡易的な寝床とホントに生存ギリギリという感じだろう。てか原始人みたいな巣というイメージが近かった。

「これは、骨? 馬かな?」

 そして隅っこに何かの骨が山積みになっていたが頭蓋骨的に馬だと思う、前に見たことあるしたぶんあってる! そういえばあの最低限の荷物も馬に背負わせてたと考えると頷ける。

「すみません、汚い場所で……」

 アズハがやってきた、手は血に汚れている。洗う水もないのかな?

「アズハさん、この骨って?」

「私の元住んでたとこの馬です、こう見えても領主の娘だったんですよ……」

 領主の娘なのに血抜きとか動物の解体できるのすごくない?

「と言っても田舎領主で生きていくために動物の狩りや解体とかそういうこともたくさん学びました」

「そんなアズハさんが、なんでこんな人が住もうともしてない森の中でこんなギリギリの暮らしを?」

「領地が戦争に巻き込まれて、人狩りにあったんです。もう死に物狂いで逃げてきました、できるだけ距離を稼ごうと無理もしました。でも馬も飲まず食わず、逃げる際に攻撃を受けていた傷が悪化ここで息絶えてしまいました」

「でもその馬のお陰で?」

「はい、馬のお肉を食べてどうにか。ここの洞窟、奥の方に湧き水も出ていたので、運が良かったです」

 襲われて逃げてきたって時点でそうとう運が悪いと思います。てか、手を洗いに戻ってきたのね。

「馬の肉も無くなり空腹も限界、何か食べ物が無いかと探しに行ったらあの熊に出くわしちゃって、もうダメだって思ったんです」

「出会えてよかったです」

 そう言いながら笑ってみせた。

「はい、奇跡ですね」

 ホントこの娘は笑顔がかわいい!

「タカトさんはこれからどうするんですか?」

「ん~、ちなみにアズハさんはどおするんですか?」

 質問に質問で返すのは良くないと思うけど、まったくの未定で回答できません! ごめんなさい!

「ここがどこかもわかりませんし、戻る場所ももうありませんので、ここでどうにか暮らしていこうかなって思ってます」

 少し俯いている。自信がないのだろう、てか普通に寂しくない?

「もしよかったら、一緒に暮らしてもいいですか?」

「いいんですか?」

「俺も行く先も帰る場所もないんでアズハさんが良ければですけど」

「もちろんです! 嬉しいです、ありがとうございます! これからよろしくお願いしますね!!」

 とりあえずの目標、アズハさんとここを開拓! 人里に飛んでいくこともできると思うけど戦争してるなら絡みたくないし、討伐対象になってもめんどくさい。とりあえず現状維持! 幸いこういう農業系の番組やラノベもたくさん見たし読んでる、どうにかなるでしょう。

「たいしたもの作れないですけど、今日は熊肉多めにしちゃいましょう!」

 なんだかアズハさんが嬉しそうでよかった。この日は熊肉を食べてゆっくり休むことにした、明日から本格的に開拓開始だ!!

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