Ⅱ 現実的な推理!
「馬鹿なことを言うなよ! 親父。智の性格を何も知らないから、そんなことが言えるんだ。親父だって、智の事を知ってるだろ。たまに遊びに来ていたじゃないか」俺が興奮気味に言うと、
「もちろん金沢智くんの人となりは、解っている。大変礼儀正しい、良い青年だ。だから言ってるだろう。お前から聞いた彼の体験談を現実的に考えたらこうなると言うことさ。俺は現役の刑事をやってるんだ。今までの経験で”まさかあの人が“ってことを、何度も経験しているんだ。それにこれから話すことは、単なる俺の推理だ。憶測でしかない。こういった動機も考えられるのではないか、と言うことさ」
「成る程、解ったよ。拝聴しようじゃないか」俺は両手の拳をきつく握り締めた。
「いいか、岳士。警察と言うものは、そんな夢話を信じるわけにはいかないのだ。彼がお前たちに話したと言う体験談は、現実離れの夢物語だ。そう、夢でなければ何か、現実の話だったんだよ。」と一息、ビールを
「智くんが、學校に行く途中に「木2号公園」で遊ぶ少女を見た時、頭の中に、妹の
「ちょっと待てよ親父。そんらな風に考えるのであれば、何故智は少女の背中を突かなければならなかったんだ! 全く知らない女の子だぜ」
「動機の部分だな。……恐らくこれも推測に過ぎないが、少女の背中を押す瞬間にその人物は深くためらう様子もあったらしいじゃないか、その人物、つまり智君だが、彼の頭を一瞬過ったのは、お前も言っていた、ノーマライゼーションのことが頭を通りすぎたのではないかな。つまり『この子は早苗と同じ病気になっている。これからこの子も早苗と同じく、皆に苛められるようになるだろう。そして、早苗と同じ苦悩を味遭わなくてはならないだろうあんな苦しみは、早苗以外の子には味あわせたくない!』って考えたのかもしれない」
「それが、刑事の考える現実的な動機と言うことかい? それじゃあ、あの少女の靴と靴下の不可解な点はどうなるんだい。それに智には、あの少女の背中を突いて死なせたとしても、何も得るものがない。得になることなど何もないんだよ。それに反して、姉さんならば得るものがある。靴の件に関しても何とか誤魔化せたと思うよ」
「そうだな、確かに『誰が得をするのか』と言うことも大事なことだ」
そこで二本目のビールも飲み干すと、
「何にしても、お姉さんでも、智君でも、誰でも第三者が警察に出頭してきても、その人を殺人犯として起訴できない。物的証拠が全く無いし、目撃者もいない、これでは到底検事局に送検することは出来ない。不起訴になるだけだ。つまり結局、この件は事故死として処理するしかないのだ!」
「そうだね。そうなるしかないだろうね、これは事故死だ。結論としては事故死だ!」
「やっと、意見の一致を見たな」と親父は微笑んだ。
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