第112話 納得いかないボス戦

 途中の所々で出てくるレイスやゴースト、ゲンエイグアナ。

 そして寄り道したレイス2体とゴースト3体が出る広間。

 更にボス部屋直前にあるホールでワイト1体レイス1体ゴースト3体を倒したところで。


『ミヤ・アカワはレベルが上がった! HPが……』


 そう、ボスであるエキンムに挑戦するすぐ手前で目標達成してしまったのだ。

 何というか微妙にタイミングの悪さを感じる。


「どうかしたんですか?」


 微妙にがっくりしているのをカリーナちゃんに気づかれたようだ。


「レベルアップして40になった。何もこんなボス手前でならなくてもいいと思うけれど」


「それはそれでいいんじゃないか? 普通はこれでボス戦が楽になると喜ぶところだしさ。

 それにボス戦の方が技の効果を確認しやすいだろ。耐久力があるからさ。それにゲットした経験値は無駄にはならない」


 なるほど、そういう考え方が普通なのか。

 メアリーさんに言われて確かにそうだなと思い直す。


「確かにそうですね」


「あとこの次の対エキンム戦、Webに載せるつもりの動画を撮っていいかい? 勿論顔や装備の一部はマスクして誰かわからないようにするからさ」


 断ろう、そう即座に思って考え直す。

 私とわからなければ特に問題はない筈だ。


 それに私はもうすぐ新マップへと出かける。

 そこそこ長い期間、ケルキラには戻ってこないだろう。

 なら動画を見て私を探そうとする輩がいても発見は困難だ。


 それなら条件反射的に断る必要は無いだろう。

 という事でカリーナちゃんに意見を聞いてみる。


「カリーナはどう思う?」


「メアリーさんなら顔や髪型等、ほとんどの部分はマスクしてくれると思います。それでも本気で分析すれば大体の体格は割り出せますし、そもそも武器で斧を使っているというのは隠せません。

 

 ミヤさんを全く知らない人が動画を元に特定するのはおそらく無理でしょう。ですがミヤさんを知っている人、特に実際に戦っているところを見た事がある人ならほぼ確実にミヤさんだとわかると思います」


 なるほど、その程度なら心配の必要はない。

 私が戦っているのを見た事がある人はカリーナちゃん、カレンさんと、そしてメアリーさんだけ。

 知人全部に範囲を広げてもPCプレイヤーキャラはいない気がする。


「わかりました。いいですよ。それくらいの情報で知られる程の知り合いは他にカレンさんくらいですから」


「ありがとう。戦いの邪魔にならないよう撮るし、公開前にはそちらに動画を確認して貰うから」


 さて、それではボス戦だ。

 中にいる敵はボスのエキンムの他、ワイト3体レイス2体。


「それじゃ行きます」


 ボス部屋への扉を開いて、そして中へ。

 すぐにお馴染みのゴースト系魔物が発する音が聞こえ始めた。

 私は両手に斧をを持ち、前へ歩きながら両手の斧を全力で振るう。


『双斧技:エリア・スラッシュ!』


 チカチカ光っていた発動前の魔法が消え失せ、敵の動きが止まる。

 その一瞬に私は一番近い、右から二番目のワイトに突っ込む。


『双斧技:双裂断!』


 手前のレイスはあっさり消滅、そして私は再び制圧技の体勢へ。


『双斧技:エリア・スラッシュ!』


 次は更にその右のレイスが目標。

 これは技を使わなくても大丈夫だろう。

 予想通り斧の一振りで消滅。


 残った敵がこちらをゆっくり向き、攻撃魔法を起動する。

 しかし四体まで減ると消すべき魔法も数が少なく感じる。

 しかもかなり右側に寄ったから、左右方向の範囲は大分まとまった。

 

 なので次の攻撃は少しだけ工夫する。


『双斧技:エリア・スラッシュ!』


 技名は同じだが、腕をやや前方へ向けて発動角度を絞って発動してみた。

 発動前の魔法に加えて、こちらから見て最奥、正面から見て右端のレイスが消滅。

 範囲を絞った分だけ攻撃力が上がった様だ。


 敵の硬直中にダッシュをかけ、残り2体のワイトへ連続攻撃。


『双斧技:双裂断!』


『双斧技:双裂断!』


 最後のワイトが消えたか確認せずに振り返ってボスの攻撃魔法潰し。


『双斧技:エリア・スラッシュ!』


 うん、思ったより楽だった。

 そう思いつつ発動前の魔法が消え、硬直状態のエキンムへ向けてダッシュ。


『双斧技:双裂断!』


『双斧技:双裂断!』


『双斧技:双裂断!』


 技3発、実質的にはタコ殴りでエキンムの姿が消えた。

 簡単というか手応えがないというか。

 まさかこれで終わりじゃないだろう。

 そうとも思えるので周囲を確認、発動前の魔法とかまだ消えていない敵がいないか確認。


『ワイト3体、レイス2体、ケルキラ新要塞・基底部ボス:エキンムを倒した! ボーナス経験値1210を獲得……』


 どうやらこれだけだったようだ。

 微妙に納得がいかない。


「何かエキンム、アフカルと比べて大分弱かった気がする。こんなものなのかな」


屍強鬼アフカル手斧ハンドアックスはかなり攻撃力が高い武器です。もちろん単体での基本性能は神槍ほどではありませんけれど。


 ただミヤさんは今回、遠隔攻撃ではなく直接攻撃を多用しました。当然攻撃力は遠隔攻撃技より高くなります。しかも手斧を両手で使うので手数は実質2倍です」


「エキンムはそれなりに強い敵だ。霊体にも通用する対魔属性付きの武器か対魔系の薬剤、あるいは聖魔法系攻撃でなければ倒せない。その上ちょっと隙を見せれば攻撃魔法を連射してくる。


 ただだからこそ、対魔属性付武器を両手で使用して、全体制圧攻撃で攻撃魔法の発動前消去が可能なミヤさんとは相性が悪かった。ミヤさん側から見れば相性がいい敵だった。そういう事さ」


 カリーナちゃんとメアリーさんが交互に説明してくれた。

 なるほど、単に私と相性が良すぎた敵というだけなのか。

 今ひとつ手応えを感じなかったけれど、今回はそれで納得するとしよう。

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