第39話 破裂

「これを、どうすればいいんですか?」


 他二人が引け腰なので、俺が率先してやってみることにした。

 呪いの人形はメリーちゃんだけではなく、他のものもある。

 おそらくは人数分用意しておいた、ということなのだろう。

 俺の言葉に夢野先生はぱっと表情を明るくして、


「あっ、あのね。まず手に持って」


「はい」


「そうしたら、真気を操って、人形の中に注いでいくの……それだけ。成功すれば、人形が動くから」


 ……人形が動くのか。

 まぁ、人形術使いの作り上げた術具なのだから、当然の結論ではある。

 ただどんな風に動くのか分からないのでちょっと怖いが……やってみるか。

 まず、真気を意識する。

 自分の体内に大量あるそれを、少しだけ切り出して、気脈の中に流していく。

 気脈の先端……たとえば、指先などからだと、真気は出しやすいと言われる。

 だから俺はそれを意識して、そこから真気を出す。

 

「うん、うん……出来てるね……あとはそれを人形の中に……」


 やはり、前世とは違って、真気を体外に出すのはすんなりと出来た。

 《気置きの儀》の時にもやって分かっていることだが、まだ、これが出来ると感動が先立ってしまうな。

 ともあれ、まだ油断は出来ないというか、これで終わりではない。

 今度はその出した真気を、人形へと注ぐ……すると。


 ……パンッ!


 と、音を立てて、人形が破裂した。


「……え?」


「あれ?」


 夢野先生が呆けた声を出し、俺は俺で首を傾げて。


「どっ……どうして……。ジェーンちゃんが……破裂しちゃった……」


 なるほど、さっきの人形はジェーンちゃんというのか。

 それはどうでもいいか。

 というか破裂してしまった理由は、想像がついている。

 短刀の時に忠告されたようなことだ。

 真気を入れすぎてしまったな。

 あの時と同じくらいの感覚で入れたから大丈夫だと思っていたが、あの短刀はやはり、北御門屈指の気術士たちが作り上げたものだった、というわけだろう。

 その辺の気術士が子供用に作った術具とは比べものにならない容量があったと。

 そう言う話だな。

 ともあれ、とりあえず俺は謝ることにした。


「ご、ごめんなさい……人形、壊しちゃった……」


 すると夢野は、はっとして、


「う、ううん、いいんだよ。いいんだけど……ちょっと容量小さすぎたんだね。でも、真気は流せてたから、それでいいの。ええと……とりあえず、武尊くんは今日のところは見学にしようか。次、もうちょっといい人形作ってくるから……」


 そう言ってきた。

 俺がそれに頷くと、夢野は、今度は他二人に言う。


「じゃ、じゃあ気を取り直して、咲耶ちゃんと、龍輝くん、次やってみようか!」


 これにどう反応するか気になったが、二人は俺が率先して取り組んだのを見て、自分もやってみる気になったらしい。

 夢野先生から人形を受け取り、俺の時と同じように真気を流した。

 咲耶の方はなんと一発で成功させ、さらに人形を自分の意のままに動かし始めた。


「えぇ……一発で……しかもこんなに自由に……さすがは北御門の継嗣ってこと……?」


 夢野先生が唖然として見ていた。

 次に龍輝くんだが、彼は比較的苦戦気味だった。

 まず、真気を流すのが難しいようだった。

 これは体質だな。

 前世の俺に近い。

 だが、俺と違って全く体外に出せないというわけじゃないのが救いだった。

 それに、俺が気脈を整えたから、慣れればむしろ素早く出せるようになるはずだ。

 でも、やっと人形に流せた頃には、疲労困憊になっていた。

 《気置きの儀》の時もそうだったが、苦労する星の下に生まれてきてしまったのかもしれないな。

 そもそも俺や咲耶と同じクラスになってる時点で大変そうだとも思う。

 まぁ別に何か問題起こすつもりはないのだが、その種になりそうだなと客観的に思うから。

 ともあれ、それでもしっかりと人形に気を流せた龍輝くんは、


「……なんとか出来た……」


 と安心していたのだった。

 そして、その様子を見た夢野先生は、


「……まさか、今日一日で出来ちゃうなんて思ってなかったから、驚いたよ」


 と言っていた。

 もしかして、これはしばらく時間かけて行うことなのかな?

 前世を思い出すに、基礎については確かにそれなりの時間をかけるのが普通だったような記憶があるから、今世もそうなのだろう。

 事実、夢野先生は続ける。


「本当は一ヶ月くらいかかるものなんだよ、これ。週に一回の授業で……でも、終わっちゃったからなぁ。一応、武尊くんが残ってると言えば残ってるけど、君の場合、人形の方の問題だし、流すのはすぐに出来てたからね。これからどうしよ……」


 そして頭を抱えていた。

 

「残りの時間は遊んでるのはどうだ!?」


 龍輝くんがそんなことを言うが、


「流石にそれはちょっと。私もお仕事だからね。うーん、次回までに何か出来ることないか、考えておくね。先に進めても良いんだけど、そっちはまだ準備が出来てないから……」


 そうして、初めての気術士としての授業は終わったのだった。

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