失踪2

 呆然としたまま三日が過ぎていた。


 依然として夫は帰ってこないが、夕夏にも仕事がある。なんとか出社するものの、寝不足のままでいつもより酷く精彩を欠き、迷惑をかけてばかりだった。


 帰宅途中には、夫と出掛けた飲食店や公園にも探しに行った。


 もちろん警察にも届けていた。


 でもあまり期待しないで欲しいと言われた。失踪者は毎年膨大で、人員が圧倒的に足りていないという。


 他国に比べて圧倒的に少ない公務員の数ならそうなる。


「…」


 ため息すら出ないが、田畑が手を回したのか、会社の方は大丈夫だと言ってくれていたことは助かった。


 どこまでが本当かわからないが、信じるしかない。


 そんな中、田畑に誘われたが会わなかった。


 あんなにも愛しく感じていたのに、煩わしかった。 


 浮気相手の女のお店は教えてくれなかったのだ。確認はしてくれはしたけど、来ていないと言っていたらしい。


 もしかして、夫は浮気なんかしてなかったのでは? その考えも何度か浮かんだが、すぐに振り払っていた。


 そうなると夫は、出ていったのかもしれない。


 そんな考えに至るからだ。


「もう帰ってこないのかも……」


 だが、三日も経てば、頭の隅に追いやっていたその考えに、ようやく観念し、至った。


 そう思うと、リモートでしたのが最後の会話だった。


 だが、乱れ、達してしまい、何と言ったかわからなかった。夫の顔を見ようとは思っていたが、見ている余裕はなかった。自分も何を言ったか正確には覚えていなかった。


 最後の言葉はいったいなんだったのだろうか。


 録画モードにしておけば良かった。


 いや、しなくて良かった。


 今はそんなことを考えられない。考えたくない。でも考えてしまう。何せ結婚してからこんなに顔を合わせなかったことなどなかったのだ。


 最後の顔はどんな顔だっただろうか。


 いろいろと夫の思い出を思い出すも、最近の辛そうな顔しか浮かんでこない。


 そんな顔をしても許しませんから、そう思っていた。


 だけど君を愛してる、そう言ってくれていた。


 あれが最後だと夕夏は思いたくなかった。


 そんな時、事故のニュースが流れた。


 痛ましい飛行機事故だ。


 多くの人が亡くなっていた。


「も、もしかして…」


 死、つまり自殺。


 考えないようにしていたもう一つのことが頭の中を埋め尽くしていく。


 確かにあの日、帰った時の部屋の様子はおかしかった。きっちりとしている性格の夫は、窓を閉め忘れたりしない。


 電気も付けっぱなしで外出などしない。


 どこか突発的に行動したような気になってくる。


「いつから…?」


 夕方とはいえ、まだ暗くなってはいなかった。電気はいつから着いていたのか。


 もしかして私が抱かれている最中に…?


 祈るようにしてテーブルに肘をつく。


 ネックレスに光がゆらりと乱反射を繰り返す。


 一緒に選んだダイニングテーブルに暗い影が落ちている。


 いや、ここにあるものは全て二人の足跡だ。


 でもそれは砂上の楼閣のようにサラサラと崩れていくようにも見えてくる。


 崩すつもりなど決してないのに、流れていく。


「ああ…嘘よ、わたしが…あんなことしなければ…お願い、お願いよ、あなた…帰ってきて…ううん、どうか無事でいて……!」


 夕夏が恐怖に支配されそうになった時、スマホが鳴った。


「あなたっ! …は、はい、え…ええ、小浜誠一郎の妻ですが…」


 それは、警察からだった。

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