第14話 

〜〜〜♪


スマホの着信音が響く。


『もうそんな時間か』と読んで居た漫画を閉じスマホに手を伸ばす。

画面には最近見慣れるようになった通話相手の名前が表示されている。

俺は通話ボタンとスピーカーボタンをタップしそのままベッドへと横になる。



「こんばんは、由紀、早苗。」


『こんばんは。お昼振りね、遥希くん。』


『ん、やっとこの時間来た。』



そう相手は由紀と早苗だ。

昼間由紀から出た『また夜ね。』と言う言葉はこれにつながる。

初めは通信アプリのグループの招待が来ただけだった。折角誘われたことだしと参加をした瞬間、彼女達からグループ通話が来たのは流石に驚いた。

それから俺のバイトが無い日には必ず二人は電話をしてくるようになる。

彼女達の態度から確かに良好な関係を築いている自覚はあるのだが、果たして恋人同士の会話に俺が加わって良いのだろうか?

昼は二人の逢瀬の時間を俺が割り込み、そして夜も、となると正直言って俺、邪魔じゃないか?



「なぁ、二人共。おれがトークに混じるの邪魔ーーー」


『『じゃない(わ)』』


「お、おう、そうか。」



二人の勢いに気圧され声が上擦った。

次の言葉を紡げずにいると、二人の声のトーンが落ちこちらを伺うように話し出す。



『ーーーやっぱり、こうやって頻繁に電話するのは遥希くんの負担になってるのかな?』


『遥希、イヤ?嫌い?』



クーンと力無く鳴き、耳がペタンと下がった二匹の仔犬の幻覚が見えてくる。

そんな悲しそうな声に耐え切れず、俺は即時否定する。


「全然負担じゃないし、イヤでも嫌いででも無い!!」


『『ーーー本当?』』


「本当!」


『『じゃあ好き?』』


「あぁもちろん、すーーー!!!?ス、トッーーープ!何言わせようとしてんだ?!」


『チッ』


「コラァ、誰だ舌打ちした奴は!!」


『ーーーこれはリップ音。チュッ、チュッ。っん、由紀。』


『あっ、うーん。こら早苗。今はダメよ。あっ、、、』



ゴソゴソと衣服が擦れる音がする。



「二人でナニしてんの?!ってか一緒に居るなら各自スマホでグループ通話すな!

いや、そもそもイチャついてる時電話すな!!」


『ノンノン。サプラーーイズ。』


『ふふふっ。冗談よ。今日は一緒に居ないわ。早苗に合わせただけよ。』


『ん、遥希の反応面白いから遊んだ。』


「遊ぶなーー!、、、はぁ、はぁ、はぁ。。。。なんか疲れる。」


『今日も遥希はキレッキレッ。』


『もう早苗ったらいけない子ね。』


「いや由紀も同罪だからな。。。」



完全に二人におちょくられている。

と、まあこんな感じに毎回ツッコミが必要な会話を繰り返しているわけだが。。。

一日の終わりに全ての気力体力を放出する為、俺の身体は電池切れの如く徐々に睡魔が襲ってくる。

すると彼女達はそれを察したかのように、二人だけでゆったりとした会話を始める。

俺はスマホを切らずその耳触りの良い声をBGMに目を瞑る。



夜は嫌いだ。

でも今は何故か心地良い。 



ーーーそう心地良いが、それが無性に怖くなる。



ーーーーーーーーーーーーーーー



誰も居ない真っ暗な部屋で一人、布団を頭まで被る。

何も聞きたくない。

だが耳に音が届く。

一定のリズムで何かが軋む音がする。その音に合わせ女の嬌声が漏れ出ている。

聞こえないように掌で強く耳を塞ぐ。

音は一向に止まず更に大きくなる。

すると今度は男の声が響く。

酷く甘い盲目的な言葉。



『お前以外ーーーーー』



男が何かを言い切る前に優しく強い声がそれを遮った。



『遥希、大丈夫。』


『遥希くん、私達が居るよ。』

           


いつの間にか耳を塞いでいた掌は温もりに包まれ、被っていた布団は取り払われ温かいクッションに頭を委ねた。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



「うっ、うーん、ふぁ〜〜。」



目を開く。

すると自然と口が大きく開き欠伸がでてきた。

時計を見ると10分程時間が飛んでいた。

いつの間にか意識を手放していたのだろう。

いつもの嫌な夢を見てた気がする。その証拠に寝汗をかいていた。

だが不思議なことにそれ以外の不快感は無く身体は軽く、気分も悪くない。 

いつもなら気分を悪くしトイレに直行だっただろうに。


意識を切り替えスマホの画面を見る。すると通信アプリは起動したままで通話が切れていないことが分かった。



『あら、ごめんなさい。起こしちゃったかしら?』


『私達、うるさい?』


「いや大丈夫。ってか俺の声が途切れたらいつものように切ってくれて良かったんだぞ。」



いつもは電話の途中で力尽きてしまう俺に気付くと二人は静かに通話を終了している。



『そのつもりだったのだけれど遥希くんのうー、うーって声が聞こえたから気になって。』


『ん、私達をオカズにナニでもしてるかと思って聞き耳立ててた。グフっ。』


「っっ!!変な想像するなっ!」


『慌てる所がまた、、、ふふふ。』


「やめろっ、俺を変態キャラにするなっ!」


『遥希はとっくに変態キャラ。』


「いや、どっちかっていうと早苗の方がそうだろが!」


『『ふふっ。』』


「な、なんだよ。」


『何でも無い。ただ遥希が変わらずキレッキレで満足。』


『そうね、元気いっぱいで良かったわね。』


とホッとしたような声をした。

だから夢に魘される俺を心配をしてくれていたのだと気づいた。ーーー揶揄われるのは少し不満だがそんな些細な気遣いに心が温かくなる。



「ありがとう。」



そう言うと彼女達は優しく笑っていた。



そのまま夜が更けて行く。

たわいも無い話に時々口を挟みながら微睡の中へと沈んでいく。



『、、、ーーーいいかしら?』


「、、あぁ。」


『遥希ーーーー。』



遠くで何か問われたが既に意識はほぼ無く生返事をする。



『『おやすみなさい。』』



そのまま完全に意識を手放した。



ーーーーーーーーーーーーーーー




ピピピッ、、、、



アラームの音で目が覚め身体を起こす。

最近は特に目覚めが良い。顔色も良く身体もすこぶる快調だ。


その要因は何かと考えると、やはりあの二人との交流だろうか。

生徒会室での昼寝に寝る前のグループトーク。

この二つをするようになってしっかり睡眠を得られるようになったのは確かだろう。


以前俺に救われたとか言っていたけど、助けられているのはどっちだか。



この燻る感情は何と呼べば良いのだろう。


そして、、、このまま変わらずに居たいと思うのはわがままだろうか。。。




ピコンっ


メッセージが届いた。



『おはよう。ーーーこれが早苗の住所ね。金曜日のお家デート楽しみにしてるね!』


『ん、楽しみ。』



それと共に昨晩半分意識が無くなった時の会話を添付してきた。


〜〜〜〜〜〜


『今週金曜日祝日じゃない?だから三人で集まりましょう。場所は早苗の家ね。遥希くんはいいかしら?』


『、、あぁ。』


『遥希ナイスー。』


〜〜〜〜〜〜



また、やられた!!!?



こうして金曜日の予定が決まったのだった。


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