噂も千里を走る

「瀬戸。お前の写真回ってたけど大丈夫か?」

 新学期早々、木村から発せられた言葉はこれ。あぁ、なんて不穏なスタートなんだ。

「俺も回ってきたわ!お前、とうとうバレたな!」

 何故か愉しげに話す須藤に携帯を見せてもらうと、そこには僕と紫苑が楽しそうに神社を歩いている姿が。なんてこった。

「パンナコッタ……」

 とんでもなくつまらないことを言ってしまったと気づいた美少女が「よっ!」なんて慌てて付け加えて話に入って来る。色々ツッコみたいけどそんなこと、後だ。

 まずは事実確認。何が起きてどんな風に回ってどこまで回っているのか。事態を冷静に処理しないと、何も見えてこない。

「そんなに回ってないと思う。サッカー部も、俺ぐらいしか知らなさそう」

「俺は木村から聞いた」

 OK.

 極一部しか回ってないらしい。

「発端は誰だかわかる?」

 紫苑が珍しく乗り気で聞いてきた。こういう話題には普段関心を持たないから、意外。

「多分、お前らと神社で遭遇した誰かだと思う。お前達のどちらかと同じ中学のヤツがインスタに上げてたから」

 思い当たる節しかない。逃げたものの、写真ぐらい撮られててもおかしくないから。

「あ、私があのとき名前言ったの、まずかった?」

 テヘペロ!と言わんばかりの明るさで言う、なんちゃって美少女。いや、戦犯美少女か。

「終わったことはもういいよ。それより、このままじゃ間違いなく回ると思うんだけど」

「私もそう思う」

 真剣な顔で僕を見て言う紫苑。

 冷たい視線で見る僕。

「何さ」

「いや、何でも」

 勝った!みたいな顔をしてるのを放置して、木村に目を合わせる。

「どれくらい広がると思う?」

「お前の中学と同じっぽいから、お前の中学の友達にはだいたい広まるだろうな」

「もう知らぬ存ぜぬでいいんじゃね?」

 どこから出したかわからいおにぎりを食べながら適当に須藤が言うのをネグレクトして、被害を薄っすらと想像する。あ、想像したくない映像が流れてきた。

「まずいねぇ〜」

 どこぞの黄色い猿みたいな言い方。こういう尖った言い方を紫苑がするときは、大概わざと。

「ふざけてる?」

「ふざけてないよ?」

 半ニヤケで何言ってんだよ。

「僕はこれでも焦ってるんだけど」

「私は楽しいよ。瀬戸君との共同作業」

「おいおい、二人で惚気けるなよ」

 惚気けてないし、あの美少女の頭をどうにかしてほしい。

「なるようになるって!」

 普通は説得力皆無なのに、笑顔に説得力を生む紫苑に流されて結局僕は、放置することにした。

 嫌な予感しかしないけど、確かに、なんとかなるかもしれないし。


 新学期早々、不穏な始まりで頭が痛かった僕に対して横で変なことをしてる紫苑。僕たちの人生はいつだってカオスだと言うことを、身を持って体現してくれてる。

「放課後っていう響きもなんだか、久しぶりだね」

「そうな。制服で奇行をしてる紫苑も久しぶり」

「これ、奇行じゃないよ」

 ずっと腕をぐるぐるさせてる。どう見ても奇行。

「じゃあ何?」

「これを1日1000回やってると、偏差値が1上がる」

 それがホントなら勉強しなくていいのにな……。

「そうな」

「瀬戸君もやる?」

「やらない」

「やろうよ」

「嫌だよ」

「プリクラの前で加工写真撮るくらい、自分でも意味分かんないよ」

 変な例えすんなよ。

「そうかよ」

 腕をぐるぐるするのを突然辞めて、何事もなかったかのような顔に戻った。せめて、目をキラキラさせながら奇行をしてほしい。死んだ目でされるとホントにバグったかと思う。

「私達のこと、バレても誰も何も言わないよ」

 紫苑が唐突に、僕の心理を読み解くかのように言う。

「そうかな」

「大丈夫。自分に自信、持って」

 薄く笑う美少女を見てると何故か、どことなく安心感が湧いてくる。紫苑といると僕は、どんどん駄目な人間になっていく。抽象的だけど、駄目なんだ。紫苑に全部、流される。

 自分では、紫苑と一緒の行動をしても紫苑ほどうまくいかないなんてこと、わかってるはずなのに。

「新年から沈んでたら、楽しくないぞ!」

 そう言って僕の手を取り前に、引っ張る。

 真っ昼間。

 誰もいない住宅街。

 二人でなんとなく、走った。

 不安を飛ばすように、走った。






 ※素で忘れてました。すみません

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