【短編小説】告白する勇気
Yusuke Eigo
1章:ひとりの待ち人
海から近い港湾都市。駅前に建つマンションの隣に広がる公園で、僕はベンチに座りながら周囲の様子を眺めていた。目の前には、公園内を犬と散歩している年配の男女や、ランドセルを背負った小学生の姿が見える。
のどかな日常の風景。
・・・にも関わらず、僕の心臓はさっきから高止まりしていた。
「やばい、めっちゃ緊張してきた」
僕は思わずそう呟いた。
実は今、この場所である人を待っている。待ち始めて、既に30分くらいは経っただろうか。学生服を着た中学生が、一人でベンチに座ったまま固まっている状況。周りから不審者に思われないか、少し不安だったりする。
その時、
「あれ?ひろ?」
不意に横から声を掛けられた。僕の顔が一瞬で強ばる。
「あ、あれ?金本やん?」
ぎこちない笑顔を作りつつも、僕はわざとらしく返事をした。
声の主は、僕が緊張しながら待っていた相手。クラスメートの金本、その人だった。
「ここで何しとん?」
金本は不思議そうな顔をしながら、首を傾げている。
「た、貴也が帰ってくるんを待っとうねん」
僕はそう答えた。焦る気持ちを悟られないように、シミュレーション通りに返事ができた。よし、ここまでは完璧だ。
「貴也ってこのマンションやんな?」
僕は公園の横に立つA棟のマンションを指差しながら、金本に声を掛けた。
「貴也くん?・・・あっ、松平くんか、ちゃうで、横のマンションのB棟やで」
案の定、金本は僕たちがいる公園を挟んで反対側のマンションを指差しながら、そう答えた。
「え?嘘やん、ほんまに?しくった、間違えたわ!」
実は・・・貴也がB棟に住んでいることは知っている。そして、金本がA棟に住んでいることも。自分でも微塵もセンスを感じない芝居だなと思う。
本当は金本と話がしたいから、わざと棟を間違えたフリをして彼女が住むマンションの横の公園で待っていた・・・そんなことはとても言えない。言ったら彼女を困らせてしまう。冷静に客観的に考えても、それはただの変態だ。
「貴也に借りたゲームを返すために待っとったんよ」
僕は予定通りに金本と話ができ、心の中でガッツポーズをしていた。さらに続けて答える。
「B棟やと入り口はここから反対側やな。もしかするともう帰ってきとうかも。教えてくれてありがとうな、ほな」
僕はベンチから立ち上がると、そう金本に声を掛けた。
今日は金本とたくさん話ができた。なんて素晴らしい日なんだ。そんな嬉しい気持ちを悟られないように、スキップしたくなる衝動も抑えつつ、その場を立ち去ろうとした時、
「今から貴也くんの家に行くんけ?」
不意に、背後から声を掛けられた。
「そうやで」
僕は振り返って答えた。
「そっか、それやったら・・・ウチもついて行ってええか?」
金本はいたずらっ子の表情を浮かべながら答えた。
「えっ?」
思わず、僕は声が裏返ってしまった。
ちょっと待って、そこまではシミュレーションしてないぞ。
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