第27話 新たなる脅威 2

【ハゲ視点】


 手下が走って来た。


「ジンさん、客が来た。急いできてくれ」

「タヌキか?」

「そうだ」

「やっぱりか、すぐ行く」


 地下を登って戻るとA市市長小池太一コイケタイチが家の中に上がり込んできた。

 俺達は裏であいつの事をタヌキと呼んでいる。

 何かを企んでいるようなたれ目と、太った見た目はタヌキの置物のようだ。

 性格もタヌキそのものだ。


「遅い!ワシを待たせるな!」


 ジンは笑顔を作り丁寧な対応をした。

 まるで二重人格、いや、三重人格だ。

 タヌキは服を脱ぎ捨てながら地下室へ降りていく。


「失礼しました。今日は朝まで楽しんでいかれますか?」

「ふん、当然だ!ワシのおかげで貴様は良い思いを出来ている!もっと対応を考えろ!」


「はい、私の部下を秘書に付けましょうか?魔道スマホで連絡を受けてから出迎えの用意をすれば、小池さんを待たせることも無くなるでしょう」

「いらん!次からはこいつに連絡させる!」


 後ろにいた護衛にあごをしゃくって合図を出す。

 タヌキは馬鹿なのか?

 何度も事前に連絡をよこすように言った。

 今もジンが遠回しに事前に連絡をよこすように言ったが一切行動を変えず、人のせいにして怒り出す。

 

 

「では、護衛との連携を密にしましょう。さあ、お楽しみください」

「その前にこいつを拉致する。飼う為の地下室を準備しろ」


 後ろにいた護衛が魔道スマホを取り出す。

 魔道スマホにはまるで雪女のような女が映っている。

 あまりにも完成されすぎていて絵と見間違えるほどの美人だ。


「亜人、ですか?」

「そうだ。ユキナだ。こいつをワシの物にする」

「この地下室に入れるのではなくですか?」


「ワシの物にする。ワシの家にも地下室を作れ」

「はい、それはいいのですが、費用が掛かります」


「金なら市から出す。今すぐ取りかかれ。レディーキラー1000本も用意しろ」


「はい、市長専用の地下室とレディーキラー1000本でよろしいですね?」


 ジンはタヌキに確認を取った。

 タヌキは言った次の日に言う事が変わる。

 だから怒られながらでもこうするのが後々楽ではある。


「ふん、何度も言わせるな!すぐに始めろ!」

「拉致はどうします?」

「Aランク冒険者を囲い込んだ。そいつを動かす」


「……」

「不思議か?Aランクの欲しい物を差し出す事にした。女だ」

「なるほど、その方のおもてなしも必要ですね」

「ワシが終わった後に来る」

「かしこまりました」


 地下室に降りると、タヌキを見た女たちの顔が引きつった。


「今からワシが可愛がってやる!言う事を聞かない者は気絶するまで追い詰めてやる!」


 女がガタガタと震えながら言った。


「「よろしくお願いします。私を可愛がってください」」


「そこのお前!ワシの右だ!お前は左、お前は椅子になれ。お前、ワシにまたがれ。すぐに動け!」


「「ひいいい!」」



 俺とジンは男を連れて地下室から上がった。

 明日の朝までタヌキは出てこない。

 ジンが椅子に座るとメガネを外した。


「タヌキは扱いやすくて楽だ」

「えええ!!あれでか!」

「クズは扱いやすい」


「……分からねえ。ジンさんは頭が良すぎてついていけねえぜ」

「クズは扱いやすいの意味が分からないか」

「ああ、わからねえ」

「今は市同士で平和な戦争が起きている。そのおかげでクズを見分けやすくなっただろ?」

「平和な戦争?いや、わからねえ」

「『クズが扱いやすい』と『平和な戦争』の意味が分からないか」

「ああ、分からねえ」


 ジンの頭で考えている事が分からない。

 俺とは頭の出来が違う。


「教えてやる。平和な戦争からだ。5年前、異界とモンスターが発生して人が大量に死んで国民は国を批判した。更に行動はエスカレートして政治家や官僚が殺され始めた。その批判を地方に逸らすため地方分権を進めた。ここまではいいか?」


「何となくは分かる」

「だが国が与えたのは形だけの見せかけだ。一度手に入れた利権を支配者は中々手放さない。すると今度は市長がSNSやニュースを駆使して声を上げるようになった。それでやっと地方分権が進み始めた」


「まだ分からねえぜ」

「焦るな。でだ、地域同士で人を奪い合うように改革競争が進んだ。日本の失われた30年は終わり、めでたく市が人を奪い合う平和な戦争が始まった」


 モンスターの発生と地方分権で人都合がいいんだ持った。

 興味なくただその場所に住んでいればモンスターに殺される。

 良くも悪くも住む地域の条例次第で大きく生活は変わる。

 無能な市長の元にいれば死ぬ可能性はぐんと上がる。

 選挙と人の移動により無能な政治家は職を失った。


「平和な戦争の意味は分かったぜ」


 ジンは時代が変わった事を言いたかったのか。


「次はクズが扱いやすいの意味だ。逆に考えてみろ。クズの逆、真っ当な市長は志で動く。俺達の入り込む余地がない。真っ当な人間は利権や女、金では動かないから厄介だ。歴史を学んでも同じことがあった。維新志士は金や地位で動かず志で動いた。だから権力者にとって厄介で思い通りにならなかった」 


「そうか、金と女、権力が好きなタヌキは確かに扱いやすい」

「腹黒タヌキは平和な戦争が起きている今でも人を騙して市長の座を維持し、俺達の差し出した餌に喜んで食いつく。都合がいいんだ」


「ジンさんの言った意味が分かったぜ」

「ああ、黒いタヌキは都合がよくて扱いやすい。金と女で動く。楽で扱いやすいだろう?」


 今日本は志を持った奴が地方を活性化させている。


 小池太一はその逆、日本の失われた30年の政治を今も続けている。

 市民を化かすように騙して選挙に勝ち続ける化けだぬきだ。


 二重陣。

 都合のいい市を嗅ぎ分ける嗅覚と人の心を読んで人心を掌握するうまさを持っている。

 自分の家すら放火して『ポーションを作っている僕は医師会に恨まれている』と訴えみんなが信じた。

 その後ポーションを作るライバルを放火し、場合によってはモンスターに殺されたように見せかけつつ暗殺して暴利をむさぼる奇術師だ。


 小林太一、二重陣、この2人は出会ってはいけない2人だったんじゃないか?

 俺は寒気がして震えた。


 だが、だからこそジンについていけば間違いはない。

 敵に回さない限り俺は安全だ。


 東山あかり・ユキナ、この2人は終わった。

 死ぬまで奉仕し続ける奴隷になるだろう。

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