『死神と少女』(5)
亜矢が次に意識を取り戻した時に立っていたのは、先程まで歩いていた下校途中の路上。
「亜矢、何言ってるの?亜矢の隣の部屋にグリアくんが引越してきたのは随分前の事じゃない」
さっきも聞いた事がある台詞を言う、親友の美保。
亜矢は歩みを止めた。
「あ、あれ、あたし———」
夢から急に現実に戻された気がして、亜矢は呆然と立ち尽くした。
「どうしたの、亜矢?」
心配そうに見つめる美保の姿も目に入らず。
亜矢はふと、道路を挟んだ向こう側の道に視線を動かす。
グリアの姿は、ない。
さっきは確かに、グリアの姿を追って道路に出て、車に—……。
(白昼夢でも見てたのかしら…)
心の晴れないまま、その後亜矢は何事もなく帰宅した。
その日の夜だった。
亜矢は今日の事を思い出しながら、自分の部屋のベッドの上で転がっていた。
「あたし、疲れているのかしら…」
こういう時は寝るに限る!と思った時、来客を知らせるインターホンが鳴った。
亜矢はベッドから降りると、玄関の方へと向かう。
玄関のドアを開けて、固まった。
相手を見てからドアを開けるべきだった。
一人暮らしの基本を忘れていた。
「よお、来たぜ。コンバンワ」
何くわぬ顔で挨拶をしてくる、お隣さん。
「あーー!!あんた、死神!!」
思わず叫んだ亜矢に構わず、グリアは意地の悪そうな笑いを浮かべる。
「そう、死神グリアだ。おっと、お邪魔するぜ」
グリアは何といきなり、乱暴に靴を脱ぐと亜矢の部屋にズカズカと上がりこんで来た。
「ちょ、ちょっと何してんのよ!?警察呼ぶわよ!」
「何だよ、せっかく来てやったのに」
グリアは亜矢の部屋の中心に偉そうにあぐらをかいて座った。
「あんたの命はオレ様が握っているという事、忘れるな」
その脅迫じみた一言に、亜矢は衝撃を受けた。
「何で、あんたがあたしの夢の内容を知って……いるの?」
亜矢は力が抜けるようにしてグリアの前に座り込んだ。
「夢じゃねえよ。何なら、ここで鎌出してやろうか?」
夢だと思いたかったのだ。
信じたくなかっただけ。
亜矢は諦めたというか、心を決めた。
「いい、分かった………わ」
「お、物わかりいいな?その前にとりあえず、茶出せよ。オレ様は客なんだぜ?」
いきなり何様!?というか死神って茶飲むの!?と思いつつ、亜矢は仕方なくグリアに湯のみを出してやった。
コイツには、自分にとって重要なものを握られているからだ。
他でもない、自分の『命』。
「で、何しに来たのよ、死神」
「下の名前で呼びな。そのくらい許可してやる」
本当にコイツ何様ッ!?と腹を立てる亜矢の前で、グリアはズズーっとわざとらしく音を立ててお茶をすすると、意外にも真面目な表情をして亜矢に言う。
「あんたの心臓は仮のものだって言ったよな?その機能を維持させる為に必要なものがあるんだよ」
切り出された内容も、思ったよりも真面目で深刻なようだ。
「それって…何?」
不安げに聞く亜矢。
自分の心臓部分に手を当ててみる。
まだ信じられない、自分の中にある心臓が死神に与えられた物だって事が。
「それは、オレ様が定期的にあんたの心臓に『命の力』を注ぎ込む事だ」
亜矢はその時点で嫌な予感がした。
「機械があっても、電池が切れると動かなくなるだろ?まあ、命の充電…みたいなものか」
亜矢は少し身を引いた。今さらだが、自分の身にとてつもない危険を感じる。
「オレ様自身の力をあんたに分けてやるんだ、ありがたく思えよ」
「ちょ、ちょっと待って。その充電の方法って……」
恐る恐る聞く亜矢。だが、グリアはあっさりとしている。
「ああ?そんなの口移しに決まってんだろ」
「い、いやぁぁ!!何でそうなるのよッ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます