第70話『いよいよクリスマスイブの集い』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


070『いよいよクリスマスイブの集い』   




 フォークの集いはテスト休みの日にもやった。


「連続してやらないと、肝心の本番で尻すぼみになってしまうからね」


 真知子はえらい。


 昨日は、佳奈子がバレーの試合で抜けたけど、代わりに4組の子たち三人。他のクラスが四人。うちのクラスからも委員長の高峰君も来てくれて、こじんまりだったけど、充実してた。


「そこじゃ寒いでしょー、良かったらこっちおいでよー!」


 天の声かと思ったら、三階の音楽室から声がかかる。


 一瞬だれだか分からないんだけども、ロコが「あ、峰岸先生ぇ!」と友だちのように手を振って、音楽の先生だと知れる。


「アハハ、みんな頬っぺた真っ赤っか( ´艸`)」


 音楽教室に入った途端、みんな赤頬のトナカイ。


 眼鏡の子が二人いて、その子たちは眼鏡も曇って、高峰君は温度変化に弱いのか、鼻がズルズル。


「わたし、三時で帰るから、それまでなら楽しく使って」


 そう言って準備室へ。


「下に張り紙してきます!」


 ゴミ箱に突っ込まれていたカレンダーを見つけると、マジックインクで「音楽室でやってます フォークの集い」と書いて張りに行く。


「じゃ、明日に備えてクリスマスソングからいこうか!」


 おお!


 赤鼻のトナカイから始まったのは言うまでもありません(^_^;)


 そのあと、ロコの張り紙を見て加わってくれた人もいて、二時間ちょっとイブの集いの前夜祭をやった。



 そして、終業式の昼、予定よりも三十分も早くイブの集いが始まった。



 なんと峰岸先生が「わたしも参加させて!」ということでアコーディオンを担いで加わってくれた。


「ちょっと音合わせ」


 10円男のギターと合わせていたら、待ちきれないみんなも歌い出して、自然に30分のフライング。


 真っ赤なお鼻のトナカイさんは~(^^♪(^▽^)(^^♪)


 とっても自然なフライングで、開始時間には中庭は人でいっぱいになった。


 フライングして始まったので、照明や音響が間に合ったのは予定の開始直前。ライトが付いてマイクが生きてくると、とたんにライブの感じ。


 うわあぁぁぁぁ!


 例のかがり火というかファイアーストームの火が点くと歓声があがった。


 かがり火は、前よりも進化していた。


 火はチロチロ揺らめくし、火の粉まで飛んでるし、パチパチとかボウボウとかの音もしてるし。

 かがり火の後ろに人がいると思ったら、部長の牧内千秋さん。

 黒のジャージは裏方のコスなんだろうね、背中の『宮之森高校演劇部』のプリントに心意気を感じた。


『遠い世界に』『この広い野原いっぱい』『受験生ブルース』『友よ』と立て続けにフォークの集いでお馴染みの曲が続いて、とっても雰囲気!


「さあ、次は『ドレミの歌』いきまーす!」


 これは予定にはない。


 でも『エーデルワイス』は何度もやってたし、みんな、わたしと違って映画の『サウンドオブミュージック』を観てるから、瞬間でテンションマックス。

 指示もしてないのにみんなで肩寄せ、左右に揺れてリズムをとるところなんか、本当にミュージカルのワンシーンみたくなった!


 たーて飢えたる者ーよぉ♪ いまーぞ日は近しぃー♪


 なんか違うフレーズが混じって――あれ?――と思ったら、急にみんなの歌声も萎んできた。


 え、え、なに?


 わたし一人状況つかめずにいると、みんなの視線は校舎の屋上に。

 

 学園紛争の生き残りたちが嫌がらせにハンドスピーカー使って歌ってる。


 十円男は峰岸先生に一言告げると、校舎の中に駆けて行った。


「さあ、みんなアップテンポで行くわよッ!!」


 顔中口にする感じで言うと、峰岸先生のアコーディオンは行進曲みたいなテンポでドレミを奏で、高峰君はギターを引き受けた。かがり火も勢いを増し、みんなのマナジリも上がって、なんだかプロテストソングみたくなってきた!


 海を隔てつ我らー腕(かいな)結びゆーく! いーざ戦わーん いーざ!


 ドォはドーナツのドォ! レェはレモンのレェ! ミィはみんなのミィ!


 おおインタナショナール! 我ぇらがものお!


 ファはファイトのファァ!! ソォは青い空ぁぁぁぁ!!



 その次は聞こえてこないで、無事に『ドレミの歌』を大合唱し終えた。



「つぎ、『青年は荒野を目指す』いっきまーす!」


 真知子が指を立てると静かに前奏になった。



 君のー行く道はー果てしなーく遠いーー



 最初の歌い出しのところで、頬を晴らし鼻血を拭きながら10円男が戻ってきた。ボロボロになって戻ってきた。


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!


 一斉に拍手が起こって、戸惑う10円男。


 みるみるうちに腫れた目から涙がポロポロ零れた。


 君は 行くのかぁ そんな~にしてーまでぇ……


 最後のフレーズでは、みんなの中からもすすり泣く声が起こった。


「ここは笑顔だよぉ!」


 手をメガホンにして叫んでやると、奴はひきつりながらも拳を上げて笑顔を向けた。


 満面の笑顔になったその顔、前歯が一本欠けていた。


 悪いけど、とってもマヌケ面。


 でも、みんなも泣くの止めて笑顔になって、タイミングよく雪もチラホラ降って来て、最後は予定通り『エーデルワイス』を大合唱して昭和45年のクリスマスイブを迎えたよ。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート

辻本 たみ子            1年5組 副委員長

高峰 秀夫             1年5組 委員長

吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部

横田 真知子            1年5組 リベラル系女子

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

藤田 勲              1年5組の担任

先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸

須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)

灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

  

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