13-4 ~ 男子のお茶会 ~
同級生たちが口々に語った木星戦記についての題はあまりにもちぐはぐで……「自分が何か勘違いしているんじゃないか?」という根源的な疑問を俺が抱くまでには、数秒の時間が必要だった。
それだけの時間がかかったのは、同じ名前の別ゲームがあるなんて基本的にはあり得ないという先入観の所為ではあるが……よく考えてみれば同じ名前であっても、二人対戦のステージ型から横スクロールアクション、ゴルフからテニス、カートゲームまで網羅した髭親父がいたような記憶があるので、同じ名前の別ゲームがあってもおかしくはないのだろう。
「……待て。
待て待て待て待て。
木星戦記って人型ロボットに乗って暴れる系のVRだよな?」
その事実に気付いた俺が、恥も外聞も捨てて即座にそう訊ねることが出来たのは「聞くは一時の恥、聞かざるは一生の恥」という言葉を骨の髄まで思い知らされているから……記憶が曖昧であるとは言え、社会人をやっていたことが理由だと思われる。
何しろ、社会人という人種は、変なプライドを理由にして「分からないことは聞く、もしくは調べる」という基本的な行動を怠ってしまうと、仕事なんて欠片も進められず、ただ残業の山に埋もれるだけになってしまうのだから。
「……何言ってんだ、コイツ?」
尤も、そんな俺の質問はこの時代の男子としてはかなり意味不明な代物だったようで……最年長の
「あ~、そりゃ女の話だろぉ?」
「ああ、確かに女性が兵士となって戦うVRゲームがありましたね。
野蛮で短絡的な女性が好むような、血なまぐさいゲームですが」
とは言え、すぐさま
──あ~。
──この時代では、そんな感覚なのか。
戦うのは女性の仕事であり、男は守られるばかり……そんな未来社会だからこその感性を聞いた俺は、ゲーマーとして憤るよりもただただ関心の方が大きかった。
この辺りの感覚の差が、前の都市間戦争で俺が最前線に立った時、相手が大混乱に陥った理由の一つなんだろうなぁとは思う。
そんな俺の反応を見て、俺がさっぱり理解していないことに気付いたのだろう。
級友三人組はやれやれと肩を竦めながら、各々が木星戦記について説明を始めたのだ。
「男の木星戦記って言えば、戦闘予測だよ。
勝つ方を見極め、都市の予算を増やすのさ」
そんな三人の内、黒い肌の
先ほど彼が口にした「迫力が違う」ってのは、ただ外野で観戦するばかりではなく、そういう金銭的なリスクとリターンがあるからこそ応援にも熱が入ってしまう所為だと思われる。
「はっ、何を言ってるんだかなぁ。
やっぱ狙い目は鉱山益だろう。
環境問題で地球上の資源採掘が禁止されて以降、リサイクル製品が主流となっていて、新規鉱物は中央政府が言い値で買い取ってくれるから、ぼろ儲け出来るのさぁ」
二番手として彫の深い
恐らくそういう金の動きこそが木星と地球との戦争の原因だと思われるのだが……彼が口にした類の投資は、実のところ戦争を更に煽るだけではないだろうか?
「いえいえ、一番楽しいのはパイロット支援でしょう。
機体を買い与え、支援を行い……そうして精子目当てに命を懸けて戦う女性パイロットたちの儚さを応援するのが、男の嗜みというものですよ」
それよりも酷いのは、インド系
何しろ現地兵士への支援を行い、煽り唆し戦わせ……彼の口ぶりから察するに、その死にザマまでを含め娯楽としているのだから。
──相変わらず女性の人権が皆無だな、この時代。
俺はそう嘆息するものの……木星で戦う女性兵士の待遇はかなり良く、パイロットへの志望倍率はそれなりに高いらしい。
一つが、純粋な賃金の問題である。
子供を儲けようとしても肝心の精子を得るためには……都市へと移住するのには多額の税金がかかるため、低所得者では移住も叶わず……そういう貧困層の女性が一旗揚げるためには、命を懸けて兵士となるしかない。
二つ目の理由は、巨大人型ロボットの運転操縦など、戦闘系の技術修練である。
これは単純に都市間戦争という野郎同士の揉め事がそれなりの頻度であるこの時代、強い女性はそれなりの優先度で都市からのオファーがかかるのだ。
本来ならば色々な瑕疵を持っている所為で都市に移住が叶わない女性だとしても、傭兵という形でなら特例措置として滑り込めることから、そういう女性たちが縋りつく先として女性兵士という立場は非常に魅力的、らしい。
三つ目として、先ほど
ここで言う支援とは、21世紀生まれの俺の感覚では「競走馬を買う」のが一番近いだろうか。
将来性のあるパイロットの一人に金を出し機体を買い与え、その戦いっぷりを応援する代わりに、彼女の報奨金の何割かのリターンを契約する……その応援した女性パイロットが敵機を何体も落とすようなエースになれば、報奨金やら何やらでかなりの収益が見込まれるとか何とか。
当然のことながら、優秀な機体を手に入れればパイロットは戦果を挙げ易くなり、生存率も上昇するので、女性側としても「報奨金の一部を持っていかれてもそれは仕方がない」と割り切れるようだった。
加えて、男性の目に留まるという最大のメリット……たまにパイロットを気に入った男性が
ちなみに、命懸けとは言っているものの、
何しろ木星で使われているロボットは兵器類に威力上限が決まっている上に、コクピットも非常に硬い外殻に覆われているために、そうそうパイロットが死ぬようなことはない。
それでもたまに事故は発生し……その死亡率がどれくらいか数字を聞いたところで今一つ実感は湧かないものの、21世紀の感覚で言えば、後進国で開催されたプロボクシングの、試合後の死亡率くらい、という感覚だろうか。
まぁ、死亡者が出る時点で命懸けに代わりはないのだけれども。
──とは言え……
正直な話、それら三つの理由も大きく分類してしまえば、「如何に男性にモテるか」という一つにまとまって終わってしまう。
とは言え、それはこの時代の女性の存在理由であり、大昔は野郎共も同じ動機で死地へと赴いていた訳だから、遣る瀬無いとは思いつつも、まぁ、割り切るしかないのだろうけれども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます