第4話 タベタ!

「本当に離してください。気持ち悪いです。」


抱きしめられ、においを嗅がれる事に耐えられなくなった私は、思わず叫んだ。




目の前のザックバード公爵は驚いた表情をしている。



「そもそも、初対面なのに抱きしめて、キスして、匂いを嗅ぐなんておかしいです。公爵様はどうかしています。」



ザックバード公爵は、仄暗く笑いながら私を見てくる。


「初対面?あんなに俺の後を付け回しておいて本当にそう思っているの?Aクラスの使用人に頼んで俺の私物を取ったのもソフィアだろ。」



私は顔を真っ赤にして驚く。



「それは、、、」



「何に使ったの?ペンや俺が捨てた紙くずも回収したらしいじゃないか?どうして必要だったか教えてよ。」



(しらないわよ。あれはマーガレットお嬢様に言われて集めていただけだから、何に使ったとか考えたくないよ。)


マーガレットお嬢様は、外見とは裏腹に一時期怪しい黒魔術にはまっていた。何回か黒魔術の会合に参加していた。恋を成就させるおまじない。恋人との仲が深まる薬。最高の相性を探る占い。目元まで隠す黒いロープで参加するその会合は身バレしない女子会だった。一度お嬢様の代行で参加させられた私は、黒い女子会を経験していた。


確か、中には相手の身体の一部が必要なおまじないもあったような気がするが、どうだっただろうか?。



「その、あれは、、、」



(どうしよう。そんなことまでバレているなんて。)



「ふふふ。いいよ。ソフィアなら何に使っても、特別だから許してあげるよ。そうだ、お腹が空いただろ。一緒に夕食を取ろう。ソフィアが嫌なら抱きしめるのもキスをするのも止めておくよ。」



確かに外はもう暗くなってきている。過度な接触がないのであれば、夕食くらい一緒に取ってもいいような気がする。私はゆっくりと頷いた。







居室に運ばれてきたのは豪華な料理の数々だった。サーモンとチーズのフレッシュサラダ、オニオンスープ、子牛のステーキ、野菜とエビの蒸し焼き、数種類のパン、色とりどりのケーキ。


食べきれない程の料理が目の前のテーブルに並ぶ。


だけどカトラリーは、なぜかザックバード公爵の目の前にだけ用意されていた。


(もしかして、自分だけ食べるつもり?)


お腹が空いている私は恨めしそうにザックバード公爵を見た。


「ソフィアは好き嫌いはないよね。アーーン」


公爵はおいしそうなサーモンとチーズとサラダを纏めてフォークで刺して私の口元に持ってきた。つい口を開けてしまうと、そのまま食べさせられた。


「おいしい?ソフィア。」


「はい。あの自分で食べれるので、、、」


私の口に入ったフォークを使い、ザックバード公爵は自分の分のサラダを取り、ゆっくりと自分の口に入れる。


「ソフィアがここにいる事は秘密にしているんだ。俺を付け回すストーカーを捕まえたなんて言うと騒ぎになるだろう。だから、カトラリーも俺の分しか用意させてないからね。」


そう言いながら、ザックバード公爵はスープを私の口に運ぶ。こぼれそうな黄金色のスープを見て思わず口を開けて飲み込んだ。直後に自分の口に同じスプーンでスープを運んだ公爵はゆっくりとスプーンを舐めた。

その舌の動きを見せつけられて、ロッカーで突然されたキスの事を思い出す。



(どうしよう。やっぱり嫌だ。なんか嫌。)


カトラリーは一人分だが、フォークやスプーンが用途ごとに用意されている。一部を借りたらいいはずだと、食べさせられる事について拒否しようとした時に話しかけられた。



「本当の主について話す気持ちになったかい?」


「・・・」


「いいよ。ソフィアの好きにしたらいい。食事は俺が沢山食べさせてあげるからね。」


そう言い、笑う公爵はとても満足そうだった。


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