第155話 進展
レオンの騒動から数日が経った。
わっけーの仕掛けた発信機だが、いよいよトラックの方が動きが無くなってしまう。しばらく送られ続けていた映像と発信機の座標から、どうやら乗り捨てられたようである。だが、靴の方には気付かれていないらしく、こちらはまだ足元からの景色を映し出していた。
水崎警部はこの情報を元に全国の警察と連絡を取りながら、レオン包囲網を敷いていった。もちろん、そのためにレオン・アトゥールの情報も渡していた。おそらく、捕まるのは時間の問題だろうと思われていた。
そんな中、レオンの妻である理恵の母親も任意ながら警察から聴取を受けていた。理恵の母親は既に観念しているらしく、知っている限りの事を警察に話していた。だが、レオンのしている事に積極的に加担していたわけではなく、知っていながら黙っていたという事で、犯人隠避の罪に問われる事になった。十分反省しているという事もあって、逮捕までには至らなかったようである。多分、そこには理恵への影響も考慮されたのだろう。父親は犯罪者として逃亡中な上に、母親まで逮捕されたとあっては、思春期の娘には影響が大きすぎると考えられたのだ。
この寛大な対処に、理恵の母親は涙ながらに水崎警部に頭を下げていた。
ただ、これには監視が付くという事は伝えておいた。当たり前の話である。今までレオンのしでかした事を知っていて黙っていたのだから、信用はないのだから。それでも、一応見逃してもらえるわけだから、理恵の母親は涙を流して喜んだのである。
とりあえずは理恵の母親は家で監視を受けながら一人暮らし。理恵は引き続きわっけーの家で暮らす方向で話は決着したのだった。
一時的かも知れないが、レオンの脅威が去った事で、草利中学校の校長室に改めて捜査のメスが入る。夏休みに栞たちが仕掛けた隠しカメラは、その位置を事前に提供していたのだが、重要証拠としてすべて回収されていった。
とにかく、校長室は隅々まで警察官たちの手によって調べ上げられた。すると、いろんなものが発見されたのだった。机の引き出しに二重底だったり、本棚に二重壁だったり、わずかなスペースを作ってはいろんなものが隠されていた。それらはすべて回収され、鑑定に回される事となった。まったく、どれだけ好き勝手に校長室を使っていたのかが分かるというものだ。
長らく校長室を不在にしていた校長は、あまりの事に反省をしていた。
「いやはや。これほどやってくれているとはな。四方津組の残党の対処に力を割いてしまったがゆえに、まさかこんな事になっていようとはな……」
あまりの光景に、捜査に同席していた校長は苦笑いをするしかなかった。
だが、これで草利中学校に蔓延っていた悪い噂は解決に向かっていくだろう。そう思えば、まだ未解決の事があるとはいえど、ひとまずは胸を撫で下ろせるというものである。
ただこうなってくると次の問題は、調査員たちの扱いという事になるだろう。
そもそもこの調査員というのは、草利中学校の噂の真相を暴くために結成されたのである。もしこれで噂がすべて解決するような事になれば、この調査員たちの役目は終わってしまう事になる。
真彩や勝は現役の中学生であるために、調査員の役目を終えてもそのまま学校に通い続けるわけだが、問題は栞と千夏の二人だった。
栞と千夏の二人はそもそも市役所の一職員でしかない。栞はその見た目から、千夏は教員免許を有していた事から送り込まれただけなのである。
これで事態が解決したとなると、二人は晴れてお役御免となり、ただの市の職員に戻る事になる手はずとなっているはずである。
二人の扱いについては、市役所も慎重に構えているようだ。
その理由として、現在が11月という中途半端な時期になる事である。となると、せめて年末までは引き延ばしたいと考えるものだろう。結果、市役所としては結論は先送りになった。栞と千夏の二人から聞き取りを行った上で、最終的な結論を下す事にしたのである。
市役所からの通達を受け取った栞は、その日の夜、ベッドの上でごろんと転がって天井を見上げていた。アクティブな栞にしては珍しい光景である。
(そっかあ……。すっかり忘れてたわね、自分の役目が学校の噂の調査だっていう事を……)
栞はすっかり失念していたようだった。大体はバーディア一家のせいだろう。レオンという脅威のせいで、そっちに意識が向いてしまって栞の頭から抜け落ちていたのである。改めて、レオンという男一人の影響力を思い知らされていた。
(でも、どうしようかしらね。早ければ年末で学校をやめて市の職員に戻る事になるのかぁ……。元々市の職員なんだから、中学生やってる方がおかしいものね)
右に左に寝返りを打ちながら、栞は悶々と考え続けていた。
しかし、いくら考えてみたところで結論は簡単には出なかった。
(うーん、参ったわね。これだけ結論が出せないとなると、今の生活、結構気に入っちゃてるのかも知れないわね……)
栞は結局結論が出せなかったようだった。そして、そのまま知らない間にうとうとと眠ってしまい、次に目を覚ました時には朝を迎えようとしていたのだった。
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