第27話 レヴィン、精霊の森を彷徨う
レヴィンは一人、精霊の森へと足を運んでいた。
折悪く、《
見えてきたのは三体の
【
レヴィンはすぐに
「おいッ! 大丈夫かッ!?」
その顔を見た瞬間、レヴィンに電気信号のような刺激が走った。年の頃は恐らくレヴィンと同じくらいだろう。剣を握っている辺り、
「お……お前……もしかして……レヴィン……か……?」
かすれた声で問い掛ける少年の言葉に驚愕をすると同時に、レヴィンの脳裏に次々と浮かんでくるものがあった。ぼやけていたものが鮮明なイメージに変わる。
「お前……ヴァイスか?」
力なく頷くヴァイスを見てレヴィンは逡巡する。傷口は脇腹だ。皮鎧ごと薙ぎ斬られたようだ。光魔法で傷を治癒させることは簡単だが、既にレヴィンが暗黒魔法を使ったところを見られている。職業変更できないこの国で暗黒導士が光魔法を使えるとバレるのはマズい。とは言え、見捨てると言う選択肢はない。しばらく考えてハッと顔を上げるレヴィン。念のためリュックの中に入れて持ち歩いている回復薬の存在を思い出したのだ。直ぐ様、青色の結晶体――ミドルポーションを取り出すと傷口に当てた。
「はぁッ!? 何故、回復しないッ!?」
普通であれば、この青の結晶を患部に当てれば傷が塞がり回復するはずなのだ。実際、レヴィンが怪我を負った時、父親のグレンがポーションを使ってくれたことがあるのだ。
「あッ……確か飲ませても回復するはず……」
思い当たったことをすぐに実行に移すレヴィン。
しかし――飲ませることができない
再び、疑問が頭の中を埋め尽くし、混乱が加速する。ループし続ける思考と困惑を振り払い、レヴィンは自分で飲んでみようと試みる。が、やはり飲むことができない
その瞬間、レヴィンは全てを理解した。
「魔導士が剣を扱えないのと同じなんだ……魔導具を使えるのは――魔道具士のみ?」
思えばグレンは魔導具士である。ここでも前世の固定観念が邪魔をしたのだ。魔導具、つまりアイテムなど誰でも使えると思っていた。過去から学べなかった自分を呪いつつ、レヴィンはヴァイスに【
しばらくして目を覚ましたヴァイスは記憶が混濁している様子であった。レヴィンは助かったと思いながら、通りすがりの魔導具士が助けてくれたと苦しい言い訳をしておいた。
「それにしても、まさかレヴィンに助けられるなんてな。助かったよ……」
「ああ、俺も襲われているのがヴァイスとは思わなかった。ヴァイスは今、何してんだ?」
「俺か? 俺は
「そうだっけ? でもいくら
「そう言うレヴィンも一人じゃないか」
「まぁ、そうなんだけど。俺は強いからな。問題ねーよ」
「……レヴィンはしばらく見ない内に変わったな……」
もう何度も変わったと言われているレヴィンとしては慣れたものだ。それよりもレヴィンは頭の中にある過去のヴァイスのイメージと、目の前にいる少年のイメージが一致しないことに違和感を覚えていた。
「そうか? そりゃ小学校以来だと変わって見えるだろうさ。それよりヴァイスの方こそ変わったんじゃないか?」
「……そう見えるか?」
レヴィンの問い掛けに、俯いたヴァイスの顔が明らかに曇る。何か言えないことがあるのだろう。そのわだかまりが彼の表情に影を落としている原因に違いない。レヴィンとしても何かしてあげたいが、ゆっくりでも本人が一歩踏み出さねば意味がないと思っている。となれば、少しでも気の晴れそうな、背中を押してあげられるような言葉を掛けるのみだ。
「そういや、俺とアシリアたちで
ヴァイスが驚いたような表情でガバッと顔を上げる。
「俺なんかを誘ってくれるのか……?」
「おうよ」
「俺はレベルも低いし、弱い……。役に立てないかも知れない」
「問題ない」
