第68話 チーズケーキの時間
干潟と違い木道は歩きやすい。
ただ所々に腰くらいの高さの草がもわっと生えていて、そこに何かいそうな感じだ。
何か飛び出てきても対処できるよう、周囲に神経を張り巡らせてゆっくり歩く。
右側、少し大きな草の横を通過しようとした時だ。
ガサッ、一瞬音がした。
とっさにグレイブの刃をそちらへと向ける。
茶色く細長い何かが飛んできた。
グレイブの刃で払うように切断。
五線蛇が頭と胴が切られた状態で私の靴にぶつかった。
私の身長近い長さがある胴部分が少しうねうねした後動きを止める。
『五線ヘビを倒した。経験値65を獲得。五線ヘビの死体を入手可能です。収納しますか?』
はいを選択。
姿が消えたことにほっとする。
ヘビは苦手だ、見た目だけで何か恐怖を覚える。
「今のって倒さないと噛みつかれるの?」
「その靴とズボンなら噛みつこうとしても牙が通りません。ですので飛びついてきてから倒しても大丈夫です。
ただ近くだと巻き付いてくることがあるので、それまでには倒した方がいいです。巻き付かれると顔や手に噛みつかれることがありますから」
うわっ、そんなのされたら精神衛生上最悪だ。
やっぱり出た瞬間に倒すことにしよう。
そう私は決意した。
「あと怪しそうな草には、事前に軽く遠距離攻撃を当てておくのもありです。潜んでいた敵がいる場合出てきます」
それを早く言って欲しかった。
なら遠慮なく。
この先10mくらいの場所にある草むらめがけてグレイブを軽く早く突く動作をする。
『槍技!
ガサガサガサ、草むらが揺れ、ちぎれた葉が舞う。
そして茶色い長いのがにょろにょろ、いっぱい出てきた。
うあああっ!
『槍技!
『五線ヘビ5匹を倒した。経験値325を獲得。五線ヘビの死体を入手可能です。収納しますか?』
何というかこの場所、心臓に悪い。
あと疑問がちょっとある。
「ヘビの死骸ってアイテムになっているけれど、何かに使えるの?」
「食べるようです。干したり佃煮のようにしたりして。コリシアの名物料理だそうです。
あと皮も細工に使えるらしいです」
食べる!?
何というか、ちょっとご遠慮したいというか……
でも一応、カリーナちゃんに聞いておこう。
「カリーナちゃんも料理する?」
「私はいいです」
「良かった」
私もちょっと、というか思い切り遠慮したい。
さて、次の草むらに近づいた。
大丈夫、この距離ならさっさと倒せば大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、そしてグレイブで突きまくる。
『槍技!
◇◇◇
やっと木道が終わった。
時間的には1時間ちょい。でも正直かなり精神的に削られた。
「ちょっと小屋で休んでいっていい? 何か精神的に疲れた」
「そうですね。少し早いですけれどお昼にしましょうか」
疲れていない奴もいる。湿原で木道を通らず、泥だの草地だのを踏破してきた癖に元気いっぱいの奴が。
泥だらけなので清浄魔法をかけ、ついでに私たちもきれいにしてから小屋へ。
中を見て、はあっとため息が出た。
とりあえず清浄魔法をかけて、中に入らず、魔法で空きっぱなしの窓から完全に空気を入れ換え、それからやっと中へ。
「ここに泊まらないで正解だったようですね」
「だね。ご一緒したくないようなのがいた感じ」
そう、明らかにここに誰か泊まった痕跡があった。
それもあまり行儀が良くない連中が。
入口付近は泥だらけ。
中にも紙だの木屑だの燃えかすだのが散らばっている。
流しも食材のカスっぽいのが散らばってこびりついていた。
「今日もカリーナの家を借りていい?」
「もちろんです」
清浄魔法1発で片付くのに、そう思うと本当になんだかなと思う。
でもまあ、会わなかった幸運を今は喜ぶとしよう。
なおそういったことを一切考えない奴がカリーナちゃんの前できちっとお座りしている。
おやつの時間です、下さい!
そう主張しているようだ。
「ラッキーちゃんもこんな感じですし、お昼にしましょう」
「ありがとう」
とりあえず一休みだ。
精神的にダメージ受けていた後、ダメ押しされたのだ。
少しカリーナちゃん作のおいしいもので精神を休ませてやらないと。
「ところでミヤさん、前に言っていましたよね。お昼は甘いものだけでも大丈夫だって」
「うん、お菓子だけでも量さえあれば大丈夫」
何だろう。てっきり泥魚フライのサンドイッチあたりが出てくると思っていたのだけれど。
「実はこのゲーム風ではなく、
魔法を使うとオーブンの時間をかなり短縮できて楽です」
出てきたのはチーズケーキ、それもホールだ。
さらに言うと上がちょい焦げ気味のバスク風とかいうタイプ。
作り方が普通のチーズケーキとどう違うのか、私にはわからないけれど。
「美味しそう」
横でラッキー君が同意見だ早くよこせと訴えている。
3分の1に切ってそれぞれの皿へ。
ドリンクの牛乳も3人分セット。
「どうぞ」
ラッキー君が凄い勢いで食いつくのを見ながらいただく。
うん、何か久しぶりに日本と同じようなスイーツを食べた気がする。
「美味しい。こういうのもこっちで作れるんだね」
「ええ。元は魔法を使わないレシピなので少し考えましたけれど。任意の温度に一気にあげたり冷やしたりできる分、こっちの方が簡単にできるみたいです」
早くも食べ終わった奴が私やカリーナちゃんにわけてくれと訴えている。
もちろんやらない。
そんなもったいない事、私には無理だ。
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