第27話 明かされる犯人

 視聴覚室の机の陰に隠れていた警官たちが、一斉に飛び掛かる。

 この突然の出来事に、視聴覚室に入って来た人物はうろたえてしまい、まったくなす術なく取り押さえられてしまった。

「……やっぱりあなたでしたね」

 睨むように立っている水崎警部の隣に、飛田先生が姿を現す。飛田先生のその口ぶりから察するに、目の前の人物の事はすでに分かっていたような感じである。

「今日のあなたは、朝から一切の落ち着きがありませんでしたからね。何度も物を落としていて、その挙句が昼休みにお気に入りのカップを落として壊した事です。……まったく、小学生からの付き合いですが、これには呆れてしまいましたよ」

 どうやら、日中の挙動不審さから、おおよそ目星がついていたようである。

 一方で警官たちに取り押さえられている人物は、顔を伏せたきりまったく動かなかった。

「さて、ここが分かった理由をお教えしましょうか」

 飛田先生は犯人の様子を無視して、静かに推理の披露を始める。

「疑問を持った最初は、やはりトイレです。あそこの蝶番を見た時に疑問を持ちました」

 どうやら、もう最初の時点で疑いを持ったそうだ。

「どうしてのか。これが違和感の最初です」

 こう言われても警官の誰もが首を傾げた。あのトイレを見たはずなのに、なぜこうなるのか。

「トイレの扉の構造を見れば誰でも分かるはずです。この学校のトイレの扉はなんですよ。そして、んです。蝶番が外に曲がるというのはんですよ」

 飛田先生の話に、警官誰もに衝撃が走った。もちろんに犯人にも。

「た、確かにそれはおかしいな」

 水崎警部もこの通りである。

「個室内にも目立った損傷は、扉を外した時の落下くらいしかありませんでしたし、でした。これらが示す事は、使と見るのが妥当でしょうね」

「……」

 取り押さえられた犯人は、まだ顔を伏せた状態で黙っている。暴れる様子もなく実におとなしいものだ。

「外した扉をどうしたか。これを考える上で重要なのは、扉の重量です。あの重さですから運ぶのですらひと苦労。投げるのも大変ですし、落とせば大きな音がしますし、それに加えてあちこちに傷が残ります。窓や階段などを見てもそういった形跡はない。となれば、あのトイレと同じ階のどこかに移動させたと考えるのが当然でしょう」

 飛田先生はここで一度言葉を打ち切り、静かにゆっくりと部屋の後方へと歩いていく。そして、そこにあったある物に手を掛けた。

「この4階には特別教室は3つあります。音楽室、美術室、そして、この視聴覚室です。音楽室と美術室は準備室を備えていますが、利用頻度が高いので物を隠すには向いていません」

 手を置いた状態で、淡々と推理を進めていく飛田先生。その姿はまるで探偵のようである。

「となれば、消去法でこの視聴覚室になるんですよ。この部屋は動画鑑賞が目的の部屋ですから、常に日頃からカーテンが閉められたままになっています。それに、利用頻度が低いから多少大きくても物を隠すには向いているんですね。こんな風にね!」

 ここで飛田先生が、手に持っていた布地を一気に払いのける。すると、その布地の下から、扉が4枚、確かに姿を現したのである。これには、警官たちから驚きの声が上がった。

「四時間目に、私は授業がない事を利用してこれを突き止めました。警部さんの立会いの下、この扉を調べさせて頂きましたよ。そしたらば、この扉のうちの1枚から実に興味深い物が発見されたんですよ」

 こう話した飛田先生は、足元に置いておいた工具箱からマイナスドライバーを取り出し、一番手前にある扉に突き刺した。そして、少し力をめるとその部分から四角形の板が剥ぎ取られた。

「いや、本当に驚きましたよ、こんな事があるのかと」

 剥ぎ取られた四角い板の裏には、何やら小さな黒いくて四角い物体がくっついていた。……小型の隠しカメラである。

 飛田先生はそれを水崎警部たちの方に向けながら推理をさらに続けていく。

「横の蝶番の位置からすると、これの撮影用の穴がある位置は床下から60cm程度の高さになります。……本当にいけませんね、こういう事は」

 こういった盗撮用のカメラの話は、ニュースなどでたまに出てくるものだが、それがまさか自分の学校で出てくるとは思ってもみなかった。しかも、状況的に考えると、その犯人は自分と同じ職場の人間なのである。飛田先生の中に、ふつふつとした怒りの感情が込み上げている。なにせ最初にも述べた通り、その容疑者が自分の幼馴染みなのだから。

「さて、ここへ来たという事は、自分が犯人だと自白したも同然ですね」

 飛田先生は立ち上がり、ゆっくりと取り押さえられた犯人へと近付いていく。そして、犯人の目の前まで来ると、しゃがみ込んでこの事件の犯人へと厳しく言い放つ。

「いい加減に観念してもらいましょうか、粒島先生!」

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