探偵賽河カントク ■娯楽の代償■

ちさここはる

第1話 背徳のATM

 ジャラジャラ! と流れる音とBGMの騒音溢れるパチンコ屋。365日と台の入れ替え日がない限りは営業をし続ける高級賃金で、腰痛持ちを増やす職種。安定した給料の為にあらゆる人間たちが日々とパチカス狂人たちと格闘を余儀なくされる勤務先は、電気節電を求められても店内はキラキラとジャラジャラと、消されるのは建物の照明を申し訳ない程度ぐらいだ。朝9時から夜の23時まで狂人たちの宴は続く。


「今日も大繁盛なこったね」


 賽河湊サイカワミナトがボヤく。普通の声でだが、周りに賽河の声が聞こえることはない。彼の持つ歩行器変わりのT字杖の音も聞こえない。昔、交通事故に遭い杖を使い始めた。慣れてしまえば楽で。完治して21年と愛用し続けた為、歩き方はまるで足が悪いと思われる有様でバランスも悪い為に腰痛持ちである。T字杖を止めれば済む問題なのだが、彼にはT字杖に愛着がある為に今更と止めることなんて出来ない。T字杖自体ソノモノが賽河の一部と言っても過言ではないのだから。

「しかし。今の6号機は本当に出ないな。昔の4号機が懐かしいったらない」

 諦めの表情でため息を吐く賽河の視線は煌びやかだ。昔の漫画や、今の小説からのアニメになった作品の筐体。それに対して、昔ながらのジ〇グラーや沖ド〇なんかもタイプやデザインを変えて現役中だ。


「昔は800枚以上が当たり前で、借金しても返せる見込みがあったからしてた連中もいたってのに。まぁ、今の筐体6号機じゃあもう無理なこった。1000円で46枚。BIGが210枚前後にREGが90枚前後。ATでようやっと1000枚出るかどうかで一回で終了ってんなら次が来る前にご破算よ。引き下ろしの出来ないATM業界とはよくも言ったもんだ」


 グチグチと業界の悪口をもごもごと言いつつも賽河の目は輝き筐体を見据え選んでいる。少ない金で稼ぎたい、ハイエナ狙いならデータを見るが賽河はそうしない。好きな筐体があるのなら前日や前々日のデータを見て、鼻息荒く打ち始めるが賽河はそうでもない。

「今日はこの筐体で慣らし打ちをして、ダメなら他の奴に鞍替えをしてって感じで、よぉー~~し! 諭吉よ! GOー!」

 毎回適当にこれだと感じた筐体を打つ。あまりに適当で1日の負債が最高で、15万円をパチンコ店と名乗るATMにお布施をしてしまったことがあるのだが後悔はない。損失金額を聞いた助手の立花が悲鳴を上げて寝込んでしまったことがあった。その後は立花がATMから何日かに分けて朝から晩まで座り、引き戻すというイタチごっこをしている。ちなみに立花の相性がいい筐体はバジリス〇と北斗の〇などである。そのときの立花は必死だが、回収後は毎回と「私は何をしてんだ?」と頭を抱えるらしい。


 無計画に何もデータ視ずに今回、賽河が諭吉を入れた筐体は90年代に小説と映画で恐怖を斡旋させた幽霊が毎回と呪いループさせる若干古い作品なのだが賽河は気に入っている。手が落ちる衝撃も堪らない。


「今回も沢山、呪って下さいよー~~貞子さぁ~~ん」


【リ〇グ】


 この筐体選びが引き寄せたのか、間もなくバラエティー筐体エリアで――人が死ぬ。


 


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