第二十五話 観光と一悶着と


デューレン辺境伯邸までの道のりは2日かかる。

アーヘン村を出発して一泊目は野宿となるのだが、ハイノが作った野宿セットがあるので外でも快適に過ごせている。



「これは、すごいな」


「ええ。ハイノお手製の簡易ベッドですわ」


「とても簡易的なものには見えないが……どうなっているのだ?」


「え、王子興味ある?」


「ああ。よかったら教えてくれないか」



言ったが最後、魔道具オタクのハイノに語らせたら長くて終わらない地獄が始まる。しかも専門用語ばかり使うので、ちょっと気になって、くらいの気持ちで口にしたら絶対に後悔するだろう。


しかし、バルトロメウスは思いのほか魔道具に精通していたようで、なんとハイノと話が盛り上がっている。

そんな2人を、周りは生暖かい目で見るのだった。




翌朝。

ディルクが作った朝食を食べて舌鼓を打ち、次の町へ出発した。


アーヘンと、デューレン辺境伯邸が置かれているケルンの町、その間にある唯一の町シュトルベルク。

ここではまだ、ヘルシン症はそう広まっていなかった。デューレン辺境伯が注意喚起していたし、行きがけに薬草も渡していたので、すぐ町長に「病の脅威は去った」と報告し、病が拡散しなかったことを喜んだ。



夕方には到着していたので、エルメンヒルデたちは宿を取って観光だ。

帰路なので、いつも通りお土産を買っていく。この町の名産は、細工箱だ。とりどりの装飾がなされた秘密の箱。特に女性にお土産として喜ばれる逸品である。



「エルナへのお土産にしましょう」


「いいですね。奥様にはこちらなんていかがですか?」


「きれいね。これにしましょう。そうだわ、どうせなら皆でお揃いにしない?」


「イーナも!」


「ええそうね」


「さすがエルメンヒルデ様。素敵です」



女性陣はお土産の物色に夢中だった。


ヴィリはついてきていたが、ハイノは別行動で魔道具屋などを巡っていてディルクは町中を走っている。

第五の騎士たちは宿で休んだり移送中の男たちを交代で見張っていた。交代し休憩になった、あのヴィリと意気投合した騎士・ダンデは興味本位でお土産屋回りに同行していた。



「いやーなかなかこう、美女の警護とか回ってこないからさ。新鮮!」


「ははーっ、羨ましいだろ」


「ああ、いいよなー。あの王子妃とずっと一緒」


「まあ、それはそうなんだけどね。お嬢すっごい行動派だから守るのなかなか大変よ?」


「あーそっかー。国内だけじゃなくて国外も行ってんだもんな」



ちなみにエルメンヒルデとハルトヴィヒはまだ婚約中なので厳密に言うと王子妃ではないのだが、わりと皆が王子妃と呼んでいる。



「それに目立つんだ、めっちゃ」


「だねえ?」



女性陣が店に入っている間、外にいたヴィリとダンデ。軽口を叩いていたが、警戒を怠っていたわけではないのですぐに気づく。店内を舐めるように見ている、不穏な空気を纏う連中がいることに。



「人買いかな?」


「とこにでもいるな、こういうやつら」



おそらくエルメンヒルデたちが店から出てくるのを待っているのだろう。連中は店内を見てニヤニヤしている。

店の全景が見える位置で壁に寄りかかり話していた2人は、軽く伸びをして連中に声をかける。



「うちのお嬢さんたちになにか用?」


「あ?」


「んだてめぇ」


「わーお、テンプレ」



ヴィリとダンデが現れたことて敵意を剥き出しにする男たち。悪役の基本形態だ。



「なんだぁ? 用心棒つきか?」


「めんどくせぇなぁ。引っ込んでろ」


「めんどくさいのはこっちなんだけどね」


「手、貸すよ。悪いやつをやっつけるのもお仕事だからね」



ヴィリが肩を回しながら言うと、ダンテも戦闘態勢に入る。



「あ、ほんと? ラッキー」


「ごちゃごちゃやってんなよ! かかってこいやぁ!」


「ちょっ、やる気になるの早くない?」



言いながら殴りかかってくる悪党Aの拳を、文句を言いながら躱すダンテ。

そのほかの悪党もやる気満々で構えている。



「うるせぇ! あの美人はもうもらって帰るって決めてんだ!」


「そうだ! 俺らがアジトで可愛がってやるんだってな!」


「え、人買いじゃないの? ただの誘拐?」


「人買いだよ! でもあの美人は売らねえ」



ヴィリが確認すると、簡単に口を滑らせる悪党A。自分で自分の悪事を証言したのだ。ダンテが前に出て悪党どもに言い放つ。



「はい大声で暴露ありがとうー。俺王都の騎士ね。全員連行ー!」


「はぁ? 騎士だぁ? ふざけたこと言ってんな! やっちまおうぜ!」


「「「おおー!」」」



8人ほどの悪党たちがやる気になってかかってくるが、当然2人の敵ではない。赤子の手をひねるようにあっさりと倒され、全員お縄についた。



「いやヴィリくんめっちゃ早いね。ぜんっぜん見えなかった」


「まあね」



もしかして騎士より強いのではないかというエルメンヒルデの護衛の実力に、驚きを隠せない王都騎士団代表ダンデだった。



「騒がしいわね」


「あ、買い物終わりました?」


「ええ。良いものが買えたわ」


「そりゃあよかった」


「ありがとうヴィリ。お疲れさま」


「うす」


「ああっ、いいなあ。麗しのご主人からのありがとう……!」



買い物を終えたエルメンヒルデがちょうど出てきて、縛り上げた悪党たちを警備隊に連行するダンデを見送った。


その後、走り疲れたディルクと買い物を終えたハイノが合流し宿に戻った。

ひと晩過ごして朝、この町を出たら次はケルンにあるデューレン辺境伯邸だ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る