第28話『臨時の全校集会』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


028『臨時の全校集会』   





 え、自殺……?



 悪気はないんだろうけど聞こえてしまった、ロコが呟くのを。


 聞こえたからには気になる。


「なに、自殺って?」


「あ、二年前に……その時も緊急全校集会……」


 それ以上聞くのも言うのも憚られ、ちょっと速足で階段を降りて体育館を目指す。


 みんな無言だけど、微妙に不服そう。


 中間テストの中日、二時間目の試験が終わって監督の先生が教室を出ようとしたら入れ違いに担任の藤田先生が入って来て「緊急の全校集会があるから、ただちに体育館に集合しなさい」と言った。




 シャーーガラガラガラ シャーーガラガラガラ シャーーガラガラガラ




 先生たちが分担して、体育館のカーテンと窓を開けていく。


 五月も半ばを過ぎて初夏、1200人の全校生が体育館に入ると、体感的には真夏に近いよ。


「ちょっと蒸します。上着は脱いでもいいです。短時間で済みますから静かに聞いてください……では、若杉先生」


 司会の先生が若杉先生に替わる。


 替わって初めて、名前と顔が一致。


 たしか生活指導部長の先生だ。いつでもネクタイをしているので憶えていた。


「試験の最中に集まってもらって申し訳ない。緊急に、君たちに伝えておかなければならない事案があって集まってもらいました、よおく聞きなさい」


 そういうと、先生は一枚のハガキを掲げた。


 生徒の中には「ああ」とか「あ」とかの声がチラホラ上がる。


「これは、本校の生徒に届けられた、差出人不明のハガキです。内容は、以下の通り『このハガキを読んだら、同じ内容を書いて、あなたの知り合い5人に送りなさい。五日以内に5人に出さなければ、あなたに不幸が訪れます』です。昨年あたりから全国的に流行り出した、ふざけたハガキです。世間では『不幸の手紙』などと呼ばれています。もし、こういうハガキや手紙が届いたら、けして人に送ったりせずに学校に知らせてください。学校の生活指導室まで届けてください。差出人は不明ですが、消印や筆跡である程度のことは分かります。けして犯人捜しをするわけではありませんが、注意喚起や抑止には効果があると思います。いいですか、三年生は受験を控えた大事な時期です、こういうものに惑わされずに、勉学に励むように。一二年生も、いたずらに噂などせずに、部活や勉強に励むように。ええと、次は……」


 若杉先生が間を置くと、花園先生(4組担任)がおずおずと手を上げて舞台に上がって行く。「かわいい」とか「おお」とかの声がチラホラ。ちょっと不謹慎。


「えと、生活指導の服装係りからお知らせです。えと……」


 そう言うと、花園先生、左の手の平を見ながら日直みたいに話し始めた。先生、手のひらにメモってるんだ(^_^;)。


「五月も半ばになって、ちょっと汗ばむような気候になってきました。あ、いまもムシムシしますけどね。例年、中間テスト明けから合服になっていますが、明日から合服でも良いことにします。男子は上着無しのカッターシャツ、女子は上着なしのボレロ、えと、ジャンパースカートみたいになる格好ですね。それでも良いことになります。でも、合服なので半袖はダメですよ。暑い時は袖をまくってください。それから、女子はボータイを忘れないように。胸には校章を必ず付けてくださいね。以上です(^_^;)」


 必要なことを伝えると、ハンカチでオデコを拭いて、かるく口元も拭った。


 おお、ハンカチになりてー!


 ワハハハハ((´∀`))


 三年のブロックから男子の声がして、笑い声が起こる。


 体育の長瀬先生が階段の途中まで上がって、三年生を睨む。


 さすがに女傑、水を打ったように静かになって、臨時の全校集会が終わった。




「二年前に、当時二年の生徒が自殺して、いちおう病死ってことになってますけど、自殺らしくて、不幸の手紙も絡んでたってうわさで……」




 昇降口を出ると、いつもの五人で自然発生的におしゃべりになって、ロコが、さっきの続きを説明してくれた。


「お姉ちゃんに聞いてみよう」


「お姉さん?」


「うん、宮の森の卒業生なんだけどね……」


 あとは言葉を濁す満智子。


「失礼しまーす!」


 キャ!


 突然、佳奈子が大声で挨拶してビックリ。


 見ると、上級生の女子が三人、佳奈子に手を振って正門に向かってる。


「アハハ、おどかしてごめん(^_^;)」


「あれ、バレーの二年生でしょ、佳奈子入ったの?」


 ちょっと咎める感じでたみ子。


「あ、まあ、誘われてて……」


「またセッターでしょ、苦労するよ」


 真知子も上から目線。


「いや、まだまだ、アハハハ……」


「さ、テストはまだ続くんだから、解散、解散!」


 たみ子が踏ん切りをつけてくれて、30分無駄にしただけで家路についた。


 


☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子             1年5組 クラスメート

辻本 たみ子            1年5組 副委員長

高峰 秀夫             1年5組 委員長

吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部

横田 真知子            1年5組 リベラル系女子

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

藤田 勲              1年5組の担任

先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長

須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館





 

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