拾われ子のスイ

蒼居夜燈

プロローグ

龍と幼子

 大陸の上空を東の龍がとてつもない速さで横断していた。

 深い青色の身体は所々鱗の隙間から血が滴り、風に運ばれていく。

 傷付いた龍は荒い呼吸を繰り返しながら、布に包まれた幼子、スイを咥えていた。

 空気は冷たく、轟々と唸る風が頬を叩く。


『……どこにいくの……?』


 龍は答えない。スイの揺らいだ眼に涙が滲んだ。

 脳裏に浮かぶのは、龍に咥えられる前の僅かな記憶。

 自分を見下ろす紅い眼の男。

 母の「出ていきなさい!」と言う怒声。


『(……ははさま……)』


 優しく暖かかった筈の母の、冷たくて鋭い声。

 思い出した瞬間に、雷が疾(はし)った。身体を掠めたそれに龍が大きく動く。

 スイの翡翠色と燐灰石色の眼から零れた涙が雫となって、後ろへと流れていった。


『(……どうして……?)』


 小さな生命(スイ)を託せる者達の元へと、龍はただひたすらに飛び続ける。

 己に課せられた、最期の役目を果たす為に。

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