第77話 デート再開です。

 ゲーマーの悪い癖だ。


 二回目からともなると、念頭に効率的なんて言葉が出てきてしまう。


 奇声ね。はいはいと、ノノの話を適当にそれっぽく返してご機嫌を取ろうとしていた。


 相手は一人の人間で、ドロップアイテムを低確率で落とすボスモンスターじゃないのに。


 ――考察するべきなのは、外見とか言葉とかじゃなかった。


 ノノの気持ちだ。


 私がわからないって、取り合わないで済ませたことこそ、彼女の理解が足りていないところじゃないか。


 私は反省した。ただ反省は一度で十分。次はどうすればいいのかだ。


 仮に、極論で言えばこのままデートを終わらせることだって私にはできる。


 だがそんなことはしない。道徳感情とか、人付き合いとか、そういう通り一遍な理由ではなく――私がそうしたくないと思っていた。


 おかしいな、家に帰ってヴァヴァをしたいってなっていても不思議じゃないんだけど。


 むしろさっきまでの面倒だなってテンションの下がり具合からしたら、口には出さなくても既に嫌々となっていてもおかしくないくらいだ。


 ――そりゃ、私だって水族館を少しは楽しみにしていた。いい気分転換って思ってたし、多分それ以上に、私もあんまり人とこうやって外で遊ぶことなんてしないから。


「ノノさん、私もノノさんとのデート楽しみにしてたからね」


「……本当? 嘘じゃない?」


「う、うん。……だからお礼って言うのは、ごめん、失礼な言い方だったよね。ただのお礼じゃなくて……その、もちろんノノさんがデートしたいって前言っていたからではあるけど……」


 ノノの瞳を見つめ返した。真剣なまなざしは、どこまでも私をまっすぐ見ている。


「私だって、どれだけ恩がある相手でも……そのデートしたくない相手には、わざわざ自分から誘わないよ。ノノさんだから。お礼だけど、デートに誘ったのは、ノノさんだからだよ」


「……アタシだから? 本当に?」


「本当だよ。私、外出るのあんまり好きじゃないって言ったでしょ? ……ノノさんとだから、こうやって水族館行こうって思えたし」


「お礼だけど……アタシだけの、特別なお礼ってこと?」


「特別なお礼なのは、間違いないよ」


 ――ノノだけってことはないけれど。うん、友達と二人で出かけることくらいはある。

 でも相手はすごく限られているし、水族館まで私を連れ出せる相手は多分他にいない。


 簡単には返しきれない恩があるからっての込みでも、やっぱり他の誰かだったら水族館までは行かなかったんじゃないだろうか。


 だって、最初にデートの話が出たときは絶対行きたくなかった。アイドルの横なんて歩きたくなかったし。


「……ん、待って? 最初ノノさんも、レアアイテムの代わりにデート要求してたよね?」


「あっ、あれ……っ? え、でもそれは別で!!」


 お礼デートに散々文句を言われてきたが、よくよく考えてみればことの発端は交換条件にノノがデートを提案してきたからだ。


 ――それで今更、デートをお礼代わりにするなんて、『デートに誘うってことはそういうこと』みたいなこと言って文句を言われるのはどうなんだ?


「そもそもキスも課金ガチャ装備でしたし……」


「ち、違うもんっ!! それはだって、ユズがなんかエッチだからっ!! 誘惑されてつい……っ!!」


「ひどい言い掛かりだよ!?」


「ともかくアタシから言うのは別なのっ!! だってアタシは……ユズのこと……」


 唇を尖らせて声が先細りしていくが、ノノはまた早口でまくし立ててくる。


「だからユズに誘われたら、アタシだってついつい勘違いしちゃうんだもんっ!! ユズ、ついにアタシに惚れたなって思っちゃうんだもんっ!!」


 ――んん、なんかやっぱり理不尽だ。


 でもあまり追求して、またすねられると一向に水族館を見て回れない。私だってペンギンとか見たいし。


「……その、そういう意味でデートに誘ったわけじゃないけどさ。でもノノさんだからデートに誘ったのは、本当だからね」


「うー……それなら、うん。また誘ってくれるかもってことだよね? アタシ、ユズの特別だから」


「ま、まあ、なにかの機会があれば……」


「機会つくるからっ!! ユズといっぱい思い出つくるからねっ!! 絶対っ!!」


 あんまり借りを増やしたくないんだけどな、と思いながらもなんだか元気を取り戻してくれたらしいのでよしとした。


 私のノノへ感情が変わっているように、ノノの私への感情も変わっているんだろうな。精々ギルドメンバーとして愛想を尽かされないようにしないと。


 ――ギルドメンバーで、いいんだよね? 私とノノの関係。


 ルルとアズキとも。


 私達はヴァヴァがある限り、仲間だよね?

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