第2話

 今日は、午後一時から『チーム田園』のメンバーで同窓会をすることになっている。同窓会というとお酒が付きものだけど、まだみんな未成年なので、ほたるのおばあちゃんが作った虫酔い草シロップの炭酸割りで乾杯しようということになった。


 虫酔い草シロップは、ほたるの地元に伝わる薬草のシロップ漬けで、子供の成長の節目や節句などの時に、虫酔い草シロップを水や炭酸水で割ったジュースで乾杯する風習がある。カラメルや黒糖のようなこってりした甘さに、柑橘系の酸味と爽やかな苦みがあって、色も黄金色なので、子供たちはビールを飲んでる気分で楽しいのだ。


 ほたるの実家では、シロップの原液を熱さましにも使っていた。子供の頃熱が出た時、おちょこに入ったシロップをぐびっと飲むと、強烈な甘味で喉の奥がぐわんと熱くなって、頭がもわんとしてきて、あっという間に眠れた。


『この子、ひいじいじと一緒で、虫酔い草で酔っぱらってないかね』と、おばあちゃんは心配してたっけ。

『虫酔い草で酔っぱらう子供なんて聞いたことないわよ。ひいじいじのアレも酔っぱらったふりでしょー』と、お母さんは笑い飛ばしていたけど。


 今年、県外の大学に入学して一人暮らしを始めたほたるは、おばあちゃんの虫酔い草シロップを調達するために、朝の特急で実家に帰ってきた。本当は、集合時間まで家でダラダラするつもりだったのに、大学のことをあれこれ聞きたがるお母さんが煩わしくて、早々に家を飛び出したのだ。


 同窓会会場がある深山黄昏駅に到着したのは午前10時。駅舎の待合室に座ってしばらくの間、スマホゲームで時間を潰していたけれど、それにも飽きてしまった。そのうち、久々に会うみんなとちゃんと話せるだろうかと、不安がほたるを襲い始めた。

(どうしよう。なんか、すっごい緊張してきた)


で、目に入ったのが虫酔い草のシロップ。


(確か、虫酔い草のシロップって、ストレス解消の効果があったよね)

よし。と、瓶の蓋をおちょこがわりにして、虫酔い草のシロップをグイと飲んだら、絡みつくような甘味が、喉をカッと熱くさせながら食道へと降りていって……

 ふわんと、なんだか、身体が熱くなり、心地よいぼやぼや感がやってきたのだ。


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