第27話 数えていませんでした。
どうするべきか悩んでいる間に、ノノとの約束の日が来てしまった。
『はい! その二回目確保しました! 乃々花ちゃん売約済みって張り紙してね』
――えっと、今何回目になります?
二回目がアズキなのはわかるし、三回目がルルなのもわかる。
ただルルには何度もキスされていたので、あれをどうカウントしていいのかわからない。
一人から短時間にされたらまとめて一回でいいんだろうか。どっちにしても二回目のキスなどもう残っていないのは間違いなかった。
見返りにもある課金ガチャのレアアイテムまで決まっているのだから、『二回目』が反故になっているのであればそれは正直に伝えなくてはならない。
でも、なんて言えばいいんだろう。
「ごめん、この前別の人とキスしちゃった。しかも複数回なのでもう二回目でも三回目でもないよ!」
――と明るく正直に言えば許してもらえるのか? いやいや、どんな子なのそれ!? もちろん約束を破ったこともそうだし、なんか知らぬ間にたくさんキスしているってのもどうなの!?
けれど黙ってキスして、アイテムだけもらうなんてことはできない。
約束の日までに言わなきゃダメだ。そう思っていたのだが。
『ユズぅー、もうすぐだね。今お仕事忙しい時期だけど、アタシそれまで楽しみに頑張るからね!』
なんてメッセージになんて返信できるというのか。
せめて通話のときに言おう。言葉で誠心誠意謝ろう。――冷静に考えると、他の人とキスしてごめんって謝るのも変な気がする。交際相手とかにするやつだよね、それ。
しかし本当にノノは忙しいみたいで。
『ごめんー。しばらくヴァヴァはギルドのみんなで決めた時間くらいしかできそうにないや』
とのことで。
ヴァヴァの誘いではなく数分通話したいだけなのだけれども、国民的人気アイドルが忙しいと言っているのに食い下がるのも忍びなく。
そうなると
『ユズ、そういえばあれってなんだったの? この前メッセージで、できたら通話で話したいことあるって言ってたけど』
「え? いや、ごめん……たいしたことじゃなくて」
相変わらず基本的にチャットしかしないが、ルルもアズキも通話に参加している。
ここでキスの話をしようものなら。
『レアアイテム五つでキスなんですか? だったらわたしも――』
『僕もそれくらいのアイテムなら用意できる』
――などとなりかねない。
むしろこれはまだ都合のいいイメージだ。
二人とも私が他の人間とそういったことをすると、目の色を変えてくる。
特にルルは顕著だ。前回襲われかけたのも、アズキとのキスが発端なのだから、今度またノノとキスすると知ったらどんな行動に及ぶかわからない。
どうにか二人きりで話せるタイミングを作って打ち明けよう。私の過失なのだから、もうアイテムもなしでキスすることになっても仕方ない。
――あれ、もしそうなると私、結局三人と無料でキスしているだけなんじゃ。
だいたいなんでみんな私とキスしたがるのだ。みんな顔がいいんだから相手には困らないだろうに。
と数日間、どうにかこうにかチャンスをうかがっていたのだが。
いつも約束の時間ちょうどに来るノノとは、ヴァヴァでの集合時間前にも二人になるタイミングはない。忙しいからと言って約束の時間が終われば一番最初に抜けてしまう。
結局、当日である。
こんなことならメッセージでもいいから伝えておくべきだった。
そう後悔しても、もう遅い。
「お待たせっ、ユーっズ! 会いたかったよんっ、本当に今日が楽しみで楽しみで」
約束の場所、都内にあるホテルのエントランスで待っていると満面の笑みを浮かべたノノが来た。
マスクをして、色は付いていないけれど伊達眼鏡をかけて、深々と帽子もかぶっているが、目元と声だけでも本当に嬉しそうだ。
仕事帰りなのかキャリーケースを引いている。
「あ、あのさ、ノノさん。えっと」
「あ、ここは、芸能人もよく使うセキュリティばっちりなとこだから安心してねっ! まっ、女の子二人だから万が一なにかあっても大事にならないのからそこはありがたいけどねー」
「いや、そうじゃなくてえっと」
「どうしたの? ユズ、ちょっとクマある? もしかしてユズも今日が楽しみで寝不足だった? あはっ、もうユズったら可愛い!」
ダメだ。一旦落ち着かないと話を聞いてくれそうにない。
それに部屋で二人きりになったほうが、周囲の目を気にせず話せるだろう。
――ちなみにホテルと言ってもいかがわしいものではない。私でも名前を聞いたことがある、格式高い高級ホテルだ。
こんなところで二人きりで会うってのもどうなんだ、と思うがノノに指定されたまま決まってしまった。
「……うん」
私はこれからのことを思うと憂鬱で仕方がないけれど、黙って頷いてノノについて行く。頼むからスキップしないでほしい。ノノが楽しそうにしていれば、それだけ私の胸が痛む。
「奮発して、いい部屋にしちゃったんだー。あっ、エスコートしてくれるスタッフの人断っちゃったけどよかった? ユズもアタシも荷物ないし、できたら二人のがいいかなって」
「え? うん、それはいいけど……」
本当にすごい部屋だった。上品且つ豪華、ハリウッドセレブが住んでいそうだ。
「ここ、いくらぐらいしたの? ……なにもこんなすごいとこじゃなくても」
野暮なことを言ってしまったとは思う。ただ庶民の私からすると、こんな部屋をぽんと借りる感覚がわからなかった。
「んーまあそこそこかな。でもほら、今日は記念だから」
「記念って」
「アタシとユズの……それにアタシに取っては初めての場所になるわけだし……」
「え?」
初めての場所というのはどういう意味だろう。
テーブルの上に置かれたフルーツを眺めていた私の手が止まった。これ食べていいのかな、なんて現実逃避をしていたけれど、そんな場合ではないのかもしれない。
まずは勘違いの可能性もあるから、状況を整理しよう。
「初めてって……えっとこのホテルに来るのがってこと?」
「ちょっとユズ、はっきり聞かないでよ。恥ずかしいな、もう……キスが、だよ」
「……え?」
どうやら勘違いではないらしい。
私は今からあの国民的人気アイドル
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