rest4. ペンダントとチョコレート
部屋に少女が一人ポツンと椅子の上に座っている。
その少女は窓の方を見ている。窓から夕陽が差し込んでいる。
外を見ているのか、何かを見つけて眺めているのか、
それともただそこを見ているだけなのかはわからない。
ただ、少女はずっと泣いていたらしい。少女の目は腫れあがり、
床やごみ箱にはティッシュが散乱している。
何を思っているのかはわからないが、少女は目を閉じた。
数十分後、少女からは寝息が聞こえた。
・・・・・・
「イロナ。はいこれ!旅のお土産だよ」
「あら。とってもきれいなペンダントね!イロナ、良かったわね」
パパが用事で旅にでかけ、帰って来た時にペンダントをお土産に買ってきてくれて、首からかけてくれた。とてもきれいな銀の太陽のような模様が刻まれていた。見た瞬間から、その模様がとっても大好きだった。
「パパ、ありがとう!この模様がとてもきれいで大好き!一生の宝物にするね」
「そこまで喜んでくれるとは……買って帰ってきてよかった!」
「ふふふ。イロナったら。さて、ご飯でも食べましょ」
そうママが言って、家族3人のご飯が始まった。
そう。このご飯が家族で食べる最後のご飯になるとは知らずに。
この後、私の居た町は戦争に巻き込まれることになった。
急な戦争だったから、パパが先導して、ママに手を引き連れられ……逃げた。
でも……銃声が聞こえたと思った次の瞬間、ママは私の手を離した。私は急に手を離されたから倒れこんでしまった。そのあとは、銃声が大きくなって、私は気を失った。そして気づいた時にはパパもママもいなくて……そこからはずっと一人で生きてきた。本当に辛かった。でも……
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ふと目が開く。窓を見ると、まだ夜だ。マスターに急に両親の話をされて……部屋でずっと泣いてて……泣きつかれて、気づかないうちに少し寝ていたのだろうか。
あれは夢……じゃない。あれは私が経験した過去だ。思い出した。あの時から、ママとパパには会えていないんだった。これまでずっと忘れていた記憶……いや、たぶん思い出すのが辛すぎて自分の中で封印していたのだろう。
私はふと自分の首からかけていたペンダントを取り出してみる。あの頃からは比べられないほど汚くなってしまっている。でも、銀の太陽の模様は今でもくっきりとみることができる。そうだ。この模様が好きで宝物にしたんだった。
ペンダントを無意識に両手で握る。マスターのおかげで両親に会うことができる。嬉しいはずなのに、どうして……もやもやするのだろうか。別にマスターさんや柚乃さんのことが嫌いというわけではない。間違いなく、感謝もしているし本当に家族みたいだと感じていたはずだ。
家族……私にとっての家族ってどっちなんだろうか。ペンダントをくれた、ママとパパが本当の家族のはずだ。でも、辛い闇の底から救い出してくれた勇者さん、マスターさん、柚乃さんは家族とは言わないのだろうか……わからない。あまりにも話が大きすぎて何もわからない。私は椅子の上で三角座りをして目を閉じて顔を下に向ける。どうすればいいのかもわからない。
三角座りをした際に、太ももらへんに違和感を感じる。目を開いて、ポケットの中を探るとチョコレートが入っていた。あぁ、柚乃さんが無言で渡してきたチョコレートだ。少しの間そのチョコレートを眺めていたものの、何も考えずに包み紙を剥がしてチョコレートを小さくかじる。ミルクたっぷりの甘いチョコレートの味がする。普通のチョコレートのはずが、凄く懐かしい味な気がする……
『えへへ~ようやく笑ってくれたね~。おいしいでしょ?』
思い出した……。チョコレートアイスの味だ。初めて柚乃さんと会った時に作ってもらった時のチョコレートパフェに乗っていたアイス。あの味に近い。
『また一緒に食べようね!』
『イロナちゃんもおはよう。昨日はちゃんと寝れたかい』
『朝ごはんは何かな~マスターの朝ごはん、久々に食べるな~』
初めて会った日とその次の日、マスターさんと柚乃さんに色々良くしてもらった記憶、三人でごはんを食べていた記憶を思い出し、私は自然と涙を流していた。そして……
『恥ずかしいけど、半分家族だとも思っているよ』
少し前に、マスターさんから言われた言葉。本当に嬉しかった……
あぁ、そうか。別にどっちが家族って決めなくてよかったんだ。半分は私の両親、もう半分はマスターさんと柚乃さんにすればいいだけなんだ。
『イロナちゃんの家族だっていうこと。たとえ血がつながってなくても』
さっき柚乃さんに言われた言葉を思い出し、涙を服で拭う。そうだ。私にとって、パパとママも家族、マスターさんと柚乃さんも家族なんだ。だから……ちゃんと逃げずにマスターときっちり話す必要がある。
私のパパとママを探してくれたことはちゃんと感謝しないと。でも、私に隠していたことはちゃんと怒らないと。そして……マスターの話を最後まで聞かないと。
私は片手でペンダントを、もう片方で食べかけのチョコレートをしっかりと握りしめた。そして、ペンダントは胸元に戻し、チョコレートは食べきってから自分の部屋を出る。お店の一階からは夜にも関わらず光が漏れていた。私は自分の顔を両手でバチンとたたいてから一階に下りた。
・・・・・・
外は完全に夜になっている。喫茶「ゆずみち」は店を閉めているにもかかわらず、マスターがぶつぶつと呟きながら、テーブルの椅子に座って宙を見ていた。すると、二階から足音が聞こえて、その足音はマスターの方に向かう。だが、マスターはそれにも全く気付いていないようだ。
「マスターさん。今からお話いいですか?」
マスターはその声にびっくりして声の方を向く。そこには目を涙で真っ赤にはらしたイロナが立っていた。イロナはマスターの了解も得ずにマスターの対面に座る。それを見たマスターはイロナに話しかけようとする。
「イロナちゃん……あの……」
マスターが話を続けようとしたが、それを制するようにイロナがかぶせるように話しかける。
「マスターさん、私、両親探しを隠していたことは許しませんから。でも……今から一緒にお話しましょ……家族として」
イロナは途中から涙で顔がくしゃくしゃになりながら、マスターに話しかけた。
マスターもその言葉で涙が抑えきれなくなったようで、しきりにティッシュで鼻をかんでいる。
そして、そこから柚乃も加わり、長い夜が始まった。
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