オンラインゲームでおっさん相手に姫プ満喫していたはずが美少女たちに囲われていた
最宮みはや
第1部 姫のプレイもご存じない
第1章 姫プレイ始動編
第1話 勘違いクソ男に振られました。
けたたましい音がして、イヤホン越しにもあの男がコントローラーを投げつけたのだとわかった。
『てめぇみたいなブスとは二度とゲームなんてやらねぇ!! くっそ下手なくせして騒がしくしやがって!! ゴミみてぇな指示ばっかりよぉ!!』
思わずイヤホンを外したくなる罵声が続けざまに飛んできた。
――それでも、私はコントローラーから手を離さない。パーティーの半分が戦闘を放棄しても、
スキルをほとんど使い切り、貴重なアイテムのいくつかを泣く泣く投資したが、完全にジリ貧である。
『聞いてんのかブス! おい、ユズハっ!』
ノイズを無視して、鎖を全身に巻いたボスモンスターに集中する。カチャリカチャリカチャリ、三回鎖の音がした。
必殺の全体攻撃が来る。
私は最後まで温存していた必殺の反射魔法を準備する。条件とタイミングさえ合えば、ボスの大技でさえ跳ね返すことができる限定特殊スキルだ。
これさえ当てられれば、まだ逆転のチャンスが――。
――暗黒魔導騎士王ディレンがゲームから離脱しました。パーティーが解散となりました。戦闘を中断し、城地エリアへ移動します。
表示されたポップメッセージに、相方が完全にゲームから離脱したことがわかった。
戦闘中にゲームを終了する手段は通常の方法ではないため、パソコンのタスクマネージャーから強制終了でもしたのだろう。
最悪だ。今日ほどそう思ったことはない。今までも何度も何度もそう思ってきたが、今回のは本当にあり得ない。
「
『やっとしゃべったと思ったらなんだブス。俺がお前みたいなの相手しってから勘違いしてんだろ?』
「勘違いってなに?」
私が一緒にゲームをしていた鈴見さんは、端的に言うと恋人だ。
好意があったわけではなく、むしろ嫌っている相手で事の成り行き上仕方なく付き合っているだけだった。
その感情は付き合い始めて一週間の今でも全く変化はない。
鈴見さんは私の好きなゲーム『ヴァンダルシア・ヴァファエリス(通称ヴァヴァ)』の上位プレイヤーで、一緒にパーティーを組んで遊ぶことだけは少しだけ期待していたのだけど。
――『
と母が暗い顔で事情を説明してくれたことを思い出す。
鈴見さんの両親が経営する鈴見デジタル・ゲーミングは有名なゲーミングパソコンの会社で、私の両親がやっている小さなオーダーメイドキーボードの会社にとってはなくてはらなない重要な取引先でもあった。
その大事なお客様の社長息子、鈴見総次郎さんが私を気に入ったらしい。
たしかに、思い返せば鈴見デジタル・ゲーミングの本社へ行ったときに言葉を数度交わした記憶もある。
でも母がいる待合室の場所を聞いたり、挨拶したりとか、それくらいだ。だから多分ほとんどは外見の好みだろう。――私、すごい可愛いし?
それで要するに、親からのお願いで、鈴見総次郎さんとまた少し話してみてほしいと頼まれたのだ。そのときに母からは、
『気乗りしないのはわかるんだけど、でもね、総次郎さんあなたの好きなヴァヴァで有名なプレイヤーらしいじゃない! だから話が合うじゃないかな?』
と説明を受けた。
上位プレイヤーというのが本当なら、それは気になる。
それで、鈴見総次郎さんと通話することになった。特に聞いていなかったが、ビデオ通話のようだ。
私もカメラをつけて、向こうの顔を見る。
整ってはいるがどこかわがままや傲慢さが顔に出ていて、やっぱり憎たらしい男だと思った。
歳は大学生くらいだろうか。
『やっぱ可愛いじゃん、柚羽ちゃん。付き合おうぜ、俺ちょうど一緒にゲームできる女探してたんだよね』
「えっ」
その勝手な言い分と言い方に、目の前にいたらビンタぐらいしていただろう。
けれどパソコン越しでの会話は、一瞬――鈴見デジタル・ゲーミングの息子相手に失礼なことはできない。
と考えさせるだけのラグを生んでいた。
それでもはっきりと了承はしなかった。
そしたら鈴見総次郎さんは、
『なんだよ? 俺に不満? あ。私じゃ釣り合いませんーってこと? わかるわ、俺すげえ人気ゲーマーで金持ってて、顔もこれだしな。女不自由したこともないし。けどほら? 優しいのよ俺、そこが実は一番のモテポイントで。ほら、最初柚羽ちゃんが迷っているときも、案内してあげたじゃん?』
「えっ」
