《春》04. 黴雨

 この雨は、何もかもを鈍色として、重くする。

 空と雲も鈍色。

 五月雨に撃たれる傘も鈍色。

 目の奥は重くなり、古傷は疼く。

 しとどに水を孕んだ空気。それを食む肺。それを呑む衣。みな、水の重みに沈む他なし。


 しかれども、その鈍色の水たちの匂いは、ひどく柔っこく。

 その音は、ひどく心を鎮める。

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