第13話 私、知ってるの。だからね、提案なんだけど――

 東浩乃あずま/ひろのは今、学校にいた。


 休み明けの月曜日。

 テーマパークでの出来事は終わり、いつも通りの生活に戻っていたのだ。


「それで、この前はありがとね……一応、言っておくから……」

「そんなにお礼を言われるようなことはしてないから」


 浩乃は幼馴染とはある程度の距離を取り、あまり視線を向けずに彼女へと返答した。


 朝のHRが始まる前の時間帯であり、二人は校舎内の誰もいない空き教室にいる。

 そこで対面し、この前のことについて話していたのだ。


 西野奈月にしの/なつきはテーマパーク内で、足に怪我を負ってしまった。


 ゴーストエリアで監禁された場所は薄暗く、周りを確認するもの難しかったのだ。

 ゆえに、転んでしまい、彼女は打ち所が悪かったのが原因である。


 でも、すぐに外に出ることができて、奈月の体は、そこまで大事には至らなかったのが、不幸中の幸いであった。


「……一応、お礼を言っておこうと思って」

「なんで、こんなところで」

「だって、休みの日は、病院の方から安静にしてって言われて、ずっと家の中にいたし」

「だったら、スマホとかで連絡してもよかっただろ。それくらいならさ」

「……いいじゃない……直接言っても」


 奈月は普段とは違い、恥じらいをもって話している。

 素直じゃない。


 浩乃も奈月とは長年、幼馴染をやっているのだ。

 あまり好きじゃなかったとしても、嫌なほど、なんとなく感覚的に、色々と察してしまうものである。


 浩乃は、彼女の本心には感づいてはいるが、余計に、それについては追及することはしなかった。




「話はそれだけ?」

「ええ、そうよ。なに? ダメだったの?」


 奈月は浩乃の近くに歩み寄ってくる。


 な、なんで近づいてきてるんだよ。


 物凄く気まずい。

 早く、この時間が終わってほしいとさえ思えてくる。


 ふと、奈月のことを見た。


 彼女は睨んできているが、そこまで怖い表情ではなかったのだ。


 恥じらっている顔つきだったことも相まって、不覚にもドキッとしてしまう。


「何よ。何か、私の顔についてる感じ?」

「そうじゃない……そうじゃないけど……」


 浩乃は彼女の方を見ることができなくなっていた。


「まあ、あなたに言いたいことはこれくらいだし。私、もう教室に戻るから……」


 彼女はそう言うと背を向ける。そして、空き教室から立ち去っていくのだった。




 まさか、幼馴染の方から、そういったことを発言してくるとは想定外である。


 浩乃も教室を後に、廊下を歩く。


 本当は奈月もそんなに嫌な奴じゃない。

 そんなことはわかっているが、大切なことはあまり話してくれないのだ。


 そういうこともあってか、高校生になってからは。かなり距離を感じる。


 奈月の方は、仲直りしたいと思っているのだろうか?


 浩乃は、教室に向かっている途中、そう考えてばかりいたのだった。






「それで、今日からは私が、付き合うことになるからね」


 彼女は堂々と言う。


 現在、昼休みの部室内。


 そこで堂々した立ち振る舞いを見せるのは、桐野由羽きりの/ゆうである。


 彼女は、この前のテーマパーク内の勝負で勝ったのだ。


 テーマパーク内でのイベントは、合計三回行われた。

 そのうち、由羽と共に行ったゲームだけ、多くの点数を稼ぐことができたのである。


 本来であれば、果那先輩との点数が高いはずだった。

 が、幼馴染を助けていたことで、時間内にスタート地点に戻ることができなかったのだ。


 ビンゴカードはビンゴ状態だったのに、完全なる敗北になった。

 完成しても、時間内に戻れなければ強制的に失格になるらしい。


 でも、これでいいと思う。


 あの時、苦しんでいる幼馴染を放っておいたら、後味が悪くなっていたはずだ。


 奈月のことは好きではないけど。

 彼女が苦しんでいるところには同情してしまう自分がいた。


 浩乃は少々溜息を吐いたのち、皆の方を再度見る。




 周りには、三人の女の子がいる。


 由羽の他に、果那先輩と、後輩の朱莉。


 南海果那みなみ/かな先輩は悔しそうな表情を見せていた。

 けど、同時にしょうがないといった感じに、肩の荷を下ろしていたのだ。

 まだ、部長の中で納得したわけではないが、何とか、受け入れようと必死になっているらしい。


 雰囲気的にそんな気がした。




「でも、私は、まだ、諦めていませんから」


 後輩の多岐川朱莉たぎがわ/あかりは、真剣にも、これからもっと頑張りますからと言った顔つきで、浩乃の近くに歩み寄ってくる。


「本当は私と付き合いたいですよね?」

「え、それは……」


 現在進行形で、浩乃は朱莉のおっぱいを制服越しに感じていた。


 貧乳ではあるが、しっかりとした温かさが、浩乃の右腕に接触しているのだ。


「私が勝ったの。だから、浩乃君は私が優先的に関わらせてもらうから。最初っから、そういう条件じゃない」


 由羽は、浩乃の左腕を独占しようとしていた。


 双方から迫りくる胸の膨らみに圧倒されてばかりである。




 そんな中、近くから伝わってくる視線がある。


 それは、部長の怪しく光った瞳。


 果那先輩は自分の中で納得させようと必死になっていたが、現状を見せつけられ、嫉妬染みた視線だけを、浩乃に向けていたのだ。


「……」


 気まずいんだが……。


 どうしたらいいんだろ。


 浩乃は無言のまま、三人の女の子らに圧倒されている。


 何かを話そうとしたが、なんて話を切り出せばいいのかわからず、口ごもっていた。


「浩乃君。今日から改めてお願いね」

「う、うん」


 浩乃は一応頷いておく。


 二人のおっぱいに挟まれ、戸惑い、それから口を開いた。


「えっと、放課後ね。そういうことで。でも、昼休みは俺、ちょっと用事があるから。それじゃあ」

「用事って何?」

「私も知りたいです」


 咄嗟に浩乃の発言に声を出したのは、由羽と朱莉。


 果那先輩は、驚いた表情をするだけで、現状を見ているだけであった。


 浩乃は強引にも部室を後にする。






 何とか逃れられた……。


 と、内心思う。


 浩乃は、本校舎の方へと戻ると、部活棟の廊下を歩いていた。


 二階から一階へと下っている最中。

 とある子が視界に映る。


 あまり見れない女の子だった。


 同学年か、それ以外なのかもわからない。


「ねえ、東浩乃よね?」

「……はい」


 浩乃は疑り深い声のトーンで返答する。


 なんだろうと思っていると。


「協力してほしいんだけど」


 階段付近で、さっき出会ったばかりなのに、依頼を受けたのだ。


 かなり変わっている感じの女の子だと感じた。


 美少女なのに、思考が読めない。


「私、あの子の裏を知ってるの、だから――」

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