案内ではなく、驚くほど大きかった鈴見デジタル・ゲーミングの本社ビルに圧倒されて迷っている私をナンパ目的で近づいてきた――の間違いではないだろうか。
私は、母が待っている待合所の場所をなんとか聞き出して、逃げるように去ったはずだが――聞き出した待合所というのは、鈴見デジタル・ゲーミングとのアポイントメントを取っている人間がいる場所だ。
社長息子の力を使えばそこにいたのがどこの誰で、その人間に忘れ物を届ける人物が誰か探ることなんて朝飯前だったのだろう。
『じゃ、決まりな。あーでも、SNSで書くなよ? 俺、女性ファン多いからさ。荒れるかもしれねーし。当分は試用期間だな、お前が面白い女だったら本採用ってことで』
「えっ」
そんなこんなで付き合うことになって、一週間。鈴見総次郎の言葉を借りるなら試用期間。
私たちはほとんどゲーム、ヴァヴァしかしていない。
鈴見総次郎はたしかに、聞いていたとおりの上位プレイヤーだった。
装備はレアアイテムで固められ、ジョブも最上位の極クラス。所属ギルドはランキングでも一桁。
ヴァヴァで文句なしの上位プレイヤーで、彼の使っているプレイヤーネームも調べればすぐに出てくる有名人であることがわかった。
――調べると悪評もいっぱい出てくるけど。
ただ鈴見総次郎の所属ギルド、
十五人ばかりで、男性比率がやや多い。年齢層はやや高めな印象。
メンバー全員がオンラインゲーム界隈比較ではかなり常識的な面々ばかりで、鈴見総次郎と比べると格段に紳士達だと感じる。
そんなせいで、一週間もみんなで遊んでいると鈴見総次郎よりも他のギルドメンバー達との仲ばかり深まってしまっていた。
そして今日、
『おい、ユズ。今日は二人パーティーでボス倒すぞ』
というだいぶ無茶な鈴見総次郎の提案が生まれたのも、私が他のメンバーとばかり打ち解けて癇に触ったのが原因なのだろう。
――だが結果は大失敗だったわけだ。
開始数分でギスギスし始め、そのまま戦況が傾くとケンカになり、今に至る――。
『いいか? てめぇとは今日で別れる』
「……そう」
元々納得して付き合っていたわけじゃない。なんの文句もなかった。
むしろ今すぐ祝杯をあげたくなる。
『親に言って、てめぇのドチンケなキーボードも今後一切俺の会社では扱わない』
「ちょっとっ!? なんでそうなるのよ、親のことも会社のことも関係ないですよね!?」
『今更うるせぇぞブス。なんだ、泣いてわびるなら考え直してやってもいいぞ?』
「そうじゃなくて、なんで私たちの話が、会社の経営に関わってくるのはおかしいって言いたいんです」
だが鈴見総次郎に私の話が通じる様子はない。それどころか。
『あーもー、ほんとイラつくわ。顔がちょっといいからってお前調子コキすぎなんだよ。彼女じゃなくてセ○レにしとけばよかったわ。そうだ、今からでもそうしてやるよ。それなら、てめぇのバカ親がやってる店ももっと応援してやってもいいんだぜ』
「す、鈴見……さんっ!?」
『俺って実質もうプロゲーマーだろ? 俺の会社のさ、パソコン使ってゲームやって人気出してるわけじゃん? だから宣伝効果とかも半端ないわけ。で、俺がお前のとこのクソみてぇなキーボードとか、ヴァヴァやるときに使ってやってもいいぜ? その代わりにユズは俺がやりたくなったらいつでも好きにヤ――』
「あ、あんたみたいなクソ男がっ!! 母さん達が作ってるキーボードに
鈴見総次郎がバカで親をすぐ頼るクズなんてことはわかっていた。だから別れるにしても穏便に済まさなければ、両親に迷惑がかかるということも理解していた。
――だけど、我慢の限界だった。こいつに、母さん達が作っているキーボードを触ってほしくなんてない。
『は? てめぇなに言ったよ、俺がクソ男?』
「……言葉が悪かったわね。脳みそスカスカスポンジボーイくらいにしておけばよかったです?」
『ちっ! もうしゃべんなよブス。顔しか能がないくせして粋がりやがって。てめぇはおっさん相手に媚びへつらって姫プレイでもして遊んどけよ』
「私のことは好きにバカにすればいいですよ。言いたいことが終わったなら、通話切るから」
『そうかよ、じゃあな。お前もお前のバカ親の会社ももう終わりだよ』
捨て台詞を残して、鈴見総次郎との通話は終了した。
《重要》
本作品には、序盤主人公の元彼として男性キャラが登場しますが、すぐケンカ別れして以降サンドバッグ役として以外での出番はありません。
恋愛要素には一切絡まない百合作品です。
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