決してストーカーではありません①

 聡善に誘われてからあれよあれよと時間がたち、ついに2回目のデートの日が来てしまった。


 待ち合わせ場所と集合時間は前回と同じで駅前にあるピアノ横。私は以前と同じように集合時間15分前に到着する……のだけどやはりこの男は私より早くに来ている。


 なに、そんなに楽しみなわけ?まぁこの私を待たせないのはいいことなんだけどさ。


 そんなことを考えながら私は聡善の前に立ち「こんにちは」と声をかけると、顔を上げた聡善も挨拶を返してくる。


 今回は服装を変えよう!と昨日から試行錯誤を重ねてみたものの、何も思いつかずに前回と同じ服装で来てしまった。

 さすがのアイツでも前回と別の服で来るだろうと心の中で思っていた私だったのだけど……。


 なんであんたまで同じなのよ!私が言うのもなんだけど、2回目のデートなんだから前回と別の服で来なさいよ!!前と同じパーカーにジャージのズボン。寝癖のついた髪にダサいメガネ。もうちょっと自分を変えようと思わないわけ?

 あの時会った公園の男性をもっと見習って欲しいわ。


 数秒の沈黙が続いたあと、聡善が立ち上がりながら口を開く。


「どこか行きたいところとかありますか?」


 いきなりの質問に驚きながらも私は顎に手を当てて考え込むように俯く。


 え?私に行く場所を聞くなら事前に聞いといてくれない?いきなり言われても困るんだけど。前回みたいにあなたが決めるんじゃないの?

 ……まぁ聞かれたからには仕方ない。ここは多分王道である、服を買いに行きたいとでも言っておこう。


 寛大な心で聡善のミスを許し、私は顔を上げて行きたい場所を提案する。


「服屋に行きたいです」

「分かりました。ではドリームまちに行きましょうか」



   ♤ ♤



 勇が「デートに行く」と言ったあの時からワタシは決めていた。

 今回のデートは観察させてもらう!とね。


 勇が家を出たあと、ワタシは準備していた帽子を深く被り、黒いリュックを背中に提げ、黒いマスクを装着したワタシは急いで勇の数メートル後ろをついて行った。


 見た目だけではストーカーかと思うかもしれないけど、決してストーカーではない!勇が変なことをしないか、勇があの女性と釣り合っているのかを確かめに来ただけだ!強いて言えば過保護なだけだ!もう1回言うけど、決してストーカーではない!


 なんて考えていると、集合15分前にもかかわらず、赤紫色の髪の毛の女性がやってくる。

 服装は勇と同じで白いパーカーに黒いジャージのズボン。

 勇は以前にあの女性のことが嫌いと言っていたけど、ペアルックをするほどあの女性を溺愛しているらしい。

 あの二人の素を見せたいワタシからすると好都合なことなので、思わず顔にニヤつきが漏れてしまう。


 慌ててニヤつきを抑えようと首を振っていると、勇達もとい、ペアルックカップルが改札口をくぐっていく。


 まずい!と思ったワタシは慌てて切符売り場の前に立ち、画面をタッチすると横に深く帽子をかぶった赤髪の男も画面をタッチしていた。

 慌てていたワタシに責任があると感じ、すぐさま画面から手を離して『どうぞどうぞ』と手を使ってアピールする。

 すると男性も券売機から離れ、ワタシを優先するかのように両手でアピールをする。

 このままだと周りにも迷惑がかかりそうだと思ったワタシは軽くお辞儀し、券売機の前に立って勇の口から聞こえてきた店の近くにある駅の切符を買い、急いで改札口をくぐる。


「こうなるなら勇とICカード作っとけばよかった……」


 過去の自分に呆れた溜息を吐きながらペアルックカップルを探すために階段を降りていく。


「あ、いたいた」


 小さくそう呟きながら腰をかがめ、少し離れた場所から2人の行動を観察する。


 特に手を繋いだり腕を組む様子はない……それどころか話す様子すら見えないんだけど?もしかして、彼女の方も勇のこと保険の彼氏と思ってるのかな?そうだとしたらくっつけるのがかなり難しくなるなぁ……。


 うーむ、と頭を悩ませていると放送が鳴り、プラットホームに電車が到着する。

 私は2人の様子を確認しながらバレないように2人が乗った隣の車両に乗車し、ひと息つく。

 ここまでの時間は短かったとは言え、人の後ろをついていくという不慣れなことをするといつも以上に疲れてしまう。

 もう一度息を吐き、目的地の駅まで座り心地の良いロングシートに体をあずけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る