20話

みんなのことを名前で呼ぶことになった次の日、私は雪から以前借りた本を返すため図書室に来ていた。


いつもの受付の席を見てみるけど雪がいない。


スマホを取り出して雪に連絡しようと思った時、本棚の奥の方から物音がした。


私はなんだろうと思い、恐る恐る近くまで行き覗いてみると、雪が脚立を使って本の整理をしていた。


「あ!雪ここにいたんだぁ!」


私が急に声をかけたせいで雪がびっくりして、脚立から足を踏み外し落ちそうになってしまう。


私は咄嗟に支えたのだけど体勢が悪く、そのまま二人で倒れこんでしまった。


衝撃でつぶっていた目を開けると、あと少しで唇と唇が付いてしまうくらい、近くに雪の顔が。


「お、王子様…ご、ごめんなさい…!」


雪もそれに気づいたみたいで、慌てて立ち上がると謝る。


「う、ううん…!私が急に声かけちゃったから…ほんとにごめんね…!」


私も慌てて立ち上がり謝り返した。


お互いに顔を赤くしながらも、怪我をしていないか確認すると、幸いどちらも怪我はなく無事で済んだ。


私は急に声をかけたことを反省し、あと少しでキスをしてしまいそうになったことで、動揺していた気持ちを落ち着けると雪に言う。


「あ、あのね…雪に本を返しに来たんだけど」


「前におすすめした本ですね…!気に入ってもらえましたか…?」


心配そうに聞く雪に私は、すごい気に入ったよ!と言った。


すると、それを聞き雪がホッとする。


「前に雪が言っていたシーンも素敵だったけど、王子様が優しく、時には勇ましくエスコートしているところもよかったよ!」


「はい…!あそこも素敵ですよね…!」


うんうん!と返事をすると、雪が本の整理中だったことを思い出し、先ほどのお詫びに手伝うことにした。


作業中、気になったことがあり雪に質問をしてみる。


「そういえば、雪以外の図書委員の人って見たことないけどどうしたの?」


「あ、それはですね…。ここで本を読むのが好きなので、みなさんにお願いして私を毎日担当にしてもらったんです…!」


「そうだったんだぁ!私はてっきり押し付けられちゃったのかと…」


「いえいえ…!図書委員の方達は、良い人ばかりなのでそんなことないですよ…!ちゃんと私が用事ある時は代わってくれますし…!あ、そうだ…」


雪がなにかを思い出したようで受付へと向かう。


私はなんだろうと考えながら、雪が戻ってくるのを待つと、鞄を持って戻ってきた。


私がどうしたの?と聞くと雪がもじもじしながら私に言う。


「お、王子様…あの…あのですね…!」


「うん?」


「実はお願いしたいことがあって…」


私はなにか別の作業でもあるのかなと、思いながら雪が言うのを待った。


「あ、あの…私と…デートしてくれませんか…!」


「え!?デート!?」


「は、はい…。だめ…ですかね…」


「遊ぶじゃなくデートなの…?」


「はい…実は図書委員の方から日頃のお礼ということで、遊園地の無料チケットをいただいたんですけど、見てみたらカップル専用みたいで…」


雪がそのチケットを見せてくれたので、確認したら確かにカップル専用と書いてあり、条件が園内はずっとカップル繋ぎで、手を繋いでいることと書いてあった…。


なにこれ…。


こんなチケットってあるんだ…。


「や、やっぱりだめ…ですよね…。わ、忘れてください…!」


私が驚いていると、雪が悲しそうな顔で言った。


そんな雪を悲しませたくなくて私は言う。


「ううん、だめじゃないよ!一緒に行こ!」


「ほ、ほんとですか…!王子様、ありがとうございます…!私遊園地とかあまり行ったことないので、すごく楽しみです…!」


私の返事を聞き、本当に嬉しそうな笑顔をする、雪を見て私も嬉しくなった。


「それじゃあ、いっぱい楽しもうね!」


「はい…!いっぱいいっぱい楽しみます…!」


こうして次の休みに、雪とデートすることになった。


そして、チケットにカップル専用と書かれていた本当の意味を当日、知ることになるのだった…。

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