第102話 御神木

領都にきた翌日、朝食の後に城内の御神木を見にきたナコ達。


ジーンとカナは丁度領都内にベルタ商会のトールがいた為、トールと一緒に城下の方で過ごしている。


と言うのも、ジーンが一緒に来るのはわかっていたので、トールの方からジーンを商会で預かると言ってくれたのである。


なかなか一緒にいることができないナコはトールに2人をお願いすることにした。2人はほっとした表情でトールに付いて行った。


(2人ともいきなりお城に連れてきちゃってごめん!)


心の中で謝罪しつつ、ナコはカイトの従者に案内されて御神木へ向かった。


場内にある庭園は広かった。あまり植物が育っていない為、華やかさはあまりないがそれでも定期的に人の手が入り、清潔な庭園となっている。


そんな庭園の中心に大きな大きな木がある。前世ではCMに出てきそうな大きな大きな木である。しめ縄こそないものの、普通の木ではないことは誰もがわかるであろうそんな空気感を纏う木である。


「これが御神木なんですね。なんて言うか…すごく魔力が溢れてきていますね。」


ナコが神の目で見ると魔力が溢れ、空まで白い光の筋が伸びていた。ナコもお祈りの場や神道を作ってきたが、ここほど魔力が溢れているところは初めてである。


さらに驚いたのは、御神木か周りには丸い光があること。つまり浮遊精霊である。つまり御神木の近くは魔力で溢れた良い環境だと言うことだ。


(でも、これほどすごいのになぜ魔力が外に広がっていないのかなあ。)


ナコは少し首を傾げながら御神木を見上げた。


「ナコ、どうだ?」


「ユート様、ここはすごいですよ。魔力が溢れています。」


「本当か?!精霊達もそう言うんだが、私には見えないんだ。」


「ではこちらをお貸しします。」


神の目を付与した眼鏡をユートに渡すナコ。ユートがその眼鏡をかけて御神木の方を見るとフィール村よりもキラキラと光っていた。その光の中に浮遊精霊を見つけたユート。


「ナコ、あれは精霊だよな?」


「はい。精霊です。つまりここは精霊が生まれることができるほど魔力がたくさんあると言うことです。でも、わからないのは、なぜこんなに魔力で満たされているのに、他に魔力が広がっていないのでしょう?」


「それはここで魔道師団が魔力を御神木に向かって注いでいるからだろう。私がフィール村から戻ってきた時には、ウーもディーも何も言っていなかった。恐らく魔力を注いでくれた者達のおかげで、こうなったのではないか?なあ、ディー、コウ。」


———そうだよ。前はなかったよ!


———ここの人間達すごく頑張っていたわ。


「そうなの!皆様、そんなに前向きに頑張ってくれているのね!」


「相手は魔道師団だからね。団長や我々が精霊と一緒に戻ってきたと知った彼らは、自分も精霊と契約したいとやる気を出してね。ディー達は、まだ実体化してないが、団長の精霊はもう実体化しているよ。私も頑張らなくては。」


———ユートはいっぱい魔力をくれているわ!


———そうだよ!ユートにはコウもトキもいるからね!僕達に必要な魔力量が違うんだよ。


「なるほど。だそうですよ、ユート様。精霊達はユート様をよく見ていますね。」


「そうだな。ディー達は本当に良くしてくれるよ。」


「それは何よりです。ではとりあえず魔法師団の方達にはそのまま頑張って頂き、ここにいる浮遊精霊達はカイト様やスミレ様に契約して頂きますか?一応、この領の代表の方々ですから、他の方よりも優先してもいいですよね?」


「そうだな。父上達にも伝えよう。ついでにこの庭全体に神の目をつけることはできるか?後、すでにここが神道となっているとしてもお祈りをする場所があると嬉しいのだが。」


「それならガンツさんが一緒に来ているので作ってもらいましょう。私はカミーラがいないので、緑属性が使えないのです。」


「それなら、ガンツにお願いしたい…が、ガンツはどこに?」


「領都に入って瞬間、領都中の建物と言う建物を見に行っています。昨日もジーン達と違って城にも来ませんでした。どこに泊まったのやら。アル、ちょっとガンツさんを呼んできてくれる?」


———わかったー!


「さて、アルがガンツさんを連れてくるまでにカイト様に話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「そうだね。ではガンツが入れる様に従者に伝えた後、父上のところに行こうか。」


「はい、お手数おかけして申し訳ありません。」


ユートがガンツが城到着したらその庭園に来れる様従者に頼んでくれたので、ナコはカイトのところへ向かった。


「父上、少しよろしいでしょうか?」


「うむ、この庭園の様子はどうであった?」


「こちら、ナコに借りた魔力や精霊が見れる眼鏡です。ご覧ください。」


ユートがナコに借りた眼鏡をカイトに渡すと、カイトはそれを掛け庭園を見回しながら驚きの声を上げる。


「これは!こんな風に見えるのか?ナコはこんな景色をいつも見ているのか?」


「はい、いつでも見ることができます。見ようと思えばですが。ところで領主様、御神木の近くにすごく小さいですが光の玉が見えませんか?あれが、精霊です。浮遊精霊と言ってまだ小さいのですが、ちゃんと精霊です。今はまだ小さいので契約できませんが、しばらく魔力を注ぎ続ければ身体が大きくなり、進化します。そうすれば契約することが可能です。そうなりましたら、ぜひご契約をなさってください。」


「そうか…すごいな。こんな景色今まで知らなかったよ…」


「それなんですが、ナコに頼んでここに入った者は皆、見える状態にしたいのですが、早速設置してもよろしいでしょうか?」


「そうだな。お願いするよ。」


「では、ガンツさんが来てからお祈りの場と一緒に設置させて頂きますね。ガンツさん、いつくるかわかりませんが…」


「申し訳ありません。ガンツは大工として建築に関するものに目がないのです。」


「よいよい。では先に教会へ行ってきてはくれないか?教会と畑とその2つに赴いた後ならば、そのガンツという者も、城に到着しているだろう。」


「承知しました。では、その様にさせて頂きます。」


こうしてナコ達は、ガンツが城へ来るまでの間に教会や畑へ行くこととなった。


(これって領主様を待たれているわけだから、領主様によっては大問題じゃない?)


ガンツの建築への熱量に感心しつつも呆れるナコ達であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る