勇者が合コンに行ったら、たおしたはずの魔王がいた件について
今福シノ
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この状況を、どうやって切り抜けようか。
さっきから私の頭の中にあるのは、そんな気持ちだけだった。
「ちょっとリンディ、表情
「え?」
「魔王城に行く前と同じにしか見えないよ。男たちが見たら逃げてっちゃうから」
「そんなこと言われても、どんな顔してればいいかわかんないって……」
となり町の酒場、その奥にある6人がけのテーブル席。片側の3人席を埋める形で、私たちは座っている。
反対側の席を空けているのはそこに人が、男の人が座る予定だからだ。男性が3人、そして私たち女性が3人。
少人数で男女が向かい合って食事し、お酒を飲む。ひとことで言えば『合コン』。
「だーいじょうぶだって。リンディはふつーにしてたらかわいいんだから。ほらスマイルスマイル」
真ん中に座る丸顔の女の子が言う。ジャスミン――パーティメンバーとして一緒に戦ったかけがえのない仲間だが、今日の彼女の役割は合コンの幹事だ。
「いや、笑顔とか普段しないからわかんないし。ていうかほら、ツバキだって表情硬いじゃん」
「ひゃっ? わ、私ですか?」
窓際の席からうわずった声が上がる。小柄な彼女は緊張した
「わかってないな~。男はこういう守ってあげたくなる子が好きなんだって。それでいうとリンディは……守ってくれそう系かな。勇者さまだし。腕力すごいし」
「あんた殴るわよ?」
ジャスミンはお調子者なところがあるのでこういう会話は日常茶飯事なのだが、今は適当にあしらう余裕は私にはない。なにせこれから始まるは人生初合コン。慣れてる彼女のようにはいかない。
「ごめんねツバキ? つきあってもらっちゃって」
「あっ、いえ。おふたりにはいつもギルドでお世話になってますから」
ツバキはそう言うが、世話になっているのは私も同じだ。ギルドで働く彼女には、私が駆け出しのころからなにかとサポートをしてくれた。
と、間に挟まれたジャスミンが釘をさしてくる。
「言っとくけど、逃げちゃダメだからね」
「わ、わかってるわよ」
「今日はリンディのためにセッティングしたんだから」
「いや、私は別に」
控えめに答えると、彼女はずずい、と迫ってきて、
「ぜんぶリンディのためを思ってなんよ? 勇者さまがいつまで経っても独り身とかヤバいでしょ」
「それはまあ、うん」
「いくら国を救った英雄っていっても今年で25でしょ? 四捨五入したらもう30なんだから。アラサーだよ、アラサー」
「ぐ……」
たしかにアラサー勇者なんて二つ名、イヤすぎるけど。
「そりゃあ私だっていい人がいたら、とは思うけど……そもそもそういう人との出会いがないし」
「当たり前でしょーが。そんなポンポンいい男と出会えたら世の中苦労しないって。合コンがイヤならお見合いにする?」
「や、やめとく……」
「だよねー。聞いたよー? この間お見合いしたギルド会長の跡取り息子、蹴り飛ばしたんだって? そんな話聞いたらみんな敬遠するに決まってるじゃん」
「あっ、あれは私の肩書き目当てなのが見え見えすぎたからだし!」
しかも50歳だよ? 年齢倍じゃない。私にだって選ぶ権利くらいはある。
「ともかく。今日は相手がどんな人でも絶対に手は出さないこと。あ、手を出すっていってもベッドに連れこむのはアリだよ?」
「そっ、そそそそんなことするわけないでしょ!」
「ジョーダンだって。それから、最低ひとりとは合コン終わってからも
「うっ……」
「うっ、じゃないの。言っとくけど勇者っていうネームバリュー目当てにお見合いを希望してる男がどれだけいると思ってるのよ。それを陰で止めてるのは私なんだからね? むしろ感謝してほしいくらいだわ」
「わ、わかったわよ」
私だって政略結婚の一歩手前のお見合いは願い下げだ。
ひとまず今日はやるだけやるしかない、かあ。まさか数々の
「それで? 今日のお相手とやらはもう来るの?」
「うん、もうすぐだよー。私たちが時間より少し早く来たから。ほらリンディ初合コンだし、先に来て場所に慣れておいた方がいいかなーって」
「お気遣いどーも。で、どんな人たち?」
「えーとたしか、新しいビジネスに挑戦しようとしてる系……だったかな?」
「ええ……それ大丈夫なの?」
不安な香りしかしないんだけど。
「まー心配ないって。私の行きつけのバーあるじゃん? そこのマスターの紹介だし。しかもわりとイケメンらしいよ?」
「あっそ」
イケメンって言われてもなんだかよくわからない。だって今までモンスターとかを相手にしてきたことの方が圧倒的に多かったし。
「あ、まさかとは思うけど……私のこと言ってないでしょうね?」
「それって、リンディが魔王をたおした勇者だってこと? もちろん言ってないよー」
「ならいいんだけど……」
別にやましいことはないけど、私が勇者だと知ったら変な先入観で見られそうだし。それにどうせなら私の肩書きを気にしない人がいい。
「こんばんはー」
と、私たちの背中の方から声が聞こえてくる。どうやら男性陣のお出ましだ。
「待たせちゃったかなー。ごめんねー」
「ぜーんぜん。時間どおりですよー」
向こうの幹事らしき人と流れるように会話するジャスミン。さすが合コン慣れしてるだけはある。
「どーぞどーぞ、座って座ってー」
「それじゃあ失礼しまーす」
やってきた3人の男性が、私たちの対面にある席に順番に座っていく。
1人目、この人が幹事かあ。
2人目、年齢は私と同じくらいかな。
たしかにふたりとも顔は悪くない。ジャスミンが豪語するだけのことはある。
なんて考えていると、最後の男の人が座った。
真っ先に目がついたのは黒髪。めずらしいなあ。遠い東の方の国や、それこそ闇の一族は黒髪が多いらしいけど、このへんではほとんど見かけたことがない。
そんなことを考えながら、3人目の顔を見た瞬間、
「……あ?」
「……ん?」
私は絶句した。絶句するしなかなった。
なぜって?
だってそこにいたのは、私がたおしたはずの魔王だったから。
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