あかいお顔のだれかさん
その後、食事は配膳台でちらし寿司を並べました。
そして皆で席につきます。今日は席が決まっているようで、私はヨシエさんに言われる通りの席に座りました。
席の並びは男女一列で向かい合う形でした。
男子の列は長男のマサさん、次男のリョウジさん、三男のトシさん。
女子の列は長女のヨシエさん、次女のミエちゃん、私ことアッコ。その横に高見家の又従姉妹のセッちゃん、三女のヨシ子ちゃん、四女のアキちゃん、五女のサチちゃん。
そして良一様は上座。ヨシエさんとマサさんの間で皆を見渡せるように座ります。
え?なにこの席順?
いつもは円を作って座ったり、なんとなく列になっている程度だったりですのに、今日はしっかりと整列しています。
あっ、ひな祭りだからかな?
と、納得するも、私の正面がトシさんで、ついつい意識してしまいます。
その、私のお化粧はどうでしょうか?変じゃないでしょうか?
聞きたいですが、食事前にする話ではないです。
トシさんは……こちらを気にしているでしょうか?
顔を上げたくても、なんでか上げることができませんでした。
良一様が静かに「いただきます」と言い、それを合図にみんなで食事をはじめます。
みんな、モクモクと食べています。
高見家において食事中は楽しくお話をする家庭でして、食卓では今日の仕事の成果とか、学校でなにを学んだかを報告も兼ねてお話をします。
が、今日はいつになく静かです。水を打ったような静けさとはこの事です。
おしゃべりなセッちゃんですら、モクモクと食べています。
その中で口火を切ったのは長男のマサさんです。マサさんはこの後にお仕事なのか、亜麻のクリーム色をしたスーツの上着をヒザの横に置き、お箸をすすめていました。
マサさんがポンと箸を置き、口を開きます。
「なんだ、今日はみんなきらびやかやね。お雛さんを見てご飯を食べているみたいや」
それを聞き、良一様が嬉しそうにうなずきます。
「ほんとうに、娘たちと元気に春を迎えられてなによりだ。みんな顔色もよくとても可愛らしい」
「ほんま、ほんま」とリョウジさんが続けます。
「なかでも、アッコさんはほんまベッピンさんや。めかしこまんでもベッピンやけど、少し整えただけでどこぞのお嬢様みたいや、な?トシ?」
話を振られ、トシさんは「せやな」と小さく返します。
そんな彼の姿をこっそり確認するため、お椀のお汁をすする仕草をしながら上目で見つめます。
すると、向こうもこちらを同じように見ていたので、慌てて視線を下に落としました。
一瞬のことですが、私はトシさんの変化に気付きました。
彼の髪型はいつも短めで自然になびかせていましたが、今日は左右にキッチリと分けた散切り頭でした。
服装はいつもの和装ですが、色落ちしていない紺色で、シワもなく、おろしたてだということが一目で分かりました。
そこに気付いたことで、私の顔はまたも沸騰しそうなくらいに赤くなります。
この後、食事のあと、神社で、ランデブーで、トシさんに何か大事な話をされる!
そう確信したから、意識しちゃうから、顔が熱くなったのです。
だって、キッチリと髪や服をキメて、それでお誘いをしたってことは……そういうことでしょ?
色々と考えてしまって頭が回らない私に気づかってか、ヨシエさんが話を続けます。
「ほんで、お昼のあとにみんなで神社に行こうと思ってるんだけど、私は小さい子たちを見とくから、トシはしっかりエスコートするんよ」
「わかっとる、ごっそさん」
ぶっきらぼうにトシさんが言って、お箸を置くと部屋を出ていきます。
ヨシエさんは「あらあら」と、頬に手をそえました。
「今のはヤブヘビやで」
ミエちゃんに言われ、ヨシエさんは苦笑いをします。
「だって、つい~、ね?アッコちゃん」
私に聞かれても、出せる言葉はありません。
代わりにセッちゃんが言います。
「おかわり!」
「あらへん」
ミエちゃんがきっぱりと言いました。
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