アルシオンの懺悔〜裏攻略対象に転生した俺は本性をひた隠す〜
あなず
1章アルシオン公爵家編
第1話はじまり
俺は気づいてしまった。この世界は本当にクソだと。
ルールに従い頑張ってきた。常に不満を感じていた。なぜこうも俺は考えて我慢して嘆いてばかりなのかと。
42歳、独身、ニート、引きこもり、高校中退。
子供のままだ。そう、ずっと俺は子供のまま。
「雅人ー?雅人ー?」
しわがれた老人の声が聞こえる。自分の母で、ずっと俺を養ってくれた恩人で、そして俺が引きこもりになった理由の一つだ。閉じられた扉の向こうにいるのだろうか。扉の向こうの日光が少しの隙間から僅かに漏れる。そこにはおそらく母のものと思われる足の影が伸びていた。
冷たくなっていく自分の体。頭と共に機能を停止し始める。
____ああ、報われなかったな。
未だに自分に保身をかける。あくまで俺も苦労したと暗示をかける。俺の不安はどこまで続くのだろうか。
俺の別れ道は人生でとくになかった。と言ってもなにが悪いかと言われれば環境と答えるのだが。
中学一年生の後半から不登校になり始めた。クラスのノリに合わせるのがしんどく、ついに限界を迎えてしまった。小学校高学年の時に、離婚、転校とストレスがかかり、ストレス性の病気になったのも大きかった。
中学二年生になると精神科にやっと通いだし、ストレス性の病気は薬を飲むことでほとんど抑えられていた。しかし、二学期も中盤、今更登校する勇気はなく、受験のことも考え出し、罪悪感と劣等感で自傷を始めた。身長など、外見も気にするようになったが、気がつくと風呂も着替えもできないほどに鬱病になっていた。
受験に失敗し、中卒となった俺は吹っ切れて鬱病が回復し、1年遅れで通信制高校に通い出したがそこでも上手くいかず、金銭的に余裕がなくなったことで母親が俺に当たってくるようになり、引きこもりになった。妹が名門高校に進学したのも大きかった。
もう完璧に心が折れた俺は薬に頼りきりになり、副作用で食欲が増えた。せめて肥満にはなるなと我慢してストレスがたまり、鬱病が再発した。
気がつくと20を超えており、就職をすることなど考えもせずにもう死のうと自殺未遂を繰り返した。
しかし、俺には死ぬ勇気がなかった。
結局最後は首吊り自殺をした。酒を飲み3日寝ておらず、明日妹が帰宅する。3つのことが重なり、働かなくなった頭はついに念願の死に向けて行動したのだ。
____もう一度やり直せたのなら…好きかって…行きたかった……。
享年42歳。橋倉雅人/2018.9.24
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「」
「--」
「…!」
「ュ……ま!」
なんだ……??うるさい。。。
(うるさい??俺は死んだんじゃないのか???)
「リュカ様!リュカ様!目を覚ましましたか!??」
目を開けると光が視界にダイレクトに広がる。久しぶりに吸う新鮮な空気とはっきりしている頭。甲高い女性の声が聞こえる方を見てみると、横には茶髪のメイド服を着た女がいる。たわわに実ったふたつの山は俺の腕に押し付けられ…………
「う、うわあぁっ!離せっっ!」
(きもちわるっっ!なんだこれっっ)※人間恐怖症です。
腕を必死に振りほどくと違和感に気づく。俺の体がやけに小さいのだ。
(なんだこれは…子供の手…??)
俺はシワのない真っ白で小さな手を開いては閉じ、自分が本当にここにいるのかを確認する。
「今すぐ御家族を呼んできますね!」
メイドらしき人ががパタパタと足音を立て、部屋の外に出ていってしまった。部屋を見るとこれまた俺がよく知った部屋とは違う。まるで西洋の貴族のような部屋だ。豪華なベッドに金色に眩い装飾たち。挙句の果てには部屋の隅に重厚な鎧が飾られていた。
「どこだここ…?え?あ、あぁ?あ?!」
(声が高い!!変声期前の少年の声だ…!)
思わず出してしまった声は想像していた声とは全く違い、
(なんだこれ、誰かと入れ替わった?または乗り移った??タイムスリップか??)
混乱するばかりで俺は何がなんなのか全く分からなかった。
ガチャ
少し重そうな木材でできた木の扉が開かれる。1番初めに入ってきたグラマラスな金髪の女性を見た瞬間俺は全てを思い出した。
庭で兄と遊んだ日々。物心付き始めると兄と比べ始められ、父は『俺』に全く構ってくれない。しかし、母だけが優しくしてくれた。
そう、この金髪の女性は、俺の母、アマンダだ……!!
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思い出したことを説明していく。
①ここはおそらく別世界で、文明は中世ほど、魔法はあるが限られたものしか使えない。
②俺の名前はリュカ・アルシオン。アルシオン公爵家の次男で、正妻の第一子だ。表向きには継承権第1位だが、性格が悪いので家督は兄の、ユーゴ・アルシオンが継ぐんじゃないかと思われている。
③家族は
側室の子で兄ユーゴ
正妻で実の母アマンダ
側室で兄の母リーファ
公爵家当主のガータリオン
元公爵家当主マリー
④そしてさっきまで現実のように感じていたあのしょうもない人生は前世。
俺は考えた。これまでの俺のように傲慢不遜に自由に生きていくか、前世を思い出したことで反省し、新たに善人としてやり直すか。
もちろん俺は傲慢不遜に自由に生きていく。
だって後悔したのだ。たとえ王族に盾を着いたとしても、自分が悪いことをしたとしても、力で全てねじ伏せる。死んだって、構わないじゃないか。だって元々俺は死者だもの。前世で我慢したぶん、今世では全て自分の意思で進んでいく。処刑されたって殺されたって、何をされても絶望なんてしない。だって俺はもう既に、いやまだ、絶望し続けているから。
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