第20話 柱に記されるべき在り処
出会ったイヌに惜しみながらお別れを告げ、道の先へ。
堪能したさはまだあるのだけれど、あの「もふもふ」は十分に摂取できた。
ざくざくと聞き馴れない地球での足音が耳に沁みる。……悪くない。
なんとなく歩いて何歩目だろうか、足音が急に鈍い金属混じりの音に切り替わる。私たちは辺り一面を見渡せるホドウキョウを通りかかる。
「すっげー。何だこの景色、これ全部地球人が作り出したのか!?」
「ほぉあ~。」
「こんなの見たこと無いぞ!興奮してきたな」
「……圧巻の町並み。」
「乗り物!?でかい!」
どうしてこんなにも大きな乗り物を生み出してるんだ?
異星人を驚かすためじゃないのか?
「トラックだね。」
「これに人が乗って動いているのすげー面白い。ぶつかったらひとたまりもないだろうし、古代って感じだな。」
「色んなのがあるなあ。動力はやっぱり化石燃料?」
「そうだよ。」
「すげー。」
「いくらなんでもこんな大きさはいらない気もするけれど。」
こんな重たそうな金属の塊、人の動かすものじゃない。
私があの屋上で見ることのできたあの景色とはまた違う。
途切れなく続く大きな鉛色の道と車、建物、看板、街路樹、信号、踏み切り、ガードレール──。
道なりにあれもこれも、全てを喰らう勢いで尋ね、教えてもらった。
覚えることが多すぎる。
えぇと、どれがどれだっけ?
もうわからないよ。
でも楽しいんだよ。
地球を全て覚えつくすのはまだまだ時間がかかりそうだ。
誰かのために開けられた窓。
誰かのために組まれた鉄骨。
誰かのために生きている人々。
それらが織り成す街の様子。
見知らぬ景色を構成している構造物。
その細かい部分にまで……、
こんな私でも心が奪われるんだ。
ラノハクトで地球について語り合っていたのが懐かしいや。
「縁石の上、歩かないほうがいいよ。」
ずるりっ。どたっ。
その声が聞こえると同時くらい、誤魔化しが効かない程あからさまに転んでしまった。
その大袈裟で馬鹿な音が脳内で何度もループする。
ふえーん。
「ほーら、言わんこっちゃない。」
「……いい感じに連なった出っ張りがあるとそこに沿ってあるきたくなるじゃない?」
私は本当にぼーっと、思うがまま歩いていたのだな。楽しいから仕方ないんだ。
「そういえばここら辺の文字、事前に調べといた「ユニコード」にあったやつだなぁ。」
「「ユニコード」って?」
「地球の文字とか記号とか……ほとんどをまとめてある一覧……みたいな?」
「色んな文字があるんだよね」
「へぇ。」
「私たちはこの島の国に降り立ったけれど、よく考えたら別の国ではまた違う文字が使われていて違う景色があるんでしょ?」
「国の数は200ぐらいあるよ」
「いいひっ!?」
「命がいくつあっても全部見切れないな。」
「……途方もない」
「ここらへんの文字はユニコードで見たけどカンジ?だっけ?、ごちゃこちゃと複雑でえげつない量の文字を使う地域だ。」
「そうそう、よくお分かりで。」
「例えばそこのデンシンバシラにも書いてあるよね。」
この目にしつこく情報を押し付けようとしてくる文字がしっくりきている地球人って冷静に考えるととんでもないような……。
「フダダテシ ミナミワクノウチ フタツユビって書いてあるけどこれは?」
「住所だよ住所。」
「ジューショって?」
「区切りごとに市、地区、番地を表していて地域名が階層のようになっているんだ。だから君たちがいるその地点は「札立市、南枠ノ内、二ツ指」。ええと、向こうのの電信柱はなんて書かれてある?」
「こっちにはフダダテシ、ミナミワクノウチ、ミツユビ」
「もう一つ向こうはフダダテシ、ミナミワクハズレ、ニギリコブシだ!」
「あー。位置によってちょっとずつ区切られている要素が変わっていくのか」
「何となく……理解できたかも。」
「ラノハクトに住所は無いのか?」
「端末コードならあるけれど、位置情報とかで良いんじゃない?」
「ええ……国も住所も?不便じゃないのか?」
「場所に文字列を与えるのは面白い試み……」
よくこんな細かく分けた場所の名前を取り扱ってるなぁ。変なの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます