6-4 ~ 鋼鉄の警護官 ~
隔壁から突き出たマスターキー……灼熱化して隔壁を焼き切る手斧が動かされ、隔壁にロの字を描いていくのが肉眼で見える。
アレって扱う人間も火傷するんじゃないかという些細な、そして明らかに場違いな疑問は、「本体に内蔵されている仮想障壁が熱を遮断する」という
「あ、ああああああなた、どどどどどうしま、しょう」
未来の
「……来ます」
アルノーがそう呟いたタイミングで、隔壁が焼き切られ……そこからフルヘルムでパイロットスーツを身にまとい、手に半透明のシールドを構えたテロリストが飛び出てくる。
尤も、直後にアルノーが右手に構えていた銃器が瞬時に3度ほど閃光を放ったと思うと、テロリストが所持していたシールドが一撃で吹き飛び、二撃目で何かが砕け、三撃目にはテロリストのヘルメットが頭ごと吹き飛んでいた。
──早ぇ。
──仮想障壁、ぶち破ったのか。
20世紀生まれの俺からしてみると仮想障壁なんて実現すら想像できないレベルの、かなり高度な科学技術だと思うのだが……この時代ではマスターキーにすら使われている汎用的な技術でしかないため、一介の兵士どころかテロリストたちが持っていてもおかしくないのだろう。
尤も、エネルギー効率の関係から個人が使用できる仮想障壁の面積や耐久力はさほど大きくなく……武器関係の効率化が進んでいることもあり、防げても数発程度らしい。
ちなみにエネルギー弾やビームよりも実弾の方が防御にエネルギーを使うようであり、先ほどのアルノーはそれを見越し、銃弾よりも質量の大きい『杭矢』を放つコイルガンを3発ぶっぱなしたようだった。
気付けば『本来、実弾式兵器自体、大きな反動があるのに加え、弾丸そのものの重量が荷物となるため携行武器には向いておらず、近年では使う人が少なくなっている傾向にある』という、数秒前までは確実に知らなかった筈の知識が、いつの間にか俺の脳の中にあった。
全身が機械製のアルノーだからこそ用いることのできた武器であり、仮想障壁越しにビームやレーザーの撃ち合いを挑むつもりだったテロリストは、完全に意表を突かれた形となってしまい……一発目でシールド型の仮想障壁を撃ち抜かれ、二発目で全身型の仮想障壁を喪失、その直後、無防備に三発目の直撃を食らったのだろう。
俺がそうして
「……2体目、撃破。
残弾0、質量兵器を放棄」
そうしている間にも、質量弾を使い切ったらしきアルノーは、両手の武器を手放し……同時に彼女の両腕が変形を開始する。
両腕共に弾薬の入ったマガジンは見当たらないので、恐らくはエネルギー兵器へと移行したのだろう。
「複腕展開、仮想障壁稼働」
同時に、彼女の鋼鉄製の肩が分離して変な機械式の腕……折り畳み式のカマキリの腕のようなモノが現れてくる。
その昆虫の腕とは違い関節が二つほど多い機械式の腕は、カマキリで言うところの挟む部分にフィールドが張られており……どうやらテロリストが持つ盾と同じような扱いのようだった。
「っひっ!」
直後、俺の傍らで
隔壁から身を乗り出したテロリストに対し、その場で仁王立ちしたまま射撃を続けるアルノーは、恐らく飽和攻撃によって相手からの反撃を最小とし、そのまま押し切ろうとしているのだと思われる。
……
よく見れば、アルノーの鋼鉄の臀部少し上辺りから尻尾が生え、庭に向かって伸びていて……原理は今一つ理解出来ないものの、どうやらアレがこの自宅のエネルギーをアルノーが利用できるためのバイパス、らしい。
「しゃぁっ、2つ目撃墜っ!」
「撃ったのは私でしょ!
なんでトリーが自慢するのっ!」
「……二人とも報告は正確に。
リーダー、施設外のテロリストを排除しました。
施設内への追撃戦に移ります」
そうしてエネルギー兵器での射撃戦を続けることでテロリストたちを足止めをしているアルノーの狙いはコレだったのだろう、トリー・ヒヨ・タマの三人姉妹が足止め部隊を撃破したとの報告が入る。
「っつつ、こちらはあと1体っ。
あ~、もうっ、時間稼ぎが鬱陶しいっ!」
同じようにユーミカも戦闘を有利に進めているのが明白で……後はこの場にいるテロリストたちを挟撃して終わり、という結末までが見え始めている。
今もテロリストたちがこの状況を打破するべく手榴弾らしきモノをアルノーめがけて放り投げたものの、アルノーはそれを冷静に蹴り返して対応するのだから、彼女と敵対した連中もやってられないだろう。
「……あれ?」
そんな最中のことだった。
この襲撃騒ぎがそろそろ終わりに近づいたことを悟ったのか、今まではただ震えるだけだった未来の
「何かあったのか?」
「いえ、浴室で何か音が……
仮想モニタの消し忘れでしょうか?」
婚約者からそんな変なことを告げたのを聞いた俺は、その言葉の真意を確かめるため戦いを続けているアルノーから視線を外し、背後に広がっている一戸建ての自分の部屋へと視線を向ける。
「……もらったぁっ!」
振り向いたその先で俺の眼球が写したのは、膝くらいの低空を凄まじい速度で飛んでくるフルヘルムのテロリストの姿だっだのだ。
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