家での自分

 眉毛、目、鼻、口、と顔の全てが整っているこのイケメン。学校で見る姿とは全くの別人である男、聡善勇。


 この顔のおかげで中学時代は学校の全ての女子にモテていた。どんなに軽蔑しても顔がいいからなんとも思わないだとかそういう部分もいいよねとか、メンタルバケモンの女のせいでこの素顔を隠すことになってしまった。


「マジでモテるのめんどくせぇ……」


 ため息を吐きながらベッドの上に寝転ぶ。そしてスマホアプリのMINEを眺める。

 あいつと付き合った時に交換したが、1回も話していない。そもそもMINE自体を使わない。理由は簡単で友達がいないからだ。

 中学時代の友達は2人だけ。そしてその2人とも全く話していない。


「勇~、ご飯できたよー」


 俺の部屋を勝手に入ってくるのは妹の千咲──ショートボブの青髪でボーイッシュ系女子──だ。

 さらに俺は深いため息を吐きながらベッドから立ち上がる。


「黙って人の部屋はいるんじゃない」


 ペシっと妹の頭を叩いて部屋を出る。

 俺の後ろに着いてきながら話しかけてくる千咲。


「最近何かあったでしょ?」

「なにもないよ」

「うそつき~」


 「ういうい~」と俺の横腹をつついてくる千咲。

 そんな千咲を無視して早足で階段を下りる。

 

「そんな急がなくてもご飯は逃げないよー」

「分かってるよ」


 ニヤニヤと笑いながら少し遅れてダイニングに入ってくる千咲。

 テーブルの上には2人分のオムライス。父さんと母さんは共働きでほとんど家にはいない。だから家事は俺と千咲でやっているのだ。


「彼女できたでしょ」


 突然の妹の言葉に咳き込んでしまう。


「な、なんだよ急にっ、ゴホッ、作ってないよっ、ゴホッゴホッ」

「ごめんごめん。そんな驚くとは思わなかった」


 謝りながら水を出してくれる。でもそれだけでは終わらずに、それでと話を続けてくる。


「それで実際どうなんだい」

「だからいねぇって」

「嘘つきー。妹の目には誤魔化せませーん」

「うぜぇ……」


 俺そんなわかりやすいか?日常的に無表情を意識してるから分からないと思うんだが……。


「分かってないようだね、兄貴。昨日からスマホをよく確認してるから彼女できたんだなーって分かっちゃうんだよー」

「俺そんなに確認してたか?」

「うん、いつもより2倍も見る回数が増えてる」

「なんでいつもを知ってるんだよ……」


 俺の質問をスルーして腕を組んで話を進めてくる。


「まぁ勇にとっては初めての彼女だもんね。すごい可愛んだろうな」

「ブスだよ。死ぬほどブスだよ。陰キャで髪の毛ボサボサで不潔オーラ漂う女だよ」

「え、なんでそんな人と付き合ったの?」


 少し引き気味にそんなことを聞いてくる。

 

「モテたくないからとりあえず彼女を作って保険をつけた」


 すると千咲は苦笑しながら指摘をしてくる。


「勇ってかなり馬鹿だよね。あんな見た目で学校行ってたらモテるわけないでしょ」

「確かに高校に入ってから誰一人として女子が近づいてこないな。それどころか男子も」

「でしょ?あの見た目なら彼女なんて必要ないよ」


 鼻で笑い、千咲はオムライスを食べ始めた。

 

 確かにそうだ。誰も近づいてこないなら付き合う意味は無いのか。

 ──じゃあ別れるか?

 そんなことを言ったらさらに俺の印象が悪くなりそうだな……。そもそも俺が告白しておいてすぐに振るとか人間として終わってる。


 俺もオムライスを食べながら過去の自分の頭の悪さを恨む。

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