第24話 第3章 少年冒険者の戦闘、告白、そして、これから5

 ノルデイッヒに向かう道中、デリアは明らかにいつもの元気がなかった。僕も家族を野盗に殺された身だが、もともと家族に親しみを覚えていなかった僕には正直その気持ちは分からない。


 だけど、もし、デリアが死の病に冒されたとしたら、僕の心は悲しみに塗りつぶされるだろうし、他の人の慰めの言葉も僕の心の救いにはならない気がする。


 だから、僕は言葉を使わず、ただ、デリアを見守ることにしたんだ。


 ノルデイッヒには、あの「護衛クエスト」の時と同じように二日間で到着した。


 あの時と違い、既にデリアはノルデイッヒの市民権を喪失している。


 だけど、僕と同じロスハイムのギルドの所属証明を持っている。


 ノルデイッヒ市内にはあっさりと入ることができた。


 ◇◇◇


 デリアのおばあさんの家は、僕が七年前にお世話になった時と外観は変わっていなかった。


 建物の入り口付近に怪しげな男が二人いた以外は……


 デリアは怪訝そうな顔で、怪しげな男たちに話しかける。

「何です。あなたたちは?」


 男たちも不機嫌を隠そうとしない。

「俺たちゃ傭兵だ。頼まれてこの家の警備をしている。てめえたちこそなんだっ?」


「私はこの館の主、ベルタ・ファーレンハイトの孫娘デリア・ファーレンハイトです。祖母が危篤と聞き、会いに来ました。中に入れて下さい」


「ああっ、孫だあ? その証拠がどこにあるよ。ああっ?」


 こいつら、本当に傭兵か? ただのごろつきじゃないのか? 僕は後ろ手にスピアの柄を握った。


 その時、家の中から若い男の声がした。

「デリア。何しに来た?」


 ◇◇◇


 長身の青年が姿を現した。見たところ二十歳くらいか。いかにも商人といった風で、洗練はされているが、僕の知ってるギルドメンバーたちと違い、鍛えられている様子はない。


「兄さん……」


「兄さんと呼ぶな。デリア。お前はもうファーレンハイト家の者ではないだろう。何故、ここに来た?」


「分かりました。エトムントさん。私はおばあちゃんの病が重いと聞いて会いに来たのです」


「ふんっ」

 エトムントと呼ばれた男は嫌悪を露にすると、吐き捨てるように言った。

「デリア。お前はもうファーレンハイト家の者ではない。ばばあが死んでも、お前が受け取る遺産はないっ!」


 さすがにデリアも顔色を変える。

「遺産が欲しくて来たんじゃありません。私はもう自立しています。おばあちゃんに一目会いたいだけです」


「ふん。どうだかな。また、いつぞやのようにばばあをたぶらかそうと思ってんじゃないのか? 遺産の相続人を自分にしろとかな。ふっ、まあいいっ。お前が何か企んでも、ばばあはもう何もできん。目も見えんし、指一本動かせないからな」


「! それを早く言って下さいっ! 一刻も早くおばあちゃんに会わなくてはっ!」


「好きにしろっ! だが、妙なことをしでかさないように、監視はつけさせてもらうからなっ!」


「そっちこそ好きにして下さいっ! クルト君、行きましょう。もはや一刻を争う状態のようです」


 デリアは館の中に入って行った。それに僕も続こうとしたが、不意に左腕を掴まれた。


 ◇◇◇


 ! 僕の左腕をつかんだのは十歳くらいの少年だった。


 あっけに取られる僕に少年は言う。

「お前は何だ? 勝手に館に入るなっ!」


 それに対し、先を歩いていたデリアは振り向いて言う。

「エルンスト。その手を離しなさい。その人はクルト・ギュンター。私の大切な人です」


 エルンストと呼ばれた少年は僕の左腕を離すと、憤懣ふんまんやるかたないという表情で問う。

「姉さんの大切な人? お前はどこの商人の息子だ? それとも貴族か?」


 デリアの返答は毅然としていた。

「クルト君はロスハイムのギルドの冒険者。レベルは18。二つ名は『僧侶戦士』です」


「ギルドの冒険者ぁーっ、何でそんな下賤な奴が姉さんの大切な人なんだっ? ふざけるなっ! お前、どんな手を使って、姉さんをだましたんだっ!」


「エルンスト。お前がまだ私のことを『姉』と呼んでくれるのは嬉しい。ですが、これ以上、クルト君とギルドを侮辱することは許しません。お前の『姉』であるこの私もロスハイムのギルドの冒険者であり、受付嬢なのですよ」


「うわあああーっ」

 エルンストは僕に飛びかかって来た。しかし、相手は戦闘経験も全くないであろう少年。ぼくは簡単に受け止めた。エルンストは両の拳で僕の胸板を殴りつけてきた。

「おっ、おまえとばばあがみんな悪いんだっ! おっ、おまえとばばあがっ、姉さんをこんなにしたんだっ!」


 やがて、デリアは僕の右手を引いた。

「クルト君。急ぎましょう。時間が惜しいです」


 エルンストはその場に突っ伏したまま、泣きわめき続けていた。

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