16-3 ~ 資材調達 ~
結果として、一晩寝ただけで資材調達の目途は立ったらしい。
「……済まないが、もう一度言ってくれないか?」
「ですから、人口減が著しい都市に向け資材の売買を持ちかけただけです。
都市の縮小自体はそこまで珍しいことではありませんので」
これは彼女が魔法を使った訳でも奇跡が起きた訳でもなくて……
実際、俺が
ファイル付きのメールに至っては17件で、それらの添付ファイルは主に「都市縮小補助申請一式」「資材売買の基本額」「解体工事計画」である。
──これ、要するに他所の都市の仕事……
早い話、我が
流れとしては恐らくこうだろう。
「貴女の都市は人口減が進み維持費が嵩んでいますよね」と他都市の
いくら進んだ科学技術によって仕事の効率が上がっているとは言え、彼女は自分の管轄以外の仕事まで引き受けたのだから、つい「そこまでやるか?」と言いたくなる。
そして……それらのメールを見て一つの事実に気付いた俺は、まず彼女の『働き過ぎ』を咎めることにした。
「メール送信時間が業務時間外なので、罰則適用だな。
これでまたご褒美が遠ざかりました」
「……そんなー」
資材調達に一晩で目途を立てた彼女の功績は認めてはいるものの……
簡単に言うとご褒美を与えると約束していた人口14,641人が、1割増の16,105人になってしまっただけの話である。
当のリリス嬢は酷く悲しそうな顔をしてこちらを見つめているが……残念なことにこればっかりは譲る訳にはいかないのだ。
何しろ、
残念ながら俺には、
「それで、相手方はそれを受け入れたと?」
そして、人を上手く使うためには信賞必罰が……問題行動に罰を与えた後は、賞を与えるため話を聞くことも必要だろう。
「え、ええ、ええ、勿論です。
自分たちという売り手がいる今、資材価格は通常よりも高額で、しかも絶対に売れることが保証されておりますので……彼女たちの都市の財政事情を考えると飛びつかない訳がありません」
そう考えて口にした俺の質問に対し、
──確かに
──だけど、取引相手も
我が
そもそも、
そんな優秀な存在が、自らの経営する都市が財政難に陥っている状況にありながら、リリスがたった一晩で仕上げるような書類や計画を作り上げられないものだろうか?
──何か、裏がある、のか?
取り合えず困った時は
コンマ数秒でその結論に至った俺は、順当にこの未来社会に適応し始めていると言えるだろう。
……このことが思考力や記憶力の低下を意味しなければいいのだが。
そんな要らぬことを考えつつも
「……そりゃそうだ」
先の疑問への答えは、言ってしまえば実に簡単な話だった。
幼少期、凄まじい努力を重ね競争を勝ち抜くことによって、
それらの努力全ては、ただ「男性の近くで働きたい」という一心から積み重ねられたものだ。
……だけど。
当の
男性はそもそも女性を嫌っているし、
──答えは、否、だ。
男性のために必死に頑張ったのに、当の男性からの寵愛を受けられないことでやる気を完全に失ってしまった
ついでに言うと、そうなり果ててしまったことで、男性からは「見る価値なし」と判断され、ますます関心が遠ざかり……という負のスパイラルに陥っているようである。
──哀れな話だ。
俺は軽く目を閉じると、愛に殉じようとしたのに全く報われない彼女たち
かと言って、彼女たちを助けるために人妻を片っ端から寝取るような真似なんざ、しようとは思わないけれども。
……もし俺にそういう性癖があった場合、やろうと思えばできそうなのが、この男不足が極まった未来社会の怖さではあるのだが。
それは兎も角、そうして最低限の義務だけ果たしている中、赤字の解消案ばかりでなく、中央政府への補助申請やら何やら……要するに面倒ごとを一手に引き受けてくれる存在が出て来たとしたら、それはすぐさま飛びつくだろう。
結果として、我が
──それが本当に良いことなのかは、まだ疑問なんだけどな。
実際の話として、俺自身はこれ以上海上都市『クリオネ』の人口が増えることをそれほど望んではおらず……ついでに言ってしまうと、我が
まぁ、それでも……こんな俺の子供を産みたいと言っている女性たちを待たせるのも、あまり良い気分ではないのだから、彼女の頑張りについて表立って反対する気もないのだが。
「なら、暫くは都市の開発を見届けるだけになるってことか。
よく働いてくれた」
「は、はいっ!
け、計画上では、あと20日ほどの間、資材調達と海中部分の建造を進めますっ!」
そんな葛藤の末に出た、酷く上から目線の俺の呟きに、我が
ざっと目を通してみると、それらの画像全てが海上都市『クリオネ』を様々な角度から映し出した立体画像……実際の写真データを張り合わせた立体画像が現在の都市であり、ほぼ実際の写真と大差ないものの透過しているのが未来の計画図だろう。
そして、赤く点滅している箇所が現在工事中の場所か。
どの建造物がどういう意味を持っているのか、どういう工法で造られているのかなんて専門的な知識はさっぱり分からないものの……いまだはっきりとしない過去の経験からか、それらの画像の意図くらいは直感的に理解できた。
「また、都市の電力量が不足する恐れがありますので、新たな発電所を一基設置する計画ですが……核融合炉の方は、10日ほど前に衛星軌道上の都市に発注、既に本体は完成しており、後は衛星軌道上からの投下を待つだけの状態です。
核融合炉本体の据え付けが終われば、後は他の建築物と大差ありませんので、数日で完成する予定となります」
「……投下、ねぇ。
よくぶっ壊れないものだなぁ」
ちなみに
詳しい話や細かい技術なんかはさっぱり分からないものの……『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』という言葉の証明を、またしても見せつけられた瞬間である。
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