第39話 レヴィン、消滅する
いつまた勝手に
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「チッ」
炎の塊、と言うより灼熱の溶岩のような火炎弾がスネイトに迫る。
スネイトも流石に魔法を喰らうつもりはないようで、右手をかざすと光弾を放った。耳をつんざくほどの音が鳴り響く。火のついた花火を水につけた時に発せられるような、ジュッと言う音だが規模が違う。スネイトがまたもや舌打ちをする。火炎弾は吹き飛ばされることもなく、スネイトへと迫っていた。その隙に鎖を破壊しつつ、スネイトの背後へと回り込んだレヴィンは斬り掛かる前にまたしても魔法陣を展開した。
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指向性を持った雷がスネイトに直撃し、彼を中心に荒れ狂う。
「グウウウウウウウ」
スネイトの低い唸り声が上がったかと思うと、火炎弾に降り注いでいた光弾の雨が止む。
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レヴィンは騎士剣技を発動すると、スネイトを背後から薙ぎ斬った。
一瞬でスネイトの脇を駆け抜けたレヴィンが振り返る。そこには憤怒の表情をしたスネイトがいた。斬られた傷口からは流血ではなく、黒い塵芥のようなものが見える。
「異世界人風情がぁぁぁぁぁ!」
怒声を上げながら凄まじい速度でレヴィンとの間合いを詰めたスネイトは光り輝く右拳をその腹部に向けて放つ。だがレヴィンには見えている。半身になってそれを避ける。そしてそのまま右手の剣をスネイトに振り下ろした。手ごたえは――ない。その剣はガッチリとスネイトの左手に受け止められていた。力づくでレヴィンごと剣を持ち上げたスネイトは、それを地面に向けて振り下ろす。レヴィンは地面に叩きつけられる前に剣から手を離し、空中で体勢を立て直すと器用に着地してみせた。すぐに反撃に移ろうとするが、その目の前に数えきれない程の光弾が飛んでくるのに気付き、慌てて後方に飛び退る。次から次へと飛んでくる光弾に焦れたレヴィンは魔法陣を展開した。
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五条の光が光の弾幕を打ち抜いて、スネイトへと迫る。恐らく現時点でレヴィンが使用できる最高の攻撃力を誇る魔法だ。しかしスネイトとは距離が空いてしまった。かわされては意味がないし、遠距離からの撃ち合いになったら時間が無駄に過ぎていくだけだろう。そう考えたレヴィンは、付与魔法による身体強化の魔法を自らに掛けると、光弾の飛んでくる方向へと走る。こうなったら肉弾戦に持ち込んで、零距離から魔法をぶちかますだけだ。光と土煙の中、一向に光弾が止まないところを見ると、【
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
落とし穴であった。しかも意外と深い。迂闊であったとレヴィンは歯噛みして悔しがった。
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ふわりと浮かび上がったレヴィンは、ゆっくりと穴の上へと昇り始めた。この魔法は移動速度がとてつもなく遅いのだ。外はサリオンが出した光球があるので、微かに脱出口の位置は見えるが、そこまで視界はよくない。しかしスネイトの攻勢は終わらなかった。のろのろと上昇していたレヴィンの元へ何本もの鎖が伸びてきて、その両手両足を縛める。鎖の色が漆黒だったので視認が遅れたのだ。それに機動力がほとんどない【
「レヴィンさん! 今行きます!」
馬鹿正直に戦いをジッと静観していたサリオンが叫ぶ。
援護に向かおうとする彼女。それを留めたのは他ならぬレヴィンの怒鳴り声であった。
「サリオン、来るなッ!」
レヴィンはダメージを負い、ボロボロになりながらも両手の鎖を破壊すると、足首に巻きついている鎖を壊しにかかる。
「どうしてそこまでッ!?」
「手を借りて倒したら願いが叶わないだろうがッ!」
レヴィンの目的は変わっていないようだと、サリオンは額に手を当てて溜め息をついている。スネイトはそんなやり取りなどお構いなしに鎖を操ると、レヴィンを大地に叩きつける。凄まじいまでの衝撃がレヴィンを襲った。スネイトは執拗に何度も何度も、それを繰り返す。繰り返される大地の攻撃は、流石のレヴィンにも大ダメージを与えた。
「ははははははははッ!」
レヴィンはあまりにも嬉し過ぎて笑いが止まらない。狂気の笑みだ。
これこそ、これこそが今、生きていると言う強い実感!
レヴィンはこの名前も知らない惑星に叩きつけられているのだ。すなわち、この大地こそが凶器なのである。レヴィンは何とか足の縛めを外すと、起き上がって後方へ飛びつつ魔法陣を展開する。
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光魔法レベル2の魔法で自らを回復したレヴィンに、光と闇がとぐろを巻いたような波動が迫る。大地を荒く削りながら。着地の瞬間を狙った凄まじい速度の波動であったが、レヴィンはそれをギリギリのところでかわすと、すぐに魔法を放った。
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風の刃がスネイトに向かって飛んでいく。もちろんダメージを与えられるとは考えていない。レヴィンは同じ魔法を連発しながらスネイトに接近する。その全てを吹き散らされながらもスネイトの懐に入り込むことに成功したレヴィンは、魔力を纏わせた左拳で顔面を思い切り殴りつけた。それを焦りの表情でかわしたスネイトも反撃に移る。
最早、二人は防御を無視した状態で殴り合っていた。
「人間如きがぁぁぁぁ!」
「見下してんじゃねーよッ! その人間に頼らざるを得ない駄目神がッ!」
「お前らは所詮、少々『使える』だけの道具なのだ。分を弁えろ!」
「今まで何人さらった? 人間を『使える』か『使えないか』で判断するんじゃねぇッ!」
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超至近距離から放たれたレヴィンの魔法にスネイトの体に風穴が開く。が、スネイトは怯まなかった。体を崩壊させながらも憤怒の形相で光の鎖を手から生み出す。一瞬にしてレヴィンの体が束縛されるが、怒りを込めた最後の一発がスネイトの右頬を殴り飛ばす。レヴィンは拘束のせいで大地に倒れ伏した。吹っ飛ばされたスネイトも鎖で体の自由を奪われたレヴィンも満身創痍な状態だ。レヴィンは何とか手の縛めを外すと、大地に横たわったまま、回復魔法を使おうと頭の中に魔法陣を浮かび上がらせる。しかし、レヴィンの目に飛び込んで来たのは、両手に光と闇の混じった超巨大なエネルギーの塊をまとわせて迫り来るスネイトの姿だった。
ズガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンッ!!!!!
激しい爆音を轟かせ、爆風が土煙を吹き散らす。
腕で自分の目を守りながらも何とか爆心地に目を向けるサリオン。
「レヴィンさんッ!」
未だ収まらぬ土煙の中でサリオンは状況が把握できない。
感知したスネイトの力を頼りに何とか突攻を掛けるも、サリオンの攻撃は受け流されてしまった。最早、周囲からレヴィンの力は感じられない。サリオンはその場にガクリと膝を着いた。
その表情は茫然自失、レヴィンを止められなかった悔恨からか、光を失った瞳でレヴィンが消滅した辺りを見つめていた。
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