「どうして……何故、そんな簡単に受け入れてくれるんだ? 俺は昔、お前をからかっていたんだぞ?」
それを聞いてレヴィンはようやく違和感の正体に気付いた。小学校時代のヴァイスは早くからレベルを上げて強くなり、その腕っぷしからガキ大将のような立ち位置にいたはずだ。態度も尊大で今の卑屈なそれとは違う。レヴィンの鋭い視線がヴァイスを射抜く。
「過去は過去だ。過ぎたことに囚われていても意味はない。そんな些事は水に流してしまえばいい。俺は気にしない。どうしても気になると言うのなら、これから変わる努力をすればいい」
ヴァイスはレヴィンの言葉を聞いて再び俯いた。しばしの刻が流れる。催促はしない。レヴィンはただただ言葉を待った。やがて沈黙を破ったのはヴァイスであった。
「本当に俺なんかでいいのか?」
「なんかなんて言うなよ。自信を持て。俺たちはまだ十四歳だ。時間は十分にあるし、これから何にでもなれる」
「ははッ……大人みたいなことを言うんだな」
レヴィンはヴァイスの顔がようやく綻んだ気がして心が温かくなるのを感じていた。しかし結局、ヴァイスがパーティへ入れてくれと言うことはなかった。
二人は立ち上がると、王都へ戻るべく歩き出した。しばらくパーティメンバーのことを話しながら歩いていると、剣と剣がぶつかり合う音と魔物の遠吠えが聞こえてきた。どうやらまた厄介事らしい。レヴィンとヴァイスは顔を見合わせると、すぐに駆け出した。反響する鋭い音に中々場所を特定できなかったが、やがて深緑色のローブを纏って長剣を振るう男と、豚人に率いられたフォレストウルフの戦闘場面に出くわした。既に多くの魔物が倒された後らしく、大地には多くのフォレストウルフの屍骸が横たわっている。
【
低い声でボソリと紡がれた『
「レベル3の付与魔法か……やるじゃねーか」
豚人がガクリと膝から崩れ落ちる。しかし、大剣を支えに何とか倒れないように踏み止まっている。ローブの男はそんな豚人に近寄ると、あっさりとトドメを刺した。統率者を失ったフォレストウルフは散り散りになって逃げてゆく。追撃せずにそれを見送った男は長剣の血を振り払うと鞘に収めた。ここでようやく近づいて来るレヴィンたちの存在に気付いたようだ。
「あんた、中々やるな。付与術士か? 一人であの群れを殺るとはな」
ヴァイスもレヴィンの後に続いて近寄るが、ローブの男は気まずげに視線を背けた。改めてよくよく見ると男はまだ若く、少年のような風貌をしている。
「ん? お前、ノイマンじゃないか?」
ヴァイスが意外そうな声を上げると、ノイマンと呼ばれた少年が俯いていた顔を上げる。フードで顔がよく見えないがアッシュグレーの髪が覗いている。レヴィンはダライアスの言葉を思い出していた。彼の話によれば、優秀で良いヤツだと言う話だったはずだ。
「……誰だったかな?」
「俺だよ。同じ小学校に通ってたヴァイスだ。覚えてないか?」
嬉しそうに話すヴァイスの顔を見つめ、少し考える素振りを見せるノイマン。
「ああ……
「あんた、いや君がノイマンか……? 俺のことは分かるかい?」
「フッ……当然さ。レヴィンだろ……?」
「おッ嬉しいねぇ。俺のことを覚えていてくれるなんてな」
「最近、話題だからね。無気力男が、熱血男になったってね」
「んだよ。その暑苦しそうなネーミングは……」
「自分が一番良く分かってるんじゃないかな?」
レヴィンは苦笑いを隠せない。どうやら思っている以上に目立っているようだ。聞けば、ノイマンもよくレベル上げに精霊の森へ来ているらしい。一人で来ている辺り自信がある証拠だろう。レヴィンは一瞬、ノイマンもパーティに誘おうかと考えたが止めておいた。
レヴィンとしては優秀な者が《
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます