第18話

「幽鬼はどこだ」

「今ちょっと……」

 小夜子をあの世へ連れ帰ってもらうため、映画館へつくなり、スメラギはケータイで死神を呼び出した。

 幽鬼のこの世での心残りを解消した後には、死神を呼び出し、幽鬼をあの世へ連れ帰ってもらうのが決まりだった。小夜子は依頼を受けた相手ではなかったが、この世にとどまり続ける幽鬼を発見、保護したからには死神に通報、あの世へ送り届けてもらうよう手配するのがスメラギの義務であった。

「手紙を渡すのが、今回の依頼じゃなかったのか」

「……」

「手紙は渡したのか」

「ああ」

「で、お前はこんなところで何をしているんだ」

「……」

 死んだ小夜子の魂の行方を追いながら、スメラギは、小野篁に頼んで秘かに柏木孝雄の行方を捜してもらっていた。

 小野篁が管理する地獄のデータベース、鬼籍には、この世の生きとし生けるもののすべての情報が記載されている。死に場所はもちろん、いつ死ぬのか、どう死ぬのか、生きている間の行い、死後の行く先、天上界か地獄か、はたまたこの世に再び生を受けるのか。

 柏木孝雄は、吉田健二という男として生まれ変わり、20歳の現在は、映画に携わる仕事がしたいと、世界座でアルバイトをしていた。

 その事実をつかんだスメラギは、小夜子を柏木孝雄の生まれ変わりと会わせてやろうと、柏木孝雄=吉田健二が働く世界座へとやってきた。

「男と会わせてやってるんじゃないだろうな」

 図星だった。

 死神にあの世に連れていかれる前に、ひとめでも、かつての恋人、柏木孝雄の魂をもつ男にあわせてやりたい――スメラギのささやかな思いだった。

 スメラギの沈黙を肯定と受け取った死神は、

「帰る。俺は忙しいんだ」

 と、ロビーを後にしようとした。

「おい、待てよ。あ、あと5分。5分でいいからさあ。なあ、彼女は…」

「待つ必要はない。あの幽鬼は今日は回収できない。待つだけ無駄だ」

「どういう意味だよ?」

「あの幽鬼はお前に心残りの解消の依頼をする。あの幽鬼の願いをお前が叶えてやらない限り、俺の出番はない」

「宮内小夜子には何も頼まれてないぜ」

「これから頼まれる」

「なんでわかるんだ、そんなこと」

「わからないほうが鈍い。お前は女心ってものがわかってない。そんなだから女に縁がないんだ」

 女心ぐらい、わかっている、だからこそ、前世での恋人に会わせてやっているんじゃないか――

 死神にくってかかろうとしたその時、小夜子がスメラギのもとに駆け込んできた。

「お願い。あの人と話をさせて」

 無愛想で無表情の死神が皮肉な笑みを浮かべた。

「依頼人だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る