第29話 新聞部の活動

 トイレの一件も無事に解決して栞たちはひと安心である。しかし、それが残した余波は結構大きかった。

 クラス担任を務める教師が一人抜けた穴を埋めるために、新たな担任の指名は必要だったし、粒島が担当していた一年の社会科の授業をどうするのかというのが議論になった。結局社会科の授業に関しては、二、三年生の担当教師が分け合って埋めたほか、事務員の中にたまたま教員免許持ちが居たらしく、その人物をあてがう事で解決した。この事は市の教育委員にも報告はされた。

 それでもって、1年5組の担任はどうなったのかというと……、

「急病の粒島先生に代わり、私、飛田が1年5組の担任を務める事になりました。よろしくお願いします」

 まさかの飛田先生である。これには栞も驚いて口をパクパクとさせていた。

 昼休み、栞は真彩たちにはトイレと偽って教室を出ていくと、千夏とLISEのやり取りをしていた。

 千夏とのやり取りで確認した話だと、飛田先生は元々技術教員として非常勤扱いで採用されていたらしい。そして、翌年から正式採用の打診をされると、いろいろ理由を付けて断っていたそうだ。しかしながら、さすがに今回の打診は事件のせいもあって受けざるを得なくなったという事なのだそうだ。

(やっぱり小学校以来の幼馴染みが起こした一件だから、責任を感じているのかしらね)

 情報をまとめた栞は、そんな事を思うのだった。


 放課後、栞は新聞部へと顔を出した。もちろん、真彩も一緒である。

「失礼します」

 栞たちはノックを二度してから部室に入る。部室の中では調部長が高そうなカメラを持って、何やらチェックをしていた。

「あら、二人ともおはようございます」

「お、おはようございます」

 栞たちに気が付いた調部長が挨拶をすると、二人も慌てて挨拶を返す。

 挨拶を返した後の栞は、目の前のカメラが気になって仕方ないらしく、調部長に声を掛ける。

「これって一眼レフですよね。しかも、屋外撮影用の望遠レンズじゃないですか」

「ええ、そうですよ。私は趣味でいろいろ写真を撮ってますので、いろんなレンズを持っているんです。でも、写真部の活動としては、基本的に使う機会がありませんね」

 栞の言葉に、調部長は陽気に言葉を返してきた。そして、大事そうにカメラを触りながら、栞と真彩に話し掛けてきた。

「実は、こうやってカメラを触っているのにも理由があるんですよ。次回作る新聞の取材を今月予定しているんです」

 調部長の言葉を二人は黙って聞いている。

「それで、その取材先というのは、浦見市駅前商店街にしようと考えているんです。最近、ずいぶんと活気づいてきましたからね」


 浦見市駅前商店街。

 その名の通り、浦見市駅の目の前にある商店街である。かなり規模が大きく、雨でも落ち着いて買い物ができるようにと、アーケードで覆われているのが特徴だ。

 メインの通り一本とそこから枝分かれをした通り数本とを合わせて、総延長は5kmほどに及ぶ。

 数年前まではこの商店街も例外ではなく、シャッターが締められた軒が多く見られたのだが、現在ではほぼすべての軒に何かしらのスペースとして使われている。


(なるほど。調部長はその理由を取材しようっていうわけね)

 なんとも単純に目を引く話題である。

「それは面白そうですね」

 これには栞も興味を示した。なにせ「きっずえんじぇる」とは駅を挟んだ反対側の場所の話なのだから。

「ですので、中間テストまでには取材を済ませておきたいんですよ。それが終わると私たち三年生は修学旅行に出てしまいますのでね」

「あっ、そうか」

 栞は予定表を頭の中で見返す。

 中間テストが20日と21日の二日間である。それが終わったほぼ直後25~29日が三年生の修学旅行だ。それを思えば、確かにまともに実行できるのは今しかないというわけである。

「水崎さんは、この件についてどう思われますか?」

 栞が一人考え込んでいると、調部長は真彩に意見を求める。すると、真彩の意見はイエスだった。

「そうですか。これで意見はまとまりましたので、すぐにでも日程を決めてしまいましょう」

 調部長はカメラを置くと、カレンダーを取り出して机に広げる。

「記事の構成やチェックには日数を要します。こういう情報はできるだけ早い方がいいと考えていますので、一応考えているのは次の日曜日、10日ですね」

 なるほど、テストに入るまでに記事を完成させたいのがよく分かる日付指定だ。一週遅れてしまえばテストにかかる上、修学旅行の関係で記事の完成がさらに遅れてしまう。早い方がいいのは当然である。

 だが、今日はもう8日である。翌々日の取材となると先方への許可取りが厳しくなるような気がする。この辺は調部長はどう考えているのだろうか。

「そうと決まれば、今すぐにでもお伺いしてきましょう。では、軽部副部長、後は頼みましたよ」

 調部長は部室の奥に居た軽部副部長に声を掛けると、荷物をまとめて大慌てで部室を出ていった。……というか、軽部副部長居たんですね。軽部副部長の姿を確認した栞と真彩が驚くのは無理もない話である。

 しかし、この時の決定が、後々に大きな影響を及ぼす事になるとは誰が思っただろうか……。

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