第24話・ネアンデルタールは信じない
ネアンデルタールの男も同じ食卓を囲んだ。肉には手をつけないものの、他の果物などを主に食している。
二柱の神が次々と果物を取り出してくることに驚いてしまった。
服が革命だったのだ。
『い、いったいどこからこんなに?』
そして、次々と食べろ食べろとやってくることにすっかり困ってしまっていた。
『まぁ、色々とな。それより、お前たちはなんで人を喰うのが怖いんだ?』
『疫学を知っているか? 統計から原因を割り出す考え方なんだが……』
ネアンデルタールの話は、まず学問から始まった。
彼らは現生人類より、脳が発達している。更には信じたり虚構を話すに必要なリソースまでも、ほかの思考分野に回していた。凄まじい知能を保有していたのだ。よって、サピエンスでは1883年発見される考え方を、既に有していたのだ。
『俺は知ってる。が、アダムとエヴァは……。まぁ、おいおい説明するよ』
『人を食べる支配者層は、短命なのだ。徐々に思考が低下し、やがて動くことすらできなくなる。人を食べると同時に、我々は何かを食われているのではないか? そう考えると、身の毛もよだつ。訴えてもやめはしない。伝統であり仕組みなのだとだけ答える。狂っている、としか思えなかったのだ。だから、我々は抜け出した』
それは
『伝統であり、仕組み……か……。なぁ、それにもしも理由があったらとは考えなかったか? 死ぬことに、群れを維持する仕組みがあるのだと』
あるいはそうなのかもしれない。
カニバリズムは、サピエンスでもしばしば見受けられた。そして、行う部族は短命である。それは、人肉を食べた人間の体はプリオンという異常蛋白を精製してしまうからである。プリオンは脳を穴だらけにし、そして死に至らしめる。現人類でも、治療法を持たない不治の病だ。
『死ぬことに意味などあるものか! いや……すまない。自然の中にある死は仕方がない。だが、人が人の死を作るべき理由がどこにあろうか……』
ネアンデルタールの考え方はこうだ。死ぬと生産力を損なう、労働力を損なう。よって、命とは維持されるべきものである。徹底的に実利的な考え方をしているのだ。
『俺にはわからん。でも、だ。アダムとエヴァの群れはバカみたいにデカかったんだぜ! きっとお前らの元の群れよりもな。んで、人の肉なんか食っちゃいなかった』
ただ、アダムとエヴァは追い出された。それは、価値観が追いつかなかったのだ。神によって進まされすぎた人類、アダムとエヴァ。だからこそ、宇迦之御魂はその最後まで見届けるつもりでいる。その歴史の、最も輝かしいところを
『我らの群れは200だったぞ!』
当然、ネアンデルタールには数学があった。そして、群れの最大規模を決めていた。
類人猿及び人類の統率限界は150である。それを超えた分を支配するには、神話か徹底的な暴力の支配が必要だ。神話を持てないネアンデルタールは、暴力と奴隷化によってこの上限を僅かに克服した。
『あいつらの群れはそんなもんじゃないって聞くぜ』
『そんな群れがあるのなら、我々はそこに生まれたかった』
ネアンデルタールは決して信じない。150を超えた統治は不可能で、奴隷化でその問題をほんの少しだけ変えることが出来るだけだ。
神話とは、革命的な統治システムなのである。
『ならよ、どうせだ、一緒の群れになろう! 馬鹿でかい町を作って、そこに住むんだ! 俺たちは、俺の巣を目指してる。そこは、誰も手をつけてない、馬鹿でかいオアシスだ!』
『それは無理だろう。我々は、お前たちが侵略者でないと未だ思うことができない。人を食わぬという証拠だって、見つけられていない』
ネアンデルタールは信じない。何を言われようが、何をされようが。
彼らに神話はない。神話がない以上、統治限界数は150に加えほんの少しだけ。ゆえに、神話を忘れた民族には未来がないのである。
『そっか……でもな、気が向いたら来いよ! 交換なんてどうだ? いろいろ作るぜ!』
こうして、サピエンス言語である原始シュメール語とネアンデルタール中東公用語が隣接することになった。
アッカド語族の起源である。
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