第18話 第2章 新米ギルド受付嬢の呟き10
私も「
クラーラさんは私とカトリナちゃんの仲がクルト君を巡って険悪化したら、ナターリエさんと相談して、仲裁し、どうにもならなくなったら、強制的に距離を置く形を作ると考えていたそうだが、当事者同士が親しくなってしまっていて、全身の力が抜けたそうだ。
更にギルドの受付業務を私とカトリナちゃんが交代で請け負い、私も受付業務が非番の時は冒険者になって、クエストを請け負いたいと言ったら、驚愕の余りかクラーラさんは絶句した。
「何でまた?」
歴代のギルド受付嬢でそんなことやった者は誰もいない。もっともな疑問だ。
これに私は二つの答えを出した。
「受付業務だけに限らず、カトリナちゃんのように多くのことを学びたい。そして、ただ
クラーラさんはしばらく考え込んでいたが、やがて、大きく頷いた。
「若い世代によって、時代が変わるってことか。それがよりよいやり方であれば、何も言うことはない。だけど……」
だけど?
「まだクルト君に告白してなかったのかい?」
そ、それはまあ……いろいろありまして……
「ふーん。でも、さっきの話だと、デリアちゃんも『
そのようにしたいのです。だけど一つ気がかりなことが……
「なるほど。クルト君が基本的にソロプレーヤーで人とパーティをあまり組まないってことか、でもさ、カトリナちゃんとは組んだよね」
そうなのですよ。そもそもそれが原因で今こういうことになったんですけど……
「なら、カトリナちゃんにどうやったか聞いてみれば」
! いろいろ複雑な思いがあるが、カトリナちゃんには私がクルト君のことが好きだということは伝えてある。聞けないということもない。
「それとねえ、私の経験からすると……クルト君のようなああいうタイプは……」
ここは私も一言一句聞き逃すまいと集中した。
◇◇◇
その
クラーラさんの給仕で夕食を摂る冒険者たちも一人また一人と帰宅していく。
後、残る冒険者は一人。その一人が……おお、女神ヴァーゲよ。クルト君なのだっ!
女神ヴァーゲ。これはもうあなた様の御加護があると思っていいのですね。私はもうそう思っちゃいますよ。
振り返るとカトリナちゃんと目が合う。彼女は小さく
「後の会計確認は私に任せてください。頑張ってください。応援してます。幸運を祈ります」
私は静かに立ち上がる。その過程で今度はクラーラさんと目が合う。満面の笑顔だ。
その後の私は一気に立ち上がり、つかつかと早足でクルト君のところに向かう。
クルト君はゆっくりとクラーラさんの作った夕食を食べている。例によって一番安い定食だ。まあ、クラーラさんが作るものは全て美味しいのだが……
途中で私とクルト君の目が合う。一瞬、ビクっとしたクルト君は右手で愛用の
そして、そんなことは私に全く関係のないことだ。そして……逃がしはしない……
「クルト君っ!」
私は両手のひらでクルト君の前のテーブルをドンと叩き、叫んだ。
「はっ、はひっ」
「これから大事な話をします。よく聞いてくださいね」
◇◇◇
「なっ、ななな、何でしょう?」
動揺して目を逸らすクルト君の視線を逃さないように追いかけ、私は畳みかけた。
「私も冒険者になりました。クルト君と一緒にクエストを受けたいです」
すると、クルト君の目の色が一瞬にして変わり、こちらを逆に見据えて来た。
「デリア。受付業務の仕事も厳しいのでしょう。だが、クエストは命懸け。分かって言っているの?」
◇◇◇
逆に気圧されそうになるが、ここで負けては駄目だ。チラリとカトリナちゃんの方を見ると、胸に付けた両手を固く握りしめて、こちらを見ている。応援ありがとう。
「分かっています」
「冒険者志望の者はみんなそう言うんだ。そして、多くの者が挫折したり、酷い時は死んでしまったりする」
「クルト君っ!」
私はクルト君の脇に回り込み、おもむろに自分の服の
「うわっ」
思わず目を両手で覆うクルト君。
「クルト君っ! ちゃんと見て下さいっ! これが私の決意の証ですっ!」
クルト君は指と指の隙間を少しずつ開け、私を見た。
「!」
「見ましたか? これは『武術』の教習でカトリナちゃんの杖で強打されて出来た
「……」
「話はこれで終わりではありません。いいですか? このまま見ていてください」
私は
私はもう一度、クルト君に呼びかける。
「どうですか? 私はちゃんと訓練をしてきたのです。一緒にクエストを受けて下さい」
「……」
クルト君はしばらく沈黙していたが、やがて、ゆっくり口を開いた。
「デリア。君がちゃんと訓練してきたのは分かった。だけど、僕は一緒にクエストを受けることは出来ない」
◇◇◇
さすがの私も顔色が変わった。
「クルト君っ! それはどういうことですか?」
つかみかからんばかりの私にクルト君は目を逸らしたまま答える。
「僕には……デリアがケガをするなんて耐えられない……」
「!」
あっけに取られる私に、クルト君は目を逸らしたまま続ける。
「デリアには、シモーネさんがそうだったようにずっと受付業務をやっていてほしい。僕はグスタフさんのように外で戦う。デリアはケガをしたり、痛い思いをしない中にずっといてほしい。僕はグスタフさんがそうやってシモーネさんを守ったように、デリアを守りたい」
私の中で何かが切れた。
「クルト君っ! それは違うっ! 違うでしょうっ!」
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