第四十二話 妃たちの独白



どうしてこんなことになったの。


私は王妃よ? 国で一番高貴な女なのよ?


王妃である私をこのような場所に閉じ込めるなんて。


私がいったい、何をしたというの?



ジークムントは第一王子なのよ。王位を狙って何が悪いの? 王妃の息子だし、第一王子なんだから、ジークムントが王になるべきよ。そうでしょう?


ハルトヴィヒは第二王子だし側妃の子供じゃない。実家が公爵家だとか関係ないじゃない。


エグモントが、さっさと王位を明け渡さないから、そうなるようにしただけなのに。


あの人さえいなくなれば、ハルトヴィヒが成人する前に死ねば、誰にも文句を言われずジークムントが王になったのよ。


そう、そのために、病気に見せかけることができる毒を………ダチュラの葉を摘んで、乾燥させて粉にして……


あら? 私は何故、あの葉を、取りに行った、の? ダチュラの葉に毒があるだなんて……ああ、そうだわ。そういえば、あのとき。


そう、確か、誰かと庭園で話したのよね。誰だった、かしら……。







「この白い花は、とても可愛らしいけれど……葉っぱには毒があるのよ」


「そうなの? 知らなかったわ」


「少しなら、多少体調が悪くなるだけですぐ回復するけど、定期的に口にするとその毒が蓄積していき……ゆっくり死に至る」


「へえ。怖いわね」


「使い方次第ですわ。花を飾るだけなら、可愛くていいでしょう」


「そうね」



あの女は微笑んでいた。







毒になるという話を聞いて、しばらくはそんなこと忘れていたのよ。


でも思い出す出来事があって……あったかしら? そう、きっかけは、あのときの……。







「あと2年か」


「王も待っているのだろう」


「やはり第二王子に?」


「それはそうだろう。第一王子は王の器ではない」


「ハルトヴィヒ様は素晴らしいお方だ」



臣下たちの話を聞いてしまったとき、そこにダチュラの花が生けてあって、それで……


そう、葉っぱに毒があることを思い出した。あのころ宮内に、よく活けられていたのよ……至るところに……ダチュラがあって……。



試しに、砕いた葉をエグモントの食事に混ぜるよう、私の手のものに言った。試してみただけなの。毒って、ほんとうなのかしら、と思って。


すると、それを食べた夜、エグモントは体調を崩して……翌日も動けなかった。だから、毒が効いたと思ったわ。


数日で症状は改善して、だからまた食事に毒を入れて……回復して毒を盛ってを繰り返していたら、だんだん、回復が遅くなって、それで、ベッドから出られなくなって、さらに起き上がれなくなって……。



ほんとうに、あと少しだったのよ。


あと少しで王は死んで、成人していたジークムントが、王に、なるはずだった。


なのにあの人は病気、いえ、毒ね。回復してしまった。


それで、もうこれしかないと、あの本に書いてあった方法で黒妖精の封印を解くことにして……



あら、どうしてこうなったのかしら?



なぜ、私は牢に?



王位はどうなったの?



ジークムントは、どこ?











仕方ないのです。


こうなったのは自業自得。


あなたが、私の幸せを壊したのだから。



やはり平民出身のお馬鹿さんなのですね。


ダチュラには毒がある、そう聞いて毒が身近にあることを知ったからって、それをそのまま使うなんて。


しかも王に毒を盛ったのは自分だ、と自白したそうですね。


せっかく侍女に手を回して、病床の王の食事は共に食べる妃も毒味をしていた、ということにしていたのに。



たとえあのときエグモントが死んでいても、ジークムントが王になることはどうせ不可能なことでした。平民の子なのだから。


当たり前です。


王位は、ハルトヴィヒのものです。



王妃フリーデは、今回の黒妖精の封印を解いた件と、王に毒を飲ませて殺そうとした罪で処刑が決定するでしょう。どうせなら死ぬよりつらい目にあってくださると嬉しいのですが。




あなたたちは、私の人生にはもう要らないのです。






でもエグモントは死にませんでした。


せっかく毒の存在を教えてあげたのに。量の調整が甘かったんだわ。


死んでもらおうと思っていたのに。



私を幸せな花嫁にしてくれなかったあなた。




ほかの方法を考えなくてはいけませんね。





さあ、毒の次はどんな復讐をお望みでしょう?





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