第86話 海の塔へ向かう前に
今日も朝から旧要塞だ。
朝8時過ぎに本館の攻略を開始して、地下2階と5階は無視して一通り回る。
地下1階から4階までを片付けるのには1時間かからない。
9時ちょっと前にひととおり終えて、1階にある入ったのとは違う出口から外へ。
そこそこ広く海が見える広場で薬草を採った後、小休止。
「今日のおやつはあんパンを作ってみました。美味く出来たかどうか自信は無いですけれど」
おお、確かに外見はあんパンだ。
ふくれた楕円形で上の中央にへそ部分があるところまで、間違いなくあんパン。
皮の色は綺麗な茶色。
手で半分に割ってみる。
簡単に割ける系生地で、かつパン生地そのものは薄い。
その分あんこがぎっしり詰まっている。
「これ、カリーナが作ったの?」
「ええ。この辺りの市場には小豆は無いので作れないだろうと思っていたのですけれど、たまたまネットで黒目豆と黒いんげん豆であんこを作るレシピを見つけたので。
小豆とは少し味が違うかもしれませんけれど」
見てみると確かにあんに白っぽい部分と黒っぽい部分があるような気がする。
よく混ぜてあるのでいまひとつはっきりしないけれど。
それでは食べて確認、うん、違いがわからない。
ただ間違いなく美味しい。
あんの甘さも、少し粒感が残っていてねっとりだけれど少しざらっとした感じの所も。
「私だと普通のあんこと区別できない。あとあんパンとしてあんもパンも凄く美味しい。これ、パンを焼いたのもカリーナなんだよね」
「ええ」
カリーナちゃんは頷く。
「パンは魔法を使って簡単に焼けるレシピがあるんです。あとクリームパンも作ってみましたので、午後の休憩はそれでいいですか」
「勿論!」
日本と雰囲気がかなり異なるこの
舌が知っている系統の味というのもあるだろう。
あとこのパン自体がそもそも出来がいい。
少なくともスーパーで売っている袋入り量産品よりずっと。
それにしてもこれの他にクリームパンもあるのか。
そう聞くとつい食べたくなる。
この
なら……
ラッキー君ともどもカリーナちゃんに訴える。
「ごめんカリーナ、クリームパンも食べてみたいけれど、いい?」
「勿論です。どうぞ」
おお、ちゃんとグローブ形状だ。
これも割ってみて確認、あんパンよりやや生地が厚めで、クリームは卵の主張か黄色みが強い。
うん、見た目通り卵感が強いカスタードクリームだ。
食感は違うけれどプリンに近い感じの味。
バニラと、あとちょっとだけ洋酒の香りがするのもいい。
つまり無茶苦茶美味しい。
「何というかカリーナって、攻略じゃなくてこういった食べ物系のお店でも充分成功する気がする。ケルキラの市場でこういった日本的な食べ物は見たことないし、少なくとも日本サーバなら需要はかなりあるだろうし」
「そういえば生産系での攻略という方法もあるんですよね、この
ただ私自身は人と会うのはあまり得意ではありません。だから自分と仲間だけで黙々と出来る冒険者があっている気がします」
そう言えばそうだったなと思い出す。
それに考えてみると……
「確かに冒険者の方がいいかもしれない。
「そうですね。攻略をしないで、新しい料理を試したり知らないお店を見てみるだけでも楽しいですから」
それについては何というか申し訳ない。
「ごめん。カリーナ的には足踏み状態だよね。私とラッキーのレベル上げに協力して貰っているから。攻略もレベル上げも」
「いえ、それでも楽しいんです。多分きっと、
何、呼んだ? 呼んだなら何かくれる?
そんな感じでラッキー君がカリーナちゃんの前に座ってお手をする。
確かにラッキー君は可愛い。
食欲その他に忠実に生きているけれど。
私は楽しいのだろうか、ふとそんな事を思う。
カリーナちゃんやラッキー君との生活を楽しんでいるのは確かだ。
2人とも可愛いし、料理も美味しいし。
レベル上げ作業だって嫌いじゃない。
特に戦斧でバッサリやるのは爽快感最高だ。
ちまちま出てくる小型の敵は苦手だけれど、今ではラッキー君がそういった敵を片付けてくれる。
そう、これでいい、少なくとも今は。
話題を変えよう。
「次は海の塔だっけ?」
「ええ」
カリーナちゃんは頷く。
「海の塔は屋外部分と屋内部分があります。
まずは病院跡の横の広場を通り、その先にある階段で丘の上にあがります。この階段から先全体が海の塔というダンジョン扱いです。
最初の階段を上りきったところの広場が第1階層、そこから次の階段を上ったところが第2階層。ここから海の塔内部へと入ることが出来ます。
海の塔に入った部分を第2階層とすると、その上に第3階層、第4階層があって、第2階層の下に第1階層があります。この第1階層にボスがいますので、当座は屋内第1階層以外の敵を倒していく形になります」
何やらややこしい。
頭の中で整理する。
「つまり4階建ての建物で、2階から出入りすると思えばいい?」
「そんな感じです」
なんとなく理解した。
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