第28話 秒針は花の蜜が滴るように


中身は真っ暗な空間。なーんもわからん。

端末を使ってどうにか内部を照らしてみる。

壁が曲面で大きな配管のような通路になっていることがわかる。

けれど5歩より先が全く見えない。

流石の私でもこの中に入るとなると躊躇しそうになる。

「足元大丈夫そう?」

「うん、この先も同じなら大丈夫……だと思うよ。」

ほとんど見えないけど、あの地面とは比べ物にならない。

「なんか似たような道がどこまでも続いてるような……」

漆黒を照らし、文字通り手探りでうねうねしたマシンの内部を進んで行く。


……うーわ、さっきから埃っぽくてジメジメしてるなあ。

外から見たかぎり空気が入れ替わるような構造は見当たらなかったので、そのせいか。



帰り道を同じように辿れるか心配になり始めた丁度その頃、

曲がりくねった細い道を抜け、雰囲気が少し変わる。

開けた直線的な道に出る事が出来、た……のかな?



     〉びっ!!〈



ぶぬわぁ!突然明るくなった!


「え、え?なんだ?びっくりしたぁ、驚かさないでよ。」

「……私たちの存在を感知したんじゃない?」

「……てことは、それで明かりが灯ったのなら、内側のセンサーみたいな機能は生きているのか?」

「あー。だとしたらこの先からは慎重に進まないと。」


思っていたより中は普通。謎の管や古い作りの配線が剥き出しになっている……これなら地球の技術でも十分作れそうだけど……

怖くなりながらも、もう少し奥へと進んでみる。



道は全体的にうっすら気味悪く光り、気分は重いまま。

それでも闇に目が慣れてしまったので眩しいくらいだ。

歓迎されている雰囲気はまるで無く、何とも怖い。

「もう少しだけ奥へ行ってみようか」

私たちはマシンの脚の付け根から入り込んで、頭部側へと向かっている。

大きく傾いた床に苦戦しながら、この先に何か手がかりがあると信じ進む。

今は進むしかない。


上を向くと粗末な構造の階段と手すりが目に飛び込んできた。

「ちょっと見て、あれ。」

「……人間が入る構造なのでは?」

「やっぱりそうなんだ。」


壁のような床を登り切った少し先にゴールの文字……ではなく、

透き通ったパネル越しに随分と広い空間が見える。

「向こうは何だ?……やたらに広いな」

そろそろ何か手掛かりがあるといいのだけれど。


「その前にこいつを溶かさないと進めないな。」

「お願いね」

彼はまた期待通りの能力を見せてくれる。大丈夫。

両手の平を当てた途端、透けた薄い板が熱を帯びたようにじわじわと溶けていく。何度見ても不可思議だった。

私には無い力が彼には宿っているのだろうか。



 あの時から……。



おかげさまで1分も経たぬうちに向こう側に行けた。


丸い空間の真ん中に鏡の壺、

それを囲むように突き刺さった無機質な柱。

見たことのない奇妙な装飾。

床や壁に施された光の線がいったり来たり。と。


「うーん。なんというか……」


広がっていたのは奇妙な部屋だった。

部屋中に絡みつく不思議な紋様をなぞるようにつらつらと光が移り変わる。

ぼんやりとした光の粒も浮いている。

この部屋の柱にも床にも天井にも、至る所にそれらは散りばめられていた。

中央の壺を示すかのように……。


「……なんだここ?怪しすぎる。」


今まで通った通路とは全く異なるその”狂った空間”に、私は圧倒されそうになった。

地球でも、勿論ラノハクトでも、これに近しい光景に見覚えは無い。

この場にいるだけで息苦しくなるような、無駄な落ち着かなさがあった。

……もうちょっと淡い色味でゆっくりとしていたら綺麗なのに。


この怪物が私たちを”拒絶”しているのだろうか?

そもそも何故こんな空間が存在しているのか?



   この部屋は何か重要な役割を果たしているのだろうか?



私は彼に続くように壺に近づいてゆく。鏡面に私たちの姿が歪んで反射している。

──おや?何か中に溜まってる?

  

「ひゃあ!」

「……!?」

「びっくりしたぁ」


私たちが壺を覗き込んだ瞬間、中身は突然渦を巻くように流れ出した。

浮いていた光の粒が吸い込まれるように集まってくる。

ぐるぐるぐるーっ…… 

「あっ」

ただ立ち尽くして渦を眺めることしかできなかった。


……?

勢いが弱まって行き、渦が無くなると、壺の水面になんだか小さな模型のようなものがポツリと浮かび上がってきた。

それはすごく精巧に出来ており、触れたら簡単に崩れてしまいそうだった。


「これは? 花……かな。」

「なんだこれ? どういう仕掛けなんだ?」

「初めてみたけど、……こんなの。」

 


彼が吸い込まれるように花を触る。

その瞬間花は閉じ、奇妙な感覚に襲われた。

目の前が真っ白になり頭の中を揉まれているような感覚。


!?


気づくと景色が変わっていた。

「トリアンドルスへようこそ」

そのアナウンスは私の脳内に私の声で聞こえた。


「え?えぇ?」

「トリアンドルス?って前に言ってた空を飛んで光線を出したあいつ?」

二人とも訳が分からず動揺する。

これって本当に現実???

そしてさっきと比べて明らかに辺りが綺麗で華やかになっている。

ここは違う空間なのだろうか?

どういう状況にいるのか、ここは踏み入れて良い場所なのか、全く分からない。

目の前にはさっき見た壺があるのだけれど、その上に前にはなかった下へ向かって突き出た螺旋状の角のような物が見受けられ、そこから水が滲み、壺へと滴っていた。

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