第31話 フトモモッ――――!!

 作者が個人的に好きな回です。お楽しみください♪


 ――――――




 吹き抜けのメインダイニング。3階分はあるであろう高さの天井には、ひときわ目立つ豪勢なシャンデリア。ライトに当てられたガラスは虹彩を放ち、世界を輝かせていた。


 舞踏会でも開かれるのかというぐらい演出が凝らされた天井。それに対し、床は鮮やかな赤のアラベスク文様の絨毯。白のテーブルクロスがかけられた丸机に、それを囲むようにある椅子があった。


 寸分も狂いもないその会場には、多数の料理が用意されていた。1羽丸焼きのチキンに、みずみずしい野菜サラダ、食欲をそそる香りのデミグラスソースハンバーグ、真っ白なクリームでコーティングされたワンホールのケーキなどなど……………。


 客を出迎える準備は万端なメインダイニング。だが、誰1人として姿がなかった。息音も何も聞こえない。奇妙なぐらい静かね……………。

 

 鏡に飛び込んだ私は、人気のないそのメインダイニングに着いていた。


 さっきまで人がいたような感じだけど、今は誰もいないみたい。料理はNPCが用意したのかしら………。


 折角出来立ての料理が用意されているが、タコ焼きを限界まで食べたためか、生憎今は空腹ではない。『だが、デザートは別腹』――――前世ではそんな言い訳をして、昼食後甘い物を食べていたのを思い出す。


 不思議と甘いものは食べれそうなのよね……………。


 ケーキがあったある席へと着き、ケーキを食べようとした瞬間。


 「!?」


 太ももに冷たい何かが当たった。ぬちゃと粘膜音がかすかに聞こえた。先ほどのタコの触覚に絡まれたように、何かが太ももに触れる。不快だった。気づいて0.1秒後、日本刀を手に携え、テーブルクロスをめくった先にいたのは。


「いいフトモモ、発見ッ――――!!」


 ゾッと背筋が凍るような不気味な笑みのサングラス男。彼は私を太ももに抱き着いていた。


「…………」

「いいフトモモだなぁ……最高だぁ………」

「…………」

「このムチムチ感………ああ、天界に来たようだよ……」


 …………何、この男。


 テーブルの下に隠れていたと思ったら、攻撃することもなく、私の太ももに抱き着いて? さらには太ももに頬を摺り寄せて、顔を赤らめて――…………。


「きっしょいわッ――――!!」


 その叫びとともに、私は男に向かって横蹴り。同時にテーブルがひっくり返り、ケーキは机上から真っ逆さま。べちゃりと床へと爆散した。私の蹴りでぶっ飛んだ男は10mほど離れたテーブルの上でダウン。だが、すぐに起き上がり、ニヤリと口角を上げた。


「ずっと探していた理想のフトモモッ――!! ああ!! まさか主催者のフトモモがこんなにも美しいとは―――ッ!!」

「…………」

「なめてもよいだろうか――――ッ!! アドヴィナ・サクラメント――――ッ!!」

「ダメに決まってんでしょうがッ!!」


 いや、あんたさっきなめたわよね? 死刑よ、絶対死刑………問答無用で腹切りだわ。


「……………」


 ……………てか、あまりの奇行に見逃していたけど、この変態野郎、服という服を着てないじゃないの……………。


 変態男が身につけていたのはまともな服ではないし、下着もしていない。かろうじて着ているのは黒のエプロンで、その下にはピッカピカに磨かれた筋肉の塊があった。

 

 外見も変態で、中身も変態とか。ああ……なんか戦いたくない……今すぐ逃げたい…………………。


 正直、変態はタコでお腹いっぱい。裸エプロンの男などもうこれ以上目に入れたくない。あのプリプリなお尻を見たくない。彼の下半身にある例のものは絶対に見たくない。変態であることは確定、殺す気も失せた。


 ――――しかし、なぜだ? 

 なぜ心がざわつくんだろう?


 あれを逃してはならない。あれを放置してはならない。この場を去りたい気持ちだったが、直感だけは早鐘のように警告。あれを倒せと命じていた。


「では、我が勝ったら、なめてもよいだろうか?」

「はぁ? 勝つ?」

「ああ、アドヴィナ嬢を殺せば、我の勝利なのだろう? この世界はそういったルールなのだろう?」


 先ほどまでの気持ち悪い笑みは消え、柔らかな微笑みを浮かべる金髪サングラス。


 私は。プレイヤー全員の名前を覚えているにも関わらずに、だ。だが、第1ラウンドの説明時点では


 第1ラウンドでは金髪サングラスはいた。黒エプロンは着ていなかったが、確かにいた。魔法薬で姿を変えた、というわけではないだろう。


 コイツの名前は?

 この不審者は誰なんだ? 


「…………いや、誰でもいっか」


 誰かなんて、そんなことはどうだっていい。学園の人間なら、私の敵であることには変わりない。たとえ、不気味なオーラを放っていても、不可解な行動を取っていても。


「ま、負けなければいい話なのよね♪」


 負けるつもりは微塵もない。

 このデスゲームの勝利は私の物。

 

「アドヴィナ・サクラメント、もしや我のことを覚えていないのか?」

「ええ、ちょっとあなたの顔に覚えがなくって…………よかったら、お名前を教えてくれるかしら?」

「もちろんだとも」


 誰でもいいけど、名前を聞いていて損はないだろう。いつ手にしていたのだろう、ほぼ全裸サングラス男はいつの間にか武器を持っていた。


 へぇ、それを使うのね…………………。


 彼が持っていたのは巨大な鉈。「嘘だッ!!」と叫ぶとある惨劇回避アニメのキャラを思い出すような、不気味に輝く鉈だった。それを構えた拍子にずれたサングラスの先。そこには晴天の空のような、息を飲むほど綺麗な青眼。


「我はローマン・ロックウェル」

「――――は」


 出てくるとは思わなかったその名に、私は思わず困惑の声を漏らす。


 ローマン・ロックウェル――――その名前は学園の生徒であるのなら、誰だって知っている名前。学園だけじゃない、社交界でも名が知られた存在だ。


「さぁ、我を思い出したところでゲームを再開しよう!」


 それも当然。

 彼はエリートルート確定の子息で。

 生徒全員に慕われていた優等生で――――。


「さぁ! さぁ! アドヴィナ・サクラメントよッ!! フトモモ愛をかけて戦おうではないか!?」


 生徒会長だったのだから――――………………。